短く小さく+左右の歪み修正

顎を小さく短くし、左右の歪みを修正した、いわゆる顎の変形治療のモニターさんです。術後の写真は、術後3か月後です。

手術計画としては、単に顎先を削ることを行うのではなく左右の幅も小さくし、その際に左右差の調整も行いました。つまり、顎をV字にカットし、先端を削り取り、顎の先端の筋肉は、骨に縫合すると言った方法です。このような場合、顎の総合的な修正術となりますので、術前においては、顎の骨のうち、どの部分がそれらの主訴に影響していて、そしてその部分を修正すると、どのような形に落ち着くのかということを、予め予測しておくことが必要になります。そのために、顔面のレントゲン検査と、場合によっては歯科クリニックでのパノラマ撮影や、歯列モデルの作成などの検査を行います。さらに、その部分の骨格を手術で修正した場合、周辺の部分との兼ね合いがどのようになるかということも、考慮する必要があります。したがって、顎先の部分の修正を希望するといった場合でも、場合によっては、顎先の手術のみでは術後の状態が必ずしもいい状態になりそうにない場合が発見されることがあるということです。

こちらのモニターさんの場合には、顎を単純に短くするだけだと、どうしても顎の幅が太くなって、輪郭が四角くなってしまうことが予想されました。
そこで、顎の先端部分だけでなく、エラの前方を含めて手術することになりました。また、術前の写真から、顔面の軸が向かって左寄りなのにもかかわらず、顎の先端は向かって右が一番飛び出しているということもわかります。したがって、顎の先端の長さは向かって左側の切除は小さく、逆に右は大きくする必要がありました。さらに、顎の前方への突き出しについては、やはり向かって左側よりも右側のほうが強く、やはりその部分も、左右の切除幅が異なります。つまり、平面で考えるだけでなく、立体的な思考をもって、それぞれ骨の切除幅を決定する必要があるということなのです。

ところで、顎を短くしたい、あるいは引っ込めたいという患者さんの場合には、顎先の問題ではなく、受け口を伴う歯並びが原因の場合が散見されます。受け口が原因の場合には、顎先自体はそんなに問題がないにもかかわらず、受け口の症状によって、顎が長く見えている場合が多いと言えます。つまり、受け口の人特有の下あごの形が、顎を長く見せてしまっているということです。その場合には、受け口の手術を受けたほうが、顔面のバランスがより整った状態で、術後の仕上がりを迎えることができます。
具体的にどういうことかと言うと、受け口の症状のある方は、下唇のすぐ下の部分に陥凹がなく、前に突き出した状態であるということです。このことで、正面から見ると、下唇と顎先の間に影ができず、顎が前に突き出して見えたり、長く見えたりするということになります。こちらのモニターさんは、幸いにして受け口の症状はなく、咬み合わせの問題がなく、歯並びもきれいな状態でしたので、顎先の手術と顎の骨自体の幅の修正手術にて、対応が可能でした。

しかしながら、当然のことですが、顎の長さを気にして手術を希望する患者さんの中には、受け口と長い顎の両方が存在するケースが多いのも、現実です。
その場合には、やはり、顎を短くする手術と受け口の修正手術を、同時に行う必要があります。ただし、それも患者さん自身の希望によるところにはなります。それは、顎の長さと言うのにも個人差があり、一律にどこまでが正常で、どこからが異常というものがはっきりしないからです。一般論としては、鼻の下から唇の中央までと、唇の中央から顎先までの比率が、日本人の場合には約1対1.7、欧米人の場合には約1対2とされています。しかし、やはり顎は小さくて短いのが、最近のトレンドのようで、理想的な顔貌を描いているとされるアニメなどでは、この比率は1対1.2くらいが標準のようですので、やはり小さな顎を求める患者さんが多いというのが現実です。

そこで、どこまで顎を小さく短くできるかということになります。これは、他の手術同様、合併症を考えなければ、どこまでも小さくできます。しかし当然ですが、合併症を考慮すれば、自ずとその限界というものがあります。その合併症とは、歯根の損傷と神経麻痺です。
歯は、顎の骨から生えてきます。つまり、顎の骨に支えられているのが歯であって、その顎の骨に支えられている部分を、歯根と言います。顎の骨には、その中に歯根が存在し、歯根を損傷すれば、歯を支えることができなくなり、最終的には歯が失活し、抜けてしまうことになります。この歯根は、下顎骨の場合、その途中まで存在していて、顎の骨をたくさん切除しすぎると、その時に損傷してしまいます。
神経麻痺は、オトガイ神経の麻痺です。このオトガイ神経と言うのは、前から数えて4番目か5番目の歯の下にある、オトガイ神経口という、骨に開いた穴から唇の方向に出てきます。このオトガイ神経は感覚神経で、下唇の感覚を司っています。この神経を損傷すると、下唇の感覚がなくなります。顔面神経のような運動神経ではありませんので、唇や顔が歪んでしまうということはないのですが、やはり多少の不自由を感じるものです。そしてこのオトガイ神経が骨から出てくるところであるオトガイ神経口は、手術の時に、大切な目安としても、利用されます。それは、このオトガイ神経口よりも下には、歯根が存在しないということです。正確に言うと、オトガイ神経口に連なる下顎神経が顎の骨の中を通って行く通路である下顎神経管よりも下には、歯根が存在しないということになります。つまり、オトガイ神経口よりも下の部分であれば、切除しても歯根を損傷することはないのです。したがって、手術の際には、このオトガイ神経口と、そこから出ているオトガイ神経を、直接目で見ながら手術を進めることになります。
このようにオトガイ神経口は、顎の骨を切除する時の骨切り線を、最終的に決定する時の目安となるものなのですが、そこよりも奥の部分である下顎神経管の走行が、それよりもやや下のほうに曲がっていることがあります。そこで、下顎神経の切断を防止するために、通常、骨切り線は、オトガイ神経から約5㎜、下のほうに設定するようにと、欧米の教科書には記載があります。
このように、歯根の損傷やオトガイ神経の損傷に注意して行われる顎の手術なのですが、神経線維の性質上、目で見えた時には常に障害を考えなくてはならないという現実があります。これは、オトガイ神経口を確認するためにそれを露出させた時点で、麻痺のことを考慮する必要があるということです。したがって、この、オトガイ神経麻痺は、100%防止することは不可能なものであるということです。では、どの程度なのかというと、このような手術の場合、約2から3%の人に、ほんの一部分ではあるのですが、オトガイ神経麻痺を残してしまうことがあります。勿論、下唇全体の感覚麻痺ではなく、ほんの一部の麻痺も入れた確率です。これを、重大な合併症で高い確率と見るか、軽度で低い確率と見るかは、患者さん本人の判断であることは、いうまでもありません。

副作用・合併症:骨の脆弱化
費用: 手術費用90万円+全身麻酔17万円+術前検査3万円:総額110万円