エラの角から前方まで

20代の女性で、エラ張りに伴う四角い輪郭の改善と、小顔を希望して手術を受けたモニターさんです。手術の術式は、エラの角から顎付近まで大きく長く骨を切り取り、さらに骨を薄くするように、外板切除と言う手技を行っています。

エラの手術といえば、下顎角という、いわゆるエラの角の所の骨を切除する手術が一般的に行われてきました。

しかし、この部分の切除だけでは、正面から見た時の小顔効果は非常に限られたものとなってしまいます。そこで、顔の正面から見た時の効果をしっかりと出すためには、エラの角の部分だけでなく、顎付近までの手術が必要です。そこで、骨を切り取る部分を、エラの角から口角あたりまで延長するようになりました。しかし、その方法では、取り出す骨片の先端が、ちょうど、おとがい神経のすぐ下に来ます。そのため、骨片を取り出すときに、おとがい神経を引っかけて損傷したり、展開するために引っ張りすぎて切断したりするリスクが高くなります。また、この方法の場合は、下顎骨の全ての層を切り取ることになるため、下顎骨の外力に対する強度が、大きく失われます。そこで、下顎骨の幅を小さくするために、横に張り出した骨の厚みを取ってやるという考え方の下、外板切除と言って、下顎神経管や歯根を避けて、下顎骨の外側の部分を、斜め方向に切り取るという方法が考案されました。外板切除の場合には、内側の骨である内板が残っているため、下顎骨の強度に対する影響は少なくなっています。
こちらのモニターさんは、エラの角の部分は、これまでの全層切除という方法を用い、前方の、おとがい神経口付近までは、外板切除を行っています。

現在の外板切除法の元である、「アングル・スプリッティング法」という手術法が 、1990年代の後半に流行しました。

この方法は、正面から見た時のエラ削り手術の効果を出すことを目的として、開発されました。この手術は、下顎の骨のエラの部分の中でも、外側にある骨皮質である、外板という部分を、斜めにスライスするような形で取り除く方法です。まさに、エラの部分の外板切除です。この方法は、症例によっては正面からのエラ削り効果が非常によく出て、顔の幅が小さくなることで、それまでの方法でのエラ削りでは、満足のいく効果が出ないと思われる症例にも有用なものでした。また、下顎骨の裏側に大きな操作を加えずに済むため、手術自体の侵襲も抑えられ、切った骨の骨髄も、頬の方(外側)を向いているので、術後の圧迫止血も容易であるなど、いろいろな利点がありました。さらに、手術侵襲と止血が容易なことから、術後の腫れも少ない傾向があり、患者さんにとっては、ダウンタイムの短い、非常に楽な手術法と言えました。ちなみに、この手術法の発明者は日本人の美容外科医です。しかし、この方法は、エラの角の部分に対しては、かなりの習熟がないと、効果が今一つというものでした。

しかしながら、この「アングル・スプリッティング法」が普及するにつれ、いくつか問題点が出てきました。そのうちの一つは、顎の骨の形がギザギザになってしまうことです。

このギザギザは、外見上はわからないのですが、歯科処置の際のレントゲン検査などでは、しっかりと検出され、歯科医を驚かせたりしました。このギザギザの原因は、術式そのものの性質にあります。この手術では、骨を斜めにスライスする際、線状に並べるようにしてドリルで骨に穴を開け、そこから骨用のノミを使用して、それらの穴をつなぐように骨を割って、切除する骨を取り除きます。そうすると、もうお気づきかと思いますが、切り取られた後の骨の縁は、のこぎりの歯のようにギザギザになるのです。
このギザギザは電動ドリルに付けたボール状のバーで削ってしまえば、滑らかになるのですが、口の中からの手術で、しかも奥の方にあるため、高速で回転する器具を使用するのは、危険な部位と言えます。無理に入れて使用すると、バーが周囲の肉を巻き込んでしまって、危険だからです。特にこの部分の近くには、手術中の頭の向きによっては、外頚静脈及びその枝があり、バーで巻き込んで傷つけると、止血が困難です。
さらに、このギザギザは、削って滑らかにするのが、結構難しいとされます。どういうことかと言えば、骨を斜めに切っているため、この部分は、骨の厚みが非常に薄く、削りすぎて、エラがなくなってしまう、あるいは、エラが前方に移動して、エラの角が口の横に来てしまうということです。こういったリスクを回避するには、削って滑らかにしないほうが、外見上は綺麗です。
以上のような理由から、この手術は、顎の骨の形がギザギザになるという問題を残したままとなってしまったのです。

アングル・スプリッティング法のもう一つの問題点???

「アングル・スプリッティング法」は、エラの幅に注目し、それを改善させるという目的を達成させることができます。そういった面において、エラの手術としては、画期的な方法だったと言えます。

しかし、前述したように、顎の骨の形がギザギザになってしまうという、欠点もありました。その欠点は、触れてみないとわからない、つまり、外見上はわからないということで、美容的には大きなものではなかったとも言えます。しかし、この、「外見上は分からない」ということが、もう一つの問題点によるものなのです。いや、問題点というよりも、原著では利点とされていますが、手術の効果を考えると、問題点としていいかと思われます。
それは、咬筋が萎縮しないということです。咬筋とは、奥歯をかみしめた時に力コブができる、エラの所の筋肉です。もうお気づきと思いますが、この筋肉は、エラの骨と同じく、顔の幅を構成しています。これが萎縮しないということは、手術の効果が弱くなるということです。つまり、咬筋が大きな症例では、十分な効果が得られないことです。外板(エラの外側の骨皮質)を取り除くために、手術中に外された咬筋は、術後、残った内側の骨皮質にくっつくことで、萎縮せずに保存されてしまうのです。このことは、自然でなめらかな外見上の輪郭を保つという意味ではいいことです。特に、エラの骨がギザギザになるこの術式では、ギザギザを咬筋が覆って隠してくれます。しかし、咬筋が委縮しないということは、顔の幅に関しても、その分、効果が少なくなるということです。咬筋が委縮しないと効果が少なく、咬筋が委縮すればギザギザが出てくるといったジレンマが、この術式には存在します。

アングル・スプリッティング法は、下顎骨の強度を保存できる

アングル・スプリッティング法は、利点は、顔の幅に影響している、エラの骨の、横向きの張り出しを改善できるということと、内板を残すことで、下顎骨の強度を保存できるということです。そして、欠点は、骨のギザギザと、咬筋の萎縮が得られないということです。当院では、利点を生かし、欠点をなくしていこうとしました。

当院の方法は、具体的には、これまでのエラの角に対する全層切除と、アングル・スプリッティング法を組み合わせたものです。咬筋の委縮を得るためには、エラの部分は外側の骨皮質(外板)だけでなく、内側の骨皮質(内板)も切除しないといけない。しかし骨の横への張り出しを減少させるには、外板の切除も行わなければならないということですので、エラの角に対する全層切除と、アングル・スプリッティング法を組み合わせました。まず、エラの角から顎付近まで、細長く骨を外板から内板まで全層を細長く切除(全層切除)します。その後、外板を、「アングル・スプリッティング法」に準じて、やはりエラの近くから顎付近まで取り除きます。このようにすると、エラの角の部分は、最初の全層切除による切除面が保たれ、削って滑らかにしやすい前のほうは、やはり削れます。そのことで、ギザギザにならず、骨の外側への張り出しも減少し、しかも術後は咬筋の委縮も得られるのです。勿論、全てを全層切除で行うのに比べて、下顎骨の強度も保たれます。

咬筋が発達でエラが突出

エラの部分の大きさに、骨とともに大きな影響のある咬筋は、物を噛むときに使用する筋肉です。この、咬筋が発達していると、やはり、エラが突出して見えます。物を噛むときに使用する筋肉は、この他に、こめかみの筋肉である側頭筋と、エラの内側についている内側翼突筋があります。これら3つの筋肉が共同して、下顎を上顎に持ち上げるようにして、物を噛むという動作が成り立っています。この咬筋が発達する原因ですが、強く物を噛む癖、睡眠中の歯ぎしり、ストレスなどによる噛みしめなどがあります。また、硬いものを習慣的に噛むことによって、咬筋が発達します。

このような咬筋ですが、エラの骨の手術の術後には、一般的に、萎縮する傾向があります。アングル・スプリッティング法の場合には、この萎縮という現象は見られないということですが、エラの骨の全層切除の場合には、術後、咬筋が徐々に萎縮していきます。理由としては、付着する骨の一部がなくなることにより、そこに付着していた筋肉の繊維が使われなくなって、廃用性萎縮を起こすためだと考えられます。この廃用性萎縮によるエラの縮小効果を利用した治療は、ボトックスの注射があります。ボトックスの注射は、約2か月でその効果を発揮します。しかし、手術の場合には、術後半年から1年間かけて、咬筋が徐々に萎縮してきます。私の経験上の感覚では、術後3か月で萎縮量のほぼ60%、術後半年で80%以上が完了すると考えています。手術での咬筋の萎縮は、ボトックスによる場合よりも遅いということです。この理由については、ボトックスの場合には、注射した部分の筋肉を完全に麻痺させてしまうのに対して、手術の場合には、骨を引っ張ることはなくても、麻痺はしていないためだと思われます。
また、この咬筋ですが、手術中に一部を切除すべきかどうかというのが、学会でも話題になったことがあります。私の意見は、「切除すべきでない」というものです。咬筋は、切除しなくても委縮してくるからというのはもちろんですが、手術中の咬筋の切除は、腫れが大きくなり、なかなか引かないということがあります。さらに、手術中には既に咬筋には腫れが発生していて、その腫れのために、切除量の調節が難しく、左右差や咬筋の変形を来してしまうということからです。実際、えら削り手術を他院で受けて、術中に咬筋の切除を行われて、えらの部分が咬筋の変形によって凸凹になった患者さんの修正手術を、何度も行いました。したがって、私の方針として、咬筋については手術中に切除をせず、自然な萎縮が得られるエラ削り手術の術式を採用するということにしています。どうしても、早く咬筋を萎縮させたいという希望がある場合には、ボトックスの注射を併用しています。

医療広告限定解除要件
副作用・合併症:唇の一時的痺れ
費用:手術90万円+麻酔・検査20万円=110万円