第33回日本美容外科学会総会・第109回学術集会 in 京都

6月のJSASとは違って、形成外科系のJSAPSのほうです。
私たちのような開業医向けというよりも、やはり、美容外科でこれから開業しようとしている形成外科の勤務医向けの内容です。


というのは、発表されてから何年も経つような内容の、レクチャーやシンポジウムがやたらと多い学会だったからです。やはり、大学や病院勤務医の先生の参加が多く、発表も彼らが主体なので、どうしても保守的にならざるを得ないのは仕方がないことなのかもしれません。さすがに、学会でのプレゼンテーションには慣れているようでしたが。
とはいえ、私は全く否定的な考えではありません。こちらのJSAPSは、JSASと違って、手術や処置の術後の評価を、きっちりとしている発表が多いのです。たとえば、症例写真の撮影角度やバックの色など、術前と術後をしっかりと揃えたものを発表しています(中には酷いものもありましたが)。さらに、術後の長期経過を、きちんとフォローアップしています。また、学術的な考察を理論的に行っている点は、JSASにはない、学問的な真摯さがにじみ出ています。
1日目の午前のパネルで、「口もとの若返り」というのがありました。その中で、脂肪注入についての新しい知見が発表されていました。脂肪組織の中には、脂肪細胞だけではなく、その大元である幹細胞から、脂肪細胞になる手前の前脂肪細胞までが含まれています。それらの中から、成熟してしまった脂肪細胞は、できるだけ取り除き、幹細胞から前脂肪細胞までを集めて注入すると言うものです。脂肪吸引の量は、捨てる分があるので多くなるのですが、生着率は顔面で80%もあります。
私はこれまで、脂肪注入の際、吸引した脂肪を遠心分離して、下層の液体成分と上層の脂肪を取り除いてから、WPRPFと幹細胞を添加して注射していました。したがって、この発表は、私がこれまで行っていた脂肪注入が、非常に生着率が良かったことを、さらに科学的に証明したのもであると言えます。また、この方法は、幹細胞を薬剤を使用して分離する必要がない代りに、ミキサーのようなホモジェナイザーという器械で脂肪組織を砕きます。その分、時間の短縮になりますので、脂肪注入がより早く行えるというメリットもあります。また、細胞外マトリックスも、ある程度保存されていますから、脂肪の生着率も高いのでしょう。
この方法は、当院で行っている、幹細胞・WPRPF併用脂肪注入の、途中産物であるコンデンスリッチファットを使用する方法ですが、この方法と、これまでのWPRPF添加を併用すれば、もっと生着率が上昇し、100%も夢ではないと思われます。
ちょっと毛色の違う発表もありました。痩身治療に対するストラテジーです。沖縄の先生の発表だったのですが、内臓脂肪にフォーカスして、全身的な痩身を達成すると言うものです。いわゆる、分子栄養学的アプローチです。アメリカでは、分子栄養学は、アール・ミンデル氏のビタミンバイブルという本が既に30年以上前に出版されるほど、一般になじみのある物です。さらに、Clinical Nutrigist(臨床栄養学者)なる者が、医師とともに病院のベッドサイドを回診するほどです。医療費が国際的な比較の上で激安の日本では、このような積極的予防医学が認知されておらず、クリニックで行っても採算に乗らないため、あまり普及しておりません。予防医学と言えば、人間ドックをはじめとする、疾病の早期発見のための消極的予防医学です。
発表を聴いていると、やはり、「うちでは導入できないなぁ」と思いました。やはり、病気になって困ってからでないと、患者は医者の言うことなど聞かないのが、日本人なのです。幸いにして、内臓脂肪は、皮下脂肪よりもカロリー制限に良く反応しますので、とりあえず、うちのクリニックでは、カロリー制限を主体に進めて行きます。今、私は、「南クリニック式過激なダイエット」を考案中です。脂肪吸引や脂肪溶解注射・プラズマリポなどで、皮下脂肪を減少させると、安心してカロリー制限をしなくなる患者さんも多いからです。必要な栄養素をしっかりと摂取させつつ、体重の減少を図ることは、非常に困難ですが。
最終日の最後のパネルは、PRPについてです。座長の土井先生はうまく仕切っていたのですが、何しろ、フロアーの参加者がほとんど、キットを納入する業者の言うとおりにだけしか、診療を行っていたいようで、あまり面白い質問が出てこなかったのが、少し残念でした。
PRPでは、血小板の濃度が200万を超えると、非常に良い結果が得られるというのは、ためになる知見でした。ただし、当院のW-PRPFは、8倍から10倍濃縮しますので、血小板数が20万から30万あれば、十分にこれを満たせます。
そして、成長因子の添加については、会場の雰囲気としては、行うべきではないといった感じでした。シコリや盛り上がりといった、副作用が頻発すると言う理由からです。しかし、成長因子を添加したほうが、明らかに良い結果が得られています。これらの議論の中で、一つ、欠落していたのは、濃度の問題ではなく、成長因子の放出形式の事です。
発表者(パネリスト)を含め、会場の参加者は皆、フィブラストスプレーの粉(溶かす前の粉)を使用しているようでした。しかし、これには重大な問題が含まれているのです。どういうことかというと、この粉をPRPに混入すると、もともと完全な(さらさらな)液体であるPRPが、ゲル化して、ヒアルロン酸のようにドロドロの状態になります。このゲルの中の成長因子は、ゲルが人体の中で溶けるに従って、少しづつゲルから放出されることになります。この状態では、血液中の成長因子の濃度は上昇せずに、ゲルが注入された組織では、高い成長因子の濃度が長期にわたって持続することになります。そうすると、実際に混入した成長因子の濃度以上の効果を発揮するわけです。これを、薬剤の徐放化効果と言います。このことについては、会場内の誰一人として、指摘しませんでした。
その、成長因子の徐放化の話ですが、日本医科大学から、メドゲルという、京都大学の再生医療研究所が開発したハイドロジェル+人工コラーゲンを成分とする徐放化製剤の発表がありました。内容は、フラクショナルレーザーを照射した後に、成長因子含有徐放化ゲルを塗布すると言うものです。結果としては、徐放化によって、成長因子の働きが強くでることが示唆されていました。やっと、形成外科・美容外科医たちも、薬物動態について目を向け始めたということでしょう。
理論的には、徐放化によって、局所の成長因子濃度を十分に保ちつつ、体液によって持ち去られる成長因子の量を最小にすることができると言うものです。つまり、全身的な作用を最小にしつつ、皮膚に対する効果を上昇させることができます。この方法は、固形がんの化学療法や、創傷治癒など、薬剤の副作用を防止しつつ、投与量を増加させることができる方法でもあります。
実際、当院でも、このメドゲルではないのですが、同様の製剤を使用して、成長因子を使って傷の治療を行っています。結果は、周囲の皮膚からの再生が早く、傷の早期治癒が得られています。