第17回国際美容医学会議 6

さて、学会2日目。1日目に2題とも発表は終了し、あとはお勉強だが、盟友の演題は聴かなければならない。フロアーからの質問が少なければ、質問するという援護射撃も必要かもしれない。
 
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とにかく、身支度はきちんと整えて、朝一から学会場へ。
この日の午前中は、Fillerの演題が目白押し。大きな会場で続けて2つのセッションが連続して行われる。それらは午後にかけて再び連続する。二日目はさながらFillerの日。ただし、Fillerと言っても、こちらの分類上は、脂肪注入も一部Fillerとしているのが特徴。これは、Fillerが皮下組織の増量に使用されることが増えたのと、脂肪注入の手技の発展によって、吸収率を抑え、生着率を向上させることに成功し、安定した効果を出せるようになったことによると思われる。たしかに、アメリカあたりでは10年以上前から、Fillerと脂肪注入の比較といった学会演題や論文が多く発表されている。つまり、ヒアルロン酸やレディエッセなどのFillerとの比較がディスカッションに入る演題の場合、脂肪注入はFillerのセッションに分類されていると言うこと。
 
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上は、Marionette lineの重症度分類と、そのタイプ分類についての演題。このような、美容医学というアートが占める割合の多い分野を、定量化して科学的に分析しようという姿勢は、この国の生み出した天才、レオナルド・ダ・ヴィンチに通じるものを感じる。彼は科学者であり芸術家だったし、彼の芸術作品には、多くの科学的定理が隠されている。この場合まさに、「美を科学する」ということが言える。
 
新しいFillerについて。
 
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最近の動向として、Fillerは、永久に残るものは安全性に問題があるというのが定説になってはいる。しかし、やはり長期に効果を発揮させることは、その開発においては大きな課題でもある。そのため、ヒアルロン酸やCMC+ハイドロキシアパタイト(レディエッセ)以上に効果が長持ちするが、吸収はあるという、所謂、ゆっくりとしか吸収されない長期作用型のFillerの開発も、常に行われている。
 
ヒアルロン酸も、その性質の改良によって、吸収速度を遅くして作用期間を延長したり、その組成や分子量の検討によって、適応範囲の拡大に向かって、研究が進められている。
 
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どうやら、ヒアルロン酸については、高分子と低分子で、その作用が異なることが、定説になりつつあるようだ。その境目としては、200キロダルトン。そして、高分子化の手段としての架橋は、BDDEの他に、多くの方法が開発されつつあり、それらがモノフェーズやバイフェーズなど、製品の特長に合わせて、組合されていく傾向にある。私の理想としては、バイフェーズで粒状層が高分子、キャリア層が200KDaくらいのものなのだが、どこか開発しないだろうか?日本の業者は、ヒアルロン酸の売り込みには来るのだが、このような科学的な情報を届けない。せめて、文献くらいは集めて紹介してくれればいいのだが、そう言うと、自分の製品に都合のいい提灯文献ばかり持ってくる。何とかならないものか。
 
さて、友軍の発表だが、Dr. Ruben Oddeninoは、ヒアルロン酸による塞栓症への救急対処法について。
 
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概ね、私の提唱していることと同じ。フロアーから、ヒアルロニダーゼの局注について、生物製剤のオフ・ラベル・ユース(適応外使用)が問題ではないかとの質問があった。官僚的指向は、イタリアの医学界でも問題になっていて、その原因は、医療裁判におけるトンでも判決だというのを耳に挟んだことがある。この質問に対して、Dr. Ruben Oddeninoの答えは、「緊急事態において、現場でできることを、できる限り手を尽くして行うまでだ。それで違法行為とされるなら、私は訴追されても構わない。」というもの。イタリアで、サムライの姿を見る思いだった。
 
エジプトの、Dr. Mohamed El Hadidyの発表は、脂肪注入とヒアルロン酸をはじめとしたFillerの比較検討。
 
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最近まで国が不安定で、今もまだその余波がおおきなエジプト。ヒアルロン酸やその他のFillerは、彼らにとってみれば高価なもの。材料費が安価で済む、脂肪注入での再建治療・アンチエイジング治療の可能性を探るものだった。彼とは、その前の夜も、いろいろな意見交換を行った。ただし、ムスリムなので、使用する薬剤も豚を原料としたものを使えないそうで、なかなか難しそうだ。