ヒップとその周辺(太もも)の強力脂肪溶解注射

強力脂肪溶解注射で、ヒップと太もも上部を集中的に細くしたモニターさんの症例写真です。術前の様子は、ヒップとともに太ももの上部が、他の部分に比べて皮下脂肪が大量についていて、体型的にバランスの悪い状態になっています。そこで、太ももの外側に通常の倍量(片側2か所分、両側で4か所分)、ヒップにも通常の倍量(片側2か所分、両側で4か所分)さらに、セルライト除去を目的として、太ももの後面に通常量の、合計で10か所分の注射を同時に行いました。効果としては、既製服の選択幅が拡がり、着こなしに関しても自由度が増加したとの感想でした。実際の計測上も、倍量注射の箇所については、皮下脂肪の厚みが、通常の状態よりも多くの減少がみられ、その分、外見上の変化も多く発生しています。一つの箇所につき、通常の倍量の注射ができるのは、そこの箇所の脂肪層が分厚いことと、エリア的にある程度広いことが条件になります。ただし、脂肪層が分厚いということは、とりもなおさず、その部分が太いということでもあり、その分、脂肪溶解を行いたいエリアであるところの、表面積も広いということができますので、それらのことは同じことを指しているということもできます。また、こちらのモニターさんの症例写真は、勿論、強力脂肪溶解注射ですから、処置の回数は1回のみです。

術前デザイン

脂肪溶解注射とは文字通り、注射によって脂肪組織を溶かし、その部分の脂肪組織の厚みを減少させる注射です。
その始まりは、2000年代の初めに、南米でフォスファチジル・コリンを皮下脂肪に注射することで、その皮下脂肪が少なくなるということが発見され、盛んにその処置が行われるようになったことに始まります。論文などの出版物としては、スペインの美容外科学会誌の2003年8月号に掲載されたもので、スペイン語によるものでした。著者のDr.ルチアーナ オリヴェーラは、スペイン語での発表であったことと、スペインの学会誌であったために、当時は注目度が低かったと言えます。しかしそれに続いて、国際美容形成外科学会の公式雑誌2003年11月号には、英語の論文が発表され、一躍注目を浴びるようになりました。この論文の著者が、脂肪溶解注射の母ともいうべき、Dr.パトリシア リッテス(Patricia Guedes Rittes,M.D)氏です。このように、現在の脂肪溶解注射に使用する薬液の主成分は、フォスファチジル・コリンです。これは、大豆や卵黄に含まれる、レシチンという栄養素を構成する成分の一部でもあります。現在、クリニックによって、これを前述の論文の通りの原法に則ってそのまま使用するところや、甲状腺ホルモンの誘導体や、ビタミン・アミノ酸・カテコラミン(交感神経刺激薬)などを混合してカクテルを作って注射するところなど、様々です。また、そのカクテルにしても、クリニックによって様々な特徴があります。これらのクリニックによる注射薬の成分の違いは、世界中のたくさんの医師たちが、現在より効果的な方法を模索して改良を重ねているところであり、脂肪溶解注射自体がまだまだ進化を続けているからです。

脂肪溶解注射が日本に入ってきた当初、この注射は効果が無いという噂が広まったことがあります。この、脂肪溶解注射は効果が無いという噂の元は、2つあります。まず一つ目は、クリニック側の患者さんへの説明不足です。それは、フォスファチジル・コリンの薬液を単体で使用する原法を用いる場合、同じ個所に対して、約2週間から4週間の間隔で、少なくとも3回の注射を繰り返さないと、効果の出現が自覚できないということを、患者さんに対して説明していないことです。そしてさらに、脂肪溶解注射の効果の出現が、少なくとも処置後1か月必要で、最終効果を獲得できるのも、最終処置から3か月以上の期間が必要であるということも、説明しておく必要があります。これらの説明をしていない場合、患者さんにとっては、脂肪溶解注射には効果が無いと感じてしまうのです。
2つ目の理由は、欧米人と比較して、確かに日本人に対しては脂肪溶解注射の効果が少ないことです。これは、欧米人と日本人では、皮下脂肪の構造に違いがあるためです。具体的には、欧米人の場合には皮下脂肪組織がほとんど脂肪細胞で占められていて、それに対して日本人の場合には、脂肪細胞と脂肪細胞の間に入っている繊維状の構造物の占める割合が多いということができます。フォスファチジル・コリンは、脂肪細胞に対してその細胞膜に働くと同時に、内容物である中性脂肪を水溶化します。そこで、このような働きのあるフォスファチジル・コリンが、繊維質の多い皮下脂肪組織の中に注射された場合、効力を発揮する脂肪細胞に到達しづらく、その効力を十分に発揮することができないのです。こういった欧米人と日本人との脂肪溶解注射に対する反応の違いにもかかわらず、患者さんに対する説明時に欧米人の症例写真を見せるということも、誤解を生む一つの要素となっていました。

皮下脂肪組織に関しては、その構造を知っておくことが、より効果の高い脂肪溶解注射を開発するのに、大きな助けとなりました。一般的に脂肪組織と言うと、そのほとんどが脂肪細胞でできていて、脂肪細胞に対して薬剤を作用させれば、皮下脂肪の体積が減少するということになります。そしてその作用させる薬剤がフォスファチジル・コリンで、これは正しいことです。しかし実は、そのフォスファチジル・コリンを効率よく作用させることが、脂肪溶解注射の効果を上昇させるために必要なことなのです。と、いうことで、まずは、フォスファチジル・コリンを脂肪細胞に対して強く作用させることを考えました。基本的なことなのですが、一か所に注射するフォスファチジル・コリンの量を増やしました。しかし、この試みは、あまり患者さんの受けが良くなかったようです。それは、一度に処置できる皮下脂肪の範囲が狭くなってしまったからです。
薬剤というものには、その量に安全域というものがあります。そしてその安全域をオーバーして薬剤を投与すると、副作用の発生率が上昇します。フォスファチジル・コリンの副作用は、主に吐き気や下痢などの胃腸症状で、一過性のものであって、重大なものではないのですが、発生すれば患者さんはそれなりに苦しむ形になります。そのため、一度に注射できる量として、ある程度の制限を設けています。しかしそこで、その1か所に注射する量を増やすと、どうしても広い範囲をカバーするには量が足りなくなり、1回では狭い箇所にしか処置を行えないことになります。

そこで次に考案したのが、有効成分であるフォスファチジル・コリンを、できるだけ多くの脂肪細胞に作用させるというものです。これはどういうことかと言うと、それこそ、皮下脂肪組織の構造に大きな秘密があります。脂肪組織というものは、脂肪細胞がいくつかまとまって袋に入っており、その袋がまたいくつかまとまって袋に入り・・・・・、といった具合に、ブドウの房がいくつか箱に入って、またその箱が大箱に入って・・・・・、と言った状態と似通った構造をしています。つまり、フォスファチジル・コリンが脂肪細胞に作用するまでには、多くの袋を通り抜けなくてはいけないわけです。この袋を通り抜けせせるところに、当院の強力脂肪溶解注射の秘密があります。つまり、当院の強力脂肪溶解注射が強力で、1回の処置が通常の脂肪溶解注射の3から5回分の効果に相当する理由は、この脂肪細胞を何重にも包んでいる「袋」を、フォスファチジル・コリンが通過しやすいように、注射液の内容を調整してあるということなのです。

脂肪溶解注射と言えば、最近、フォスファチジル・コリン以外のものを主成分とした注射も出始めました。これらの注射は、主に顔面用として流通しており、腫れが少ないことを売りにしているようです。そしてその成分は、所謂ハーブ成分が多く含まれ、脂肪組織の微小循環に作用して、代謝と上げ、皮下脂肪の組織を減量すると言った作用です。つまり、滞った細胞の代謝やその周辺の循環を促進し、脂肪細胞のサイズを小さくして、その結果、脂肪組織が薄くなるということです。それに対して、フォスファチジル・コリンの注射の場合には、脂肪細胞の細胞膜にも働き、それを脆弱化させ、脂肪細胞自体を破壊してしまう作用を持っています。したがって、フォスファチジル・コリンを含む注射は、所謂、破壊系の脂肪溶解注射、その他のものは、燃焼系の脂肪溶解注射と言った風に考えていただければいいでしょう。そして、脂肪細胞を破壊する注射のほうがその有効性は長く続き、と言うよりも、むしろ一生続くということができ、脂肪吸引と同じ持続性のある処置と言うことができます。つまり、フォスファチジル・コリンを使用した脂肪溶解注射は、効果の持続は加齢による体型の変化を別にすれば、効果は一生もので、まさに、メスを使わない脂肪吸引であるということができます。

脂肪溶解注射は元々、メソセラピーと言う技術から派生したものです。メソセラピーというのは、症状がある箇所に対して、直接治療薬を注射することにより改善を図るというものです。このメソセラピーは、1952年、フランスのDr.Pistorによりはじめられたとされています。しかし治療学の考え方としては、非常に単純な、理論などの介在はあまり必要としない発想ですから、それまでも多くの医師によってなされていた治療だったと思われます。ただし、それなりの治療体系をまとめて一つの治療法として確立したのが、フランスのDr.Pistorであり、その年代が1952年だったのではないかと思われます。そのメソセラピーに関して、現在の適応は、慢性疼痛、しわ、たるみ、しみ、傷の治療、脱毛症、皮下脂肪などです。そしてそれぞれの症状や部位によって、注射の深さや針の太さ、治療周期や薬剤の調合を変えて、改良され続けて今日に至ります。このようなメソセラピーの改良過程で、フォスファチジル・コリンが、局所の脂肪除去に有効であることが発見されたのが、脂肪溶解注射の始まりです。
このような経緯から、初期の脂肪溶解注射は、その脂肪溶解効果を獲得したいエリアをカバーするために、細い針で皮膚に対してたくさんの回数の注射を必要としていました。今でも、そのような注射の方式を用いているクリニックは存在します。その方式は確かに原法に沿った方法であることは事実なのですが、脂肪溶解注射の効果を出すためには必ずしも必要なテクニックではないということができます。むしろ、注射の痛みを、1か所につき何回も感じなければならないというデメリットのみがあると言えるでしょう。そこで当院では、注射を皮膚に刺す箇所は、原則的には1か所につき1回という形として、痛みのある回数と時間を極限にまで絞っています。

そして脂肪溶解注射の注入テクニックによっても、脂肪溶解効果の違いがあることも、解ってきています。それは、初期のメソセラピーから脂肪溶解注射が派生した時のような、脂肪溶解エリアに対してそれを埋めるように多数回の少量ずつの注射をするテクニックではなく、1か所から目的のエリアに対して一気に注射液を注入するほうが、脂肪溶解効果が大きいということが解ってきているということです。このことは、考えてみれば当然のことで、注射液が1か所に集っているほうが、分散しているよりもその有効成分の濃度の低下が緩やかで、しかもその箇所に留まっている時間が長いということができます。これは、小さな氷の塊よりも、大きな氷のほうが、溶ける時間が遅いのと同じ原理です。長時間の有効成分の局所への高濃度の滞留というのは、薬剤の局所での効果を増強することになります。また、前に記載した通り、脂肪細胞を何重にも包んでいる膜を通り抜けるための時間と、それに十分な有効成分の局所濃度を保つことができます。このことがまた、当院の脂肪溶解注射が「強力」である一つの要素ともなっています。