強力脂肪溶解注射 太もも 3番8方向

強力脂肪溶解注射を太ももに行ったモニターさんです。術後の写真は、術後3か月目(最終効果)のものです。もちろん、同じ部分の処置は1回しか行っていません。

脂肪溶解注射とは、元々はフランスやスペインなどの地中海沿岸諸国で行われていた、「メソセラピー」という医療技術が元になっています。このメソセラピーですが、皮膚の中の真皮の直下のそうである、「メソダーム」というところに薬液を注射し、慢性的な疼痛を管理するものでした。このメソダームという層は、他の層と違って血流が豊富ではなく、したがって、薬液を注射した際には、その薬剤が長くそこに留まり、ゆっくりと放出されます。このような、ゆっくりと薬剤が放出されるという性質を利用して、薬剤の効果を長く持続させることを、慢性的な疼痛管理に利用すれば、一度の処置で長時間の疼痛緩和が得られるということです。一般的に、疼痛緩和のために局所に注射する薬剤としては、局所麻酔薬があります。しかし、局所麻酔薬の中で、最も効果時間の長い薬剤であるプピバカインであっても、普通に皮下注射すれば、その効果は3時間を超えません。しかし、このメソセラピーという方法を使用すれば、少なくとも1日、長ければ3日間の疼痛緩和作用を得ることができます。このように、メソセラピーという医療技術は、疼痛管理に関しては非常に有用性があります。また、メソセラピー自体の歴史も長く、約100年を超えるものがあるとされています。

このように、疼痛管理に長い歴史を持つメソセラピーなのですが、脂肪溶解注射として応用されるようになったのは、1990年代の後期からです。

それまでは、メソセラピー自体は、美容医療領域では美肌注射として用いられてきました。疼痛管理から始まったメソセラピーですが、その後は薬剤や手技上のいろいろな改良がなされてきました。注射を行う層も、メソダームだけでなく、薬剤に応じて真皮の浅層から中層にするものや、皮下脂肪層に注射することもありました。それらの改良や新しい手技の開発の過程で、セルライトに有効な薬剤の注射がわかってきました。ちなみに、セルライトの原因である皮膚の層は、まさしくメソダームの層です。このメソダームの層は、血行が悪く、代謝が低下した層だからこそ、注射した薬剤がゆっくりと放出され、有効時間が長いのです。そしてそれが、反対に老廃物やむくみの原因になるものの除去を妨げることにもなり、この層にセルライトを発生させてしまうのです。セルライトに有効な注射成分とは、銀杏エキスとヒアルロニダーゼです。どちらも、組織内の細胞と細胞の隙間の通りをよくする薬剤です。これらをメソダームの層に注射することで、セルライトに有効なことがわかってきたのです。しかし、セルライトが解消したからといっても、皮下脂肪そのものが減少したということにはなりません。つまり、皮下脂肪のサイズダウンは、セルライトとは関係がないのです。

そこで、皮下脂肪を減少させるための注射の登場が待ち望まれていたわけですが、メソセラピー100年余りの歴史の中で、ついに、1990年代の後半に、皮下脂肪の減量が可能な注射液成分が発見されるにいたったのです。

その注射液成分とは、フォスファチヂル・コリンです。このフォスファチヂル・コリンという薬剤は、これまた古くから脂肪肝や高脂血症の治療薬として、点滴や静脈注射用の薬剤として用いられてきたものです。それらの作用機序は比較的簡単・単純で、フォスファチヂル・コリンが石鹸のような役割を果たして、肝臓の中や血管の中の血液中の油脂成分を水分に溶かし、肝細胞の中で代謝されやすくするというものです。もっと専門的に言えば、リン脂質であるフォスファチヂル・コリンが油脂と結びつき、ミセルを形成して水溶性とし、肝細胞におけるグルクロン酸抱合を促進させるということです。しかしこのフォスファチヂル・コリンという物質なのですが、物質の分類上、リン脂質となっています。脂質ということは、油ということで、これは水には溶けません。しかし、フォスファチヂル・コリンは、水溶液として販売されています。つまり、水に溶ける形にしているわけです。欧米ではエッセンシャーレやリポスタビル、韓国ではリポビーンなどという商品名で発売されているものが、これのことです。実は、フォスファチヂル・コリンを水に溶ける形にするために、これらの水溶液としてアンプルやバイアルの中に入って供給されている剤型には、添加物としてデオキシコール酸が加えられて、水溶液となっています。デオキシコール酸は、胆石の溶解剤として知られており、これもまた古くからある薬剤です。
フォスファチヂル・コリンは、最初に発見された時には、卵黄の中のレシチンの主成分としてでした。また、医学の研究が進歩するにつれて、人間の肝臓にもこれが存在し、腸から吸収された脂肪分の分解に関与していることが分かったのです。つまり、フォスファチヂル・コリンは、脂肪分を分解する物質の一つとして位置づけられてきたわけであり、メソセラピーを行ってきたヨーロッパの医師たちからも、これが脂肪溶解注射として効力を発揮するということが、容易に受け入れられたのです。

ヨーロッパが発祥の地であるメソセラピーですが、それは地中海沿岸地方が主体でした。したがって、これは北米には伝わらず、ラテンアメリカと呼ばれる南米に伝わり、そこで脂肪溶解注射として普及しました。

しかし、そこで大きな問題が浮上しました。それは、クリニックでこの注射を行わず、自分で注射をした人々によって、起こされた問題です。自分で目の下の脂肪に対してこの注射を行った人が、それが原因で失明してしまったのです。原因としては、眼球に対して針を刺してしまったことが一番考えられるのですが、どちらにしても、この注射が原因で失明してしまったことは事実です。なぜこのようなことが起こるのかと言うと、南米では医療器具や医薬品の規制が非常にあいまいで、日本や欧米諸国では医師によって注射することしか許可されていない医薬品でも、一般人が比較的簡単に入手できるからです。そしてこのことが原因で、ブラジル政府は脂肪溶解注射の施行を、クリニックを含めて全面的に禁止にしてしまいました。このことに関して、事実がきちんと伝わらずに、「ブラジルでは脂肪溶解注射が禁止になった」という噂として一人歩きを始めてしまい、それが世界中で大きな混乱を招くことになりました。ブラジル政府がとった対応自体が、クリニックを含めての脂肪溶解注射禁止命令だったため、このことは嘘ではないのですが、「脂肪溶解注射は危険だから禁止になった」というのは、まったくもって事実ではなく、「脂肪溶解注射の自己注射が危険」なのであって、クリニックで医師の管理のもとで行う分には、その危険性はそれほどではありません。

このように、脂肪溶解注射の自己注射によって重大な事故が発生し、それに対してブラジル政府が不適切な対応をとったことは、脂肪溶解注射の普及に対して、大きな障害となりました。そればかりか、日本国内において、もっと大きな問題を作ってしまいました。

ブラジル政府が脂肪溶解注射を全面禁止した後、フォスファチヂル・コリン製剤が生産過剰となり、取扱業者の在庫が不良在庫化する可能性が出てきました。そこで彼らが目を付けたのが、日本の市場です。当時、日本ではブラジル政府の脂肪溶解注射禁止令のことは全く知られていませんでした。彼らのうちの数社は、日本語のホームページを立ち上げ、フォスファチヂル・コリン製剤(エッセンシャーレ、リポスタビルなど)の通信販売を開始しました。クリニックに対する通信販売なら特に問題はないのですが、実際は一般向けの通信販売で、誰でも購入できるシステムでした。つまり彼らの通販サイトは、ブラジルで失明事故を起こした自己注射を推奨するものだったのです。しかし最初のうちは、彼らの通販サイトもうまく機能しませんでした。それは、日本では注射器及び注射針の入手が、医師・歯科医師・獣医師以外には困難で、事実上入手不可能だからです。そこで彼らは注射器・注射針の併売も始めました。そこからは、日本での自己注射が一部で流行し、皮膚の壊死や感染など、様々な脂肪溶解注射の自己注射による副作用報告がなされるようになりました。

脂肪溶解注射の自己注射は、ブラジルでの失明事故の例を見るまでもなく、非常に危険なことは言うまでもありません。
日本においても前述のように、脂肪溶解注射の自己注射によって、皮膚の壊死や感染などの副作用が多発しています。では、どうして日本では脂肪溶解注射の薬剤や注射針などが入手できるのでしょうか?それは、日本の薬事法と薬事行政の抜け穴が存在するためです。

日本国内においては、厚生労働省の承認なしでは医薬品を輸入・発売することができません。つまり、海外から輸入したり、工場で作って売ることができないわけです。その医薬品にはいくつか分類があり、薬局で処方箋なしで買えるもの、処方箋があれば薬局で買えるもの、医療機関で注射などとして投薬されなければならないもの、などがあります。ちなみに薬局を開設するためには認可が必要で、薬局やクリニックに薬剤を卸売する業者(薬品問屋)は薬種業としての認可が必要です。これらのことから、医薬品と言うものは、国内での製造・販売・処方に関して、行政の管理のもと、きっちりと決められたルールが存在するのです。
ところがフォスファチヂル・コリン製剤は、日本国内では「未承認薬」と言って、厚生労働省が承認した薬剤ではないのです。そのような未承認薬を使用するときにも、ルールが定められています。一つは、医師が患者に対して処方したい場合です。この場合には、医師による個人輸入と言う制度があり、必要な書類を、輸入場所を管轄する厚生局(厚生労働省の地方の出先)に提出し、その許可書を税関に提出します。
もう一つは、患者自身が輸入する場合です。医師の処方箋の写しを税関に提出します。この場合、税関は処方箋に記載された薬剤名とその量が、荷物の中身と合致するかどうかを確認します。また、これらの方法の場合には、1回で輸入できる薬剤の量は、1か月以内の服用分と定められています。脂肪溶解注射の自己注射の場合には、後者の「患者自身による輸入」という方法を利用します。
まず、サイト上で注文を受けた業者は、契約している現地の医師に処方箋を発行してもらい、薬剤の入った荷物に添付し、日本に向けて発送します。代金の決済は、クレジットカードで現地通貨での決済が多いようです。このようにすれば、日本の税関を簡単に通過できるというわけです。この時に添付される医師の処方箋ですが、実際は、現地の医師が発行しているのではなく、業者が作成して医師はサインのみしていたりする場合や、完全な捏造の場合もあるようです。また、処方箋が添付されているのはまだ良心的なほうで、業者の中には、処方箋を添付せず、インボイス(送り状)の内容を「化粧品」だとか「実験用薬剤」と偽って記載し、密輸するといった手口を使う者もいます。また、税関当局の薬剤・医薬品に対する知識の乏しさを利用して、薬剤名をそのままインボイス(送り状)に記載していることもあるようです。

このようにして、海外の業者による、日本での脂肪溶解注射自己注射の普及と言うビジネスモデルは、副作用の多発にもかかわらず、成功していったのです。さらに、彼らのだぶついた在庫も、高値で処分することに成功しました。

しかしながら、自己注射の普及とともに、その副作用のほうも増加していきました。そこで日本の厚生労働省も、この患者自身によるフォスファチヂル・コリンの輸入を厳しく監視するようになりました。具体的には、税関の協力のもと、海外からの荷物については内容確認を強化し、薬剤名に対する知識も税関と共有するようにしたということです。また、一緒に輸入される注射針については、麻薬・覚せい剤の取り締まりと連動して、特に輸入監視が厳しくなりました。
注射針については、クリニックなどの医療機関の場合には、「感染性廃棄物」として、専門の産業廃棄物処理業者引き取り、高熱焼却処分するようになっています。その際の感染性廃棄物をクリニックから運び出すときのコンテナーは、一度蓋をすると、それを破壊しない限りは開かない構造になっています。つまり、使用済みの注射針は確実に再使用不可能な状態としてクリニックから運び出され、完全に処理されるということです。しかし、個人で輸入して使用した注射針は、注射針についているキャップに戻されたまま、不燃物として家庭ごみとして回収されます。これでは再使用することができる状態で、これを麻薬や覚せい剤の注射に使用することもできてしまうのです。こういったことから、注射針の輸入については、税関では特に厳しく内容チェックが行われるようになったのです。

このように、脂肪溶解注射の自己注射(フォスファチヂル・コリンの自己注射)に対しての規制は、日本国内でも厳しくなっていっているにもかかわらず、未だ自己注射がはびこっているのが現状です。駐車違反の取り締まり同様、いくら規制をかけたとしても、完全な防止にはつながらないのが、人の世の常です。

脂肪溶解注射の自己注射で比較的多い副作用は、細菌感染と皮膚の壊死に伴う潰瘍です。細菌感染は、薬剤を注射するときに、皮膚の消毒や注射器・注射針などの器具の取り扱いに不備があり、細菌を薬剤とともに注射してしまったためと思われます。また、皮膚の壊死に関しては、脂肪溶解注射の薬液(フォスファチヂル・コリン)を注射する層が浅すぎたため、皮膚が壊死に陥ったと思われます。これらのような状態を放置しておくと、細菌感染から敗血症(全身に細菌が廻ってしまった状態)になり、生死の境目を彷徨うことにもなりかねません。そこで、早めに治療のためにクリニックや病院を受診することが大切なのですが、診察・治療には原則的には健康保険が適応されません。健康保険は交通事故や犯罪など、人為的行為による怪我や病気に対しては、適応除外なのが原則だからです。つまりこの場合、「脂肪溶解注射の自己注射は自業自得なので、自助と相互扶助を目的とする公的健康保険の趣旨にそぐわない」ということなのです。たしかに世間的にも、自分が支払った健康保険料が、このようなケースに使用されているとしたら、納得がいかないと思うでしょう。また、このようなケースを健康保険で診察・治療をする医療機関があったとしたら、その病院やクリニックは、違法行為を行っていることになるのです。これらのことから、安価な方法を求めて脂肪溶解注射の自己注射に走った結果として、高額な治療費を支払わなければならなくなってしまいます。それでも、クリニックにわざわざ出向かなくてもよく、注射の手技料などを支払わずに済む自己注射は、自己注射を行う人にとっては非常に魅力的なものかもしれません。
また、現在、クリニックで行われている脂肪溶解注射は、脂肪を溶解する薬剤としては、フォスファチヂル・コリンが主成分ではあるのですが、その他にそれぞれのクリニック独自に薬剤を添加している場合がほとんどです。したがって、自己注射の術後経過やその効果などは、クリニックで行う脂肪溶解注射とは異なったものです。たとえば、自己注射と比較して、クリニックでの脂肪溶解注射は腫れが少なくて回復期間が短かかったり、効果が大きかったりします。特に当院の強力脂肪溶解注射の場合は、1回の効果が大きくなるように設計しています。実際、強力脂肪溶解注射は、自己注射ではなく、他のクリニックの脂肪溶解注射の3倍から5倍、つまり3回から5回分の効果を1回の注射で発揮することができます。