太ももに対して、強力脂肪溶解注射を計30か所、注射したモニターさんです。ちょっとした脂肪吸引並みの効果が獲得できました。
当院の強力脂肪溶解注射は、脂肪の厚さを、平均で1㎝から1,5㎝薄くする作用があります。この強力脂肪溶解注射ですが、1日で可能なのは10か所までです。30か所と言う個所は、3日間に分けて注射を行いました。一日に可能な個所の制限があるのは、脂肪を破壊する薬剤の、1日当たりの投与制限量によります。当院の強力脂肪溶解注射については、主成分であるフォスファチディルコリンに、当院オリジナルの調合で他の薬剤を混合し、使用しています。それらの、多種の薬剤について、それぞれ1日投与量というものが決められており、それ以上の量を1回に注射すると、いろいろな副作用が発生します。したがって、それらの量を超えないように、一日で可能な個所を制限しています。
脂肪溶解注射とは、元々、メソセラピー(Mesotherapy)の一種でした。
メソセラピーとは、主にフランスを中心としたヨーロッパにおいて、患部に対して皮内注射や皮下注射を行い、慢性的な症状をコントロールする医療の事です。ここでの慢性的な症状とは、主に痛みや皮膚病の事です。皮内注射や皮下注射は、真皮や皮下脂肪層に対して注射するということで、これらの層は、発生学的には中胚葉(Mesenchyme)由来とされています。そして、そこから転じて、これらの層はメソダーム(Mesoderm)と呼ばれます。このメソダームに注射と言う治療(Therapy)を施すため、メソセラピー(Mesotherapy)と呼ばれるようになったのです。
メソセラピーが対象とした慢性的な症状とは、元来、皮下脂肪を溶かしてなくすと言ったモノではありませんでした。
具体的には、メソセラピーの対象症状は、慢性疼痛と皮膚病だったとされています。しかし、慢性疼痛については、各種内服薬や注射薬などの、主に薬剤によるコントロールが進歩し、メソセラピーは次第にその役割を終焉しつつありました。また、皮膚病に関しても、ステロイド剤やその他の軟膏・クリームなどの塗り薬の進歩が、メソセラピーを駆逐してしまったということになります。そして、メソセラピーの対象症状として、最後に残ったのが、美肌・アンチエイジングなどの美容的問題となったのです。
美肌・アンチエイジングなどの、美容医学技術として衣替えしたメソセラピーなのですが、ある対象が、脂肪溶解注射発見のカギとなりました。
その対象とは、セルライトの除去と言うものです。セルライト(Cellulitis)とは、血行不良による皮下脂肪の異常な増殖が、悪循環で皮膚の血行不良を招き、皮膚表面に凹凸を作ってしまった状態のことです。組織学的にみると、皮膚直下の脂肪層が増殖していて、皮下組織内の、皮膚に連なるコラーゲンを主体とした繊維を引っ張り伸ばしています。その状態が、まるで蜂の巣のように、ぎっしりと小部屋(Cell)が密集したように観察されます。つまり、セルライト(Cellulitis)とは、小部屋(Cell)が密集した状態から名付けられた名称で、これは、皮下脂肪の異常増殖によってできた、皮膚の凹凸のことを表します。したがって、セルライト(Cellulitis)は独立した病名ではなく、皮下脂肪増殖の皮膚症状のことです。
セルライト(Cellulitis)の除去に、メソセラピーが用いられるようになったことで、その効果を増強させる薬剤も発見されるに至りました。
それが、フォスファチヂル・コリンです。このフォスファチヂル・コリンは、化学的にはレシチンと呼ばれるリン脂質の一種です。リン脂質とは、脂肪(脂質)の構造にリンの原子を含む、特殊な水と脂肪(脂質)です。通常は、水と脂肪(脂質)は、混ぜても分離してしまうのですが、リン脂質は、脂肪(脂質)を水に溶ける形に変えることで、分離しなくする作用があります。つまり、脂肪(脂質)を水に溶かす働きがあります。そのようなリン脂質の中で、レシチンの、さらにその中のフォスファチヂル・コリンは、人体では肝臓の中や胆汁の中に存在します。このフォスファチヂル・コリンを皮下脂肪内に注射すると、セルライトに対して大きな効果があることが、分かったのです。
フォスファチヂル・コリンは、リン脂質で脂質(脂肪)の一種ですので、純粋な物質としては、そのままでは水に溶けません。
水に溶けないということは、注射液にはならないということです。フォスファチヂル・コリン単体で注射液を作成しているメーカーもありますが、その場合、液体は白濁していて、5分もそのままにしていると、フォスファチヂル・コリンが沈殿し、水分と分離してしまいます。そこで、フォスファチヂル・コリンは、注射液として製剤化するのに、デオキシ・コール酸という薬剤を混合しています。このデオキシ・コール酸というのは、人体では胆汁に含まれていて、フォスファチヂル・コリンを水溶性にする働きがあります。このデオキシ・コール酸は、リン脂質であるフォスファチヂル・コリンを水溶性にする働きがあるばかりではなく、フォスファチヂル・コリンとともに、細胞を構成する細胞膜にも作用し、脂肪細胞を殺してしまいます。そのことは即ち、脂肪溶解作用とともに、脂肪細胞破壊作用が、フォスファチヂル・コリンの注射液には存在するということでもあります。
フォスファチヂル・コリンの脂肪溶解作用の一翼を担っているのが、デオキシ・コール酸と言うことにもなります。
むしろ、フォスファチヂル・コリン単体での製剤よりも、デオキシ・コール酸を添加した製剤の方が、その細胞破壊作用と相まって、効果が大きいということができます。また、デオキシ・コール酸を添加してフォスファチヂル・コリンを水溶液にすることで、成分の分離を防ぎ、一様な成分の注射が可能です。さらに、デオキシ・コール酸の細胞破壊作用が、注射したところの脂肪細胞の数を減少させ、効果を長持ちさせるということでもあるのです。
セルライトに対する、フォスファチヂル・コリン製剤の注射を行っている時に、発見されたのが、その脂肪溶解作用です。
セルライトと言うのは、前述のように、皮膚表面が凸凹になった状態のことで、病名ではなく、一つの症状名であるということができます。したがって、セルライトの治療とは、皮膚表面の凹凸の改善を目指すもので、皮下脂肪の減量ではありません。しかし、セルライトの原因は、皮膚直下の脂肪組織の、急激な増殖が関与しています。そのため、皮膚直下の脂肪を溶解して除去できれば、有効な治療が可能であるということができます。このような理由により、フォスファチヂル・コリンの製剤が、セルライトの除去に頻繁に用いられるようになりました。そのような経過の中で、フォスファチヂル・コリンの脂肪溶解作用が確認され、皮膚表面に対するトラブルを防止するために、セルライト治療よりも深い層に薬液の注入が推奨されて、現在に至っています。