高生着率脂肪注入で豊胸術を受けた、20歳代のモニターさんです。モニターさんには顔が出ることを承諾の上で、モニター契約に及び、写真を掲載しております。

脂肪を採取した箇所は、主として太ももですが、腹部のタルミの修正のために、上腹部と下腹部にもプラズマリポのたるみ取りモードを施行しています。腰の部分と太ももには脂肪吸引を行っています。
バストへの脂肪の注入量は、片方に付き200ml、両方のバストで合計400ml。術後の計測値としては、両方のバスト共に、約180mlの脂肪の生着を見ておりますので、生着率は90%。ブラのカップにして、約2カップの乳房体積の増量に成功しています。

太ももと腰からの脂肪採取量は、高生着率脂肪注入での注入量である400mlを大幅に上回っています。

これは、水分や古い脂肪、さらに壊れた脂肪を脂肪吸引で採取した脂肪から取り除き、濃縮を行ったことが一つ。さらに幹細胞の分離を行うためにその一部を利用したことが原因ですが、それでももう一度バストへの注入が可能なほどの脂肪が残りました。しかし、片方のバストに付き200mlという量は、ほぼ、こちらのモニターさんにとっては限界の量でもあったということから、残りの脂肪は医療廃棄物として破棄せざるを得ないことになりました。しかし、予定注入量に満たない脂肪しか採れない場合よりも、脂肪吸引で採取した脂肪が余る方が、当初の目的を達成するためには好都合です。一般的に、脂肪注入の場合には、注入予定量よりも少し多めの脂肪を脂肪吸引で採取しておかなければなりません。

バストへの脂肪注入量の限界ですが、これは手術を受ける患者さんの、元々のバストの状態に大きく左右されます。

例えば、アンダーバストが大きくて、胸郭の幅が広い場合には、一度に多くの脂肪を注入することが可能です。また、皮膚に余裕がある方の場合には、比較的多くの量の脂肪注入が可能になります。では胸郭が狭く、皮膚に余裕がない方の場合には、脂肪注入ではあまりバストを大きくできないということですが、そうでもありません。その場合には、脂肪を数回に分けて注入することで、注入するたびに少しずつ大きくしていくという方法を用いればいいのです。手術の回数は増えますが、しこりになる確率は非常に低くなり、そういった面での安全性は向上します。これは、皮膚の下に風船を挿入して少しずつ膨らませていき、足りない皮膚を伸ばしていくティッシュー・エキスパンダーという方法と、理論的には同じです。

狭いスペースにたくさんの脂肪を注入すると、どういったことが起こるのでしょうか?それは、注入した脂肪が壊死に陥る確率が高くなるということができます。

つまり、注入した脂肪の多くが無駄になってしまうということです。また、しこりの発生率も飛躍的に増加します。
脂肪吸引で採取した脂肪細胞とその前駆細胞や幹細胞は、周囲の組織から取り外されています。この細胞の周囲の組織というのが、細胞に必要な栄養や酸素を運び、さらに不要な代謝産物や二酸化炭素などを細胞の周囲から取り去る働きをしています。その組織のことを、細胞外マトリックスと呼びます。細胞外マトリックスから取り外された細胞は、そのままではいずれ機能しなくなり、細胞死へと向かいます。そこで、これらの細胞を脂肪組織の中に移植すると、それまでの箇所ではなく、移植されたところの細胞外マトリックスから、必要な栄養や酸素を受け取るようになります。しかし、移植される細胞が大量になると、細胞外マトリックスから受け取るべき栄養や酸素を、移植された細胞やそれまでそこに元々存在した細胞同士が取り合う結果となり、ある限度を超えると、移植された細胞は栄養や酸素を受け取れずに、細胞死に向かい、それがかたまって存在すると、壊死という状況に陥るのです。このようなことが広い範囲で、たくさんの箇所で発生すると、注入した脂肪組織はその体積を大きく減少させてしまい、最終的にはバストのサイズは術前とほとんど変わらないという結果になってしまうのです。

また、脂肪組織が大量に狭いところに注入されると、注入された脂肪組織同士が接触して、大きな脂肪組織の塊となってしまいます。

そうすると、塊の周囲に近いところに存在する細胞は、移植された箇所の細胞外マトリックスからの栄養や酸素で生きていくことができます。しかし中心部分の細胞は、栄養や酸素の供給がなく、壊死に陥ることになります。壊死に陥った組織は、壊死が開始されると変性し始めます。変性が起こった組織は、既に自家組織としては機能しませんので、人体にとっては異物として認識されます。人体内の異物については、直径で約30ミクロン以下のものは、白血球の貪食機能によって、その個所から取り去られます。直径30ミクロンよりも大きいものは取り去られずに、その部分に残留します。そして周辺の組織から隔絶するために、その周囲にはコラーゲンを主成分とした膜が形成されるのです。つまり、脂肪組織が大量に狭いところに注入された場合には、このような異物反応も発生することになり、その結果、バストは術前と同じ状態に戻るか、周辺の膜の形成によって、しこりとして認識されてしまうことになるのです。

では、脂肪注入による豊胸術では、どのような注入が最も効率よく効果を発揮できるのかということが問題です。それはやはり、前回の記事のことを踏まえて考察すると、一つ一つの塊はできるだけ小さな粒にして、できるだけいろいろな層に少しづつ注入するということです。

一つ一つの塊をできるだけ小さな粒にするには、脂肪吸引の際のカニューレ(吸引管)が細くないといけません。太いカニューレでは、大粒の脂肪が採取されてくるからです。大粒の脂肪は、細い針には通りませんので、注入も太い針で行わなければならず、注入時の跡が目立つ結果になってしまうこともあります。また、脂肪吸引のカニューレ挿入口である皮膚の穴も大きくなり、こちらも目立つ跡を残してしまいます。
また、できるだけいろいろな層に少しづつ注入するということは、注入した脂肪の粒同士ができるだけ接触しないように注入するということです。脂肪の粒同士が接触すると、それらが一つの大きな粒ということになり、前述のように、死滅して吸収されてしまうかしこりになってしまいます。
このように、一つ一つの脂肪の塊はできるだけ小さな粒にして、できるだけいろいろな層に少しづつ注入するということを実践すれば、どうしても注入する脂肪の量は限定されてしまいます。それが、平均的日本女性の場合には片胸につき200mlということです。

このように、脂肪注入の安全性と効率を考えると、一度にバストに対して注入できる脂肪の量は限られているということができます。そこで、あとはその注入した脂肪のうちの何%が残るかというのが、脂肪注入による豊胸術で、良い結果を出すための決め手になります。

従来の方法によるバストの脂肪注入を行った場合に、注入した脂肪は最高で約30%といった結果でした。この場合、平均的な日本人女性にとって最高の量である、片方につき200mlの脂肪を注入した場合でも、残る量はそのうちの60mlです。この量では、ほとんどの場合はブラジャーのカップサイズのアップには及ばず、ブラジャーのパッド1枚分といったところでしょう。そこで、この脂肪の生着率をアップさせるべく考え出されたのが、PRP(多血小板血漿)の添加です。PRPというのは、患者さん本人の血液の中から血小板成分を取り出して濃縮したものです。これを添加することで、バストへの脂肪注入の生着率は最高で約50%まで向上しました。しかし、それでも注入された脂肪200mlのうち、最高で100mlしか生着しません。これはブラジャーのサイズにすると、およそ1カップ弱といったところでしょう。PRPの添加は、脂肪の生着率をアップさせたことは事実ですが、まだ、目標にはほど遠いというのが事実でした。そこで、次に登場したのが幹細胞の添加なのです。

幹細胞とは、いろんな組織の細胞の元になる細胞のことです。人間が成長するときや、怪我などで組織にダメージを負った時には、この幹細胞が分裂して細胞の数が増加し、それらのうちの一部がさらに分化して、元の細胞を補給することで、障害を受けた組織を修復します。

すなわち、この幹細胞が存在するから、成長もするし傷も治るということです。
このような働きをする幹細胞は、体中さまざまなところに存在しますが、成人の場合、その分布が一番多いのが脂肪組織と骨髄です。そこで、脂肪吸引で皮下脂肪を採取してきたときに、その中から幹細胞を取り出し、注入する脂肪に混ぜてバストに注入しようというのが、幹細胞併用脂肪注入です。
注入に使用する脂肪も、幹細胞を取り出すための脂肪も、どちらも幹細胞を含んでいます。しかし、脂肪吸引で採取されたこれらの脂肪には、普通に切除して脂肪を取り出した場合に比べて、幹細胞の含有量が約半分しか存在しないのです。そこで、その差である半分を補ってやることで、注入した脂肪の生着率を高められないかということが考えられたのです。この方法は、注入した脂肪の生着率を60%から最高で70%にまで高めることができました。しかし、この方法には大きな欠点がありました。

幹細胞併用脂肪注入の欠点は、脂肪吸引量が注入量の約2倍以上必要なことです。脂肪吸引量が多くなると、どうしても術後の経過がハードなものになってしまいます。

脂肪注入による豊胸術の場合、注入を受けたバストのほうは、術後の痛みも非常に軽いか、または痛みが全くありません。しかし、脂肪吸引を行ったところは、術後の圧迫固定を行っていても、痛みが発生します。この痛みについては、太いカニューレを使用して粗雑な手術操作を行えば、強く出る傾向があり、細いカニューレで丁寧な手術操作を行えば、筋肉痛程度で収まります。多くの量の脂肪を吸引するためには、それだけ広い範囲で脂肪吸引を行う必要があります。そこで、細いカニューレで丁寧な手術操作を行ったとしても、筋肉痛程度の痛みは発生しますので、広い範囲で脂肪吸引を行えば、それだけ痛みの範囲も広くなってしまいます。また、やせ形の体型の患者さんには、全身の脂肪吸引を行っても、脂肪の量そのものが不足しますので、この方法は使えません。

そこで、幹細胞の採取量=脂肪吸引量を減らすことができるように、少量の幹細胞を体外で培養して増やし、注入する脂肪に添加しようという試みがなされました。この試みは、いわゆる肌細胞注射などと宣伝されている、繊維芽細胞を培養して皮膚に注射する方法の脂肪バージョンと考えると分かりやすいと思います。

この場合の一番の問題点は、幹細胞の培養に時間がかかるということです。幹細胞採取のために脂肪吸引を行い、幹細胞を分離するのは1時間くらいで終了します。しかし、幹細胞を培養して、それなりの数にするためには、最低でも2~3週間の時間を必要とします。したがって脂肪吸引の手術は、幹細胞を採取するために1回、そして注入用の脂肪を採取するためにもう1回の、合計2回の脂肪吸引の手術を必要とする形になります。手術を2回に分けるということは、麻酔も2回かける形になり、また、脂肪吸引の術後の痛みや腫れなどの経過と、術後の生活制限も2回に及ぶということになります。これでは患者さんの負担が大きく、実用にはなかなか踏み出せるものではありません。また幹細胞の培養には、非常に高価な設備と薬剤が必要になります。そのため、治療費も大幅に高価なものになってしまいます。

そこで当院では、幹細胞を注射したところ、すなわちバストで増やすというコンセプトを開発し、採用しました。それが、当院の高生着率脂肪注入術です。

WPRPFとは、PRP(多血小板血漿)の血小板濃度を2倍(ダブル)にし、白血球(White blood cell)を含んだものに、成長因子(細胞増殖因子:Growth Factor:F)を添加したものです。つまり、WPRPFは細胞の成長・分裂・分化に、非常に大切な役割を担っている 成長因子(細胞増殖因子)や、それらの信号を受け渡すバイオシグナルを大量に、しかも高濃度に含有したものです。
このWPRPFの働きは、皮膚に注射した場合には、皮膚の細胞のうち、特に繊維芽細胞の増殖と活動性を向上させ、皮膚内のコラーゲンとヒアルロン酸やエラスチンの含有量を増加させます。また、皮膚内の幹細胞にも作用し、繊維芽細胞やその他の細胞をさらにたくさん作ります。そうすることで、さらに繊維芽細胞の増殖と活動性が向上し、皮膚内のコラーゲンとヒアルロン酸やエラスチンはさらに増加します。このWPRPFを皮下組織である皮下脂肪に注射すると、皮膚内の繊維芽細胞に対しての働きと同じ働きを、今度は脂肪組織に対して行います。しかし、繊維芽細胞と違って、脂肪細胞は分裂能がなく、増殖することができませんので、脂肪細胞になる前段階の細胞である、前脂肪細胞(Pre-adipocyte)から幹細胞までのいくつかの段階の細胞に対して作用し、増殖と活動性の向上が観察されます。また、乳腺の細胞に対しても同じ働きを及ぼし、その増殖と活動性を向上させます。また、WPRPFの幹細胞に対する働きは、その増殖を介して、 成長因子(細胞増殖因子)の分泌を助け、組織内の 成長因子(細胞増殖因子 )の濃度を向上させます。このように、バストの脂肪注入を行う際に、WPRPFを併用することは、その効果を最大限に発揮させるのに大きな役割があるということが、わかりました。当院の高生着率脂肪注入は、このようなWPRPFの作用を元に、その作用を分析し、WPRPFと同様の作用を注入した脂肪に対して示すように、成長因子を組み合わせて、注入する脂肪に添加したものです

幹細胞をバストに注入する脂肪に添加することで、注入した脂肪の生着率が約30%から約60~70%まで向上したことは、以前にお伝えしたとおりです。では、幹細胞とWPRPFを併用することによって、総合的にはどのようなメリットがあるのかと言う事ですが、それはもうお分かりかと思います。

幹細胞ばかりでなく、WPRPFの添加によって、より多くのメリットがあります。それらは、主なものを列挙すると、以下のようになります。
1)幹細胞のみを添加する場合に比較して、さらに注入した脂肪の生着率が向上した。
注入した脂肪の生着率が、平均して約80から90%にまで向上しました。
2)幹細胞の添加量を少なくすることができた。
幹細胞の添加量は、従来の10分の1まで絞っても、効果の指標である生着率には変化がなかった。
3)脂肪の生着率を増加させるばかりでなく、乳腺への作用も得られることで、より自然で形のいいバストを作ることができる。
注入した脂肪や元々バストに存在する脂肪組織と同時に、乳腺にも作用するため、構造的には、元々バストが大きい人のバストとほぼ変わりない状態になる。

1)幹細胞のみを添加する場合に比較して、さらに注入した脂肪の生着率が向上した。

幹細胞を注入する脂肪に添加した場合、脂肪の生着率は、約80%という報告もありますが、一般的には約60%から70%です。しかし、高生着率脂肪注入の場合には、それが平均90%と、ほぼ100%に近い量の脂肪が生着します。中には100%の生着を観察した症例もありますが、平均すると90%といったところです。この理由については、やはり成長因子群の作用によって、注入された脂肪の中にある前脂肪細胞以下、幹細胞までの増殖と分化能が刺激され、それを大きく発揮したためと考えられます。このことは、WPRPFの作用、つまりは、当院の高生着率脂肪注入に添加している成長因子群の作用として、幹細胞の作用そのものを助ける働きがあると同時に、バストの中で細胞の培養が行われていると考えることができます。

2)幹細胞の添加量を少なくすることができた。
WPRPFには、以前の記述のとおり、脂肪細胞を増加させるだけでなく、幹細胞に対してもその分裂能を増加させ、幹細胞自身の量も増加させます。

したがって、少ない幹細胞の添加でも、十分にその効果を発揮することができるということです。実際に、幹細胞の添加量は、従来の添加量の10分の1に絞っても、効果そのものに変化はありません。しかし、幹細胞の添加を行わない場合には、効果としてのバストに注入した脂肪の生着率は、大きな向上はありません。やはり幹細胞の添加は、効果を最大限に発揮させるためには、当院の高生着率脂肪注入に添加している成長因子群 を添加した場合でも必要不可欠であるということができます。では、幹細胞の添加量を少なくすることは、実際に患者さんにとっては、どのようなメリットがあるのでしょうか?それは、幹細胞の添加を少なくするということは、すなわち、幹細胞抽出用に脂肪吸引で採取する脂肪の量を少なくできるということです。以前にもお伝えしたとおり、バストの脂肪注入で、術後の経過、つまりはダウンタイムのキーポイントになるのは、注入するための脂肪を採取する、脂肪吸引です。脂肪吸引で採取しなければならない脂肪の量が少なくて済むということは、脂肪吸引を行う範囲を少なくすることができるということでもあります。また、同じ範囲で脂肪吸引を行う場合においても、その範囲における脂肪吸引による刺激が少なく済むということです。つまり、いずれの場合でも、術後の痛みや腫れ、生活制限などの各項目において、従来の幹細胞併用脂肪注入と比較して、非常に楽に術後を過ごせるということです。また、脂肪吸引で採取できる皮下脂肪が少ない患者さん、つまり比較的痩せ型の患者さんでも、高生着率なら、以前の幹細胞脂肪注入とは違って、脂肪注入による豊胸術を受けていただくことができるということです。

3)脂肪の生着率を増加させるばかりでなく、乳腺やそれを囲んでいる靭帯への作用も得られることで、より自然で形のいいバストを作ることができる。

バスト(乳房)は、脂肪組織のみで構成されているものではありません。たしかに、バストが大きな人は、その中にある脂肪組織の量が、通常よりも多いと言えます。しかし、バストの構造としては、いくつかの乳腺の塊(腺葉と言う)が、脂肪組織の中に浮いていて、それらが乳管を乳頭へと伸ばしています。そしてそれら乳腺と脂肪の合わさった組織が、クーパー靭帯という靭帯で取り囲まれ、胸壁の筋肉に固定されています。クーパー靭帯の周囲には皮下脂肪が存在し、その外側に皮膚があるのですが、バストの形を決めているのは、このクーパー靭帯や乳腺、皮膚と言うことができます。脂肪組織はこれらと比較すると非常に柔らかく、張りのあるバストを形作るには柔らかすぎます。つまり、逆に考えると、バストの中で、クーパー靭帯の内側では、乳腺が脂肪組織をいくつかに分割していて、その乳腺がクーパー靭帯とともに脂肪組織を支えていると言う風に考えることもできます。そこで、この乳腺とクーパー靭帯をしっかりと強化できれば、形のいいバストを作ることができるということです。実際に、白人の大きなバストは、その中の皮下脂肪の占める割合が大きいとされています。しかし、彼女たちの大きなバストは、形的には決して張りのあるものとは言えず、むしろ垂れ下がり方が大きいと言えます。高生着率脂肪注入の場合には、添加している成長因子群 と幹細胞から分泌された成長因子(細胞増殖因子)の働きで、乳腺とクーパー靭帯もしっかりと張りのある状態に持っていくことができますので、大きくなったからと言って、バストが垂れ下がって型崩れを起こすこともなく、自然な美しい形の豊胸効果を獲得することができるのです。

ところで、高生着率脂肪注入の、バストの部分に関する術後経過は、最初の腫れが大きく、予定よりもかなり大きなバストに仕上がるのではないかと不安に思われる方がいます。

この腫れについては、細かく脂肪を注入するために生じる腫れですので、必ずなくなっていきます。術後約2週間の間は、徐々に腫れが退いていく期間ですので、心配には及びません。その後、術後約1か月の間は、吸収されるべき脂肪が吸収されていきます。その後、術後3か月から半年目までの間は、注入された幹細胞や前脂肪細胞などの脂肪や乳腺として分化するべき細胞が、分裂と分化を繰り返し、再びバストが大きくなってきます。つまり術後1か月目が、術後の経過においては一番バストが小さくなった状態です。これらの経過については、吸収された脂肪に代わって、幹細胞や前脂肪細胞などがそれを補うまでに時間差があるからであるということができます。
脂肪細胞が死滅して吸収されていく過程では、どうしてもバストが小さくなっていきます。この経過は個人差がありますが、術後約1か月程度の間です。しかしながら、術後1か月の状態では、未だ幹細胞などの、増殖を繰り返して脂肪細胞に分化する細胞が、十分にその力を発揮しきれておらず、吸収された脂肪細胞の代わりとして十分なボリュームを出すには至っていないということです。その後、術後3か月程度までの間、これらの細胞が脂肪細胞やそれを支える血管などの細胞に分化・増殖し、さらにそこから細胞外マトリックスを大量に作り出すことで、脂肪組織の増量が得られます。このようにして、術後1か月目に脂肪の吸収によって一旦小さくなったバストが、その後再び大きくなっていくのです。

最近の研究では、バストに注入された脂肪細胞は、残らず吸収されてしまうという報告があります。しかし、これは注入した部分に脂肪組織が増えないということではありません。

たしかに、注入された「脂肪細胞」は、死滅してしまって全て吸収されてしまうことでしょう。しかし注入用に加工された脂肪組織の中の、幹細胞から前脂肪細胞までの、脂肪細胞になりきっていない細胞は、ほぼすべてがバストの中に残り、分化と増殖を繰り返しながら脂肪細胞を作り始めます。この過程を促進し、効果を最大限に出すためのものが 、当院の高生着率脂肪注入に添加している成長因子群 なのです。では、死滅してしまってほぼ完全に吸収されてしまう脂肪細胞は、注入する前に取り除いておいて、幹細胞から前脂肪細胞までの、脂肪細胞になる前の段階の細胞のみを、高生着率脂肪注入に添加している成長因子群と混ぜて注入すれば、もっとたくさんの細胞をバストに注入でき、一度の手術で大きな効果を出せるのではないかと思われるかもしれません。しかし、脂肪細胞が死滅するという過程が、幹細胞やその他の前駆細胞が分化と増殖を開始するために、大切な役割を果たしています。つまり、脂肪細胞が死滅しないと、幹細胞や前駆細胞の分化・増殖が開始されないということです。これは、脂肪細胞が死滅するときに、幹細胞や前駆細胞の細胞分裂を始めさせるシグナルを発しているためと考えられています。実際に、怪我などを負って、その傷が治る過程が開始されるためには、「傷を負った=細胞が一部死滅した」ということが必要になります。その後、傷を負った箇所の近傍に存在する幹細胞や前駆細胞が働いて、それらが創傷治癒のために分化・増殖と必要な成長因子(細胞増殖因子)の分泌を開始するのです。そうでなければ、傷を負っていないところにも、細胞の増殖と分化が起こり、非常に不都合な現象が発生してしまうからです。
以上のことをまとめると、死滅して吸収されてしまう脂肪細胞も、幹細胞などの脂肪細胞になる元になる細胞が分化・増殖するためのスイッチとして、一緒に注入することが必要であるということです。