強力脂肪溶解注射を太ももに受けた、20歳代のモニターさんです。特に太ももの外側を中心に、注射を行いました。
脂肪溶解注射はその名の通り、脂肪を溶かす注射で、溶かすことによって皮下脂肪層を薄くする注射です。脂肪を溶かすものとして、大きく分けると、レーザーなどの物理的エネルギーと、薬剤による化学的反応とに分けられます。脂肪溶解注射は、もちろん後者の薬剤による化学的反応を利用した方法なのですが、最近は物理的エネルギーによるものも注目を集め始めました。物理的エネルギーによるものは、勿論、広くその定義の範囲を採ると、脂肪吸引なども含まれるのですが、この場合には、取り去ることの方が効果に対する寄与度が大きいことを考えると、脂肪を溶かす方法に入れるのは妥当ではありません。ここで、脂肪を溶かす方法としては、皮下脂肪を薄くするための作用として、純粋に脂肪を溶かすことを中心に考えるべきでしょう。
物理的エネルギーによる脂肪溶解で、最初に注目されて実用化されたのは、超音波でした。
この超音波による脂肪溶解ですが、初期の目的としては、脂肪吸引を施行しやすくするためのものでした。実際には、手術の最初に、脂肪吸引のカニューレ(管)を挿入する穴から、超音波を発生するバーを挿入し、脂肪層の中から直接、皮下脂肪に超音波を照射するものです。超音波と言うのは、このバーの先端から発振されるのですが、実際には、バーの先端が毎秒100万回や1000万回、高速で細かく振動することで発振されます。この振動によって、バーに接触した脂肪組織が崩壊し、液状に近くなり、脂肪吸引を楽に行えるというものです。しかし、高速振動するバーに接触した物体は、物体そのものの分子運動と、バーとの摩擦によって熱が発生します。この熱は、脂肪組織を加熱する形になるので、脂肪が溶けるという結果にはなるのですが、同時に脂肪組織を火傷させる結果となり、術後の痛みが強く、しかも中に水たまり(セローマ)ができたりして、変形を残すような副作用が頻発しました。また、皮下脂肪の中に差しこまれたバーが、皮下から皮膚に触れたり、バーの差込口の皮膚にバーが触れたりすることで、深度の深い火傷を起こす症例も頻発させました。その後、超音波は体外式となり、皮膚の表面からマイルドに照射することで、脂肪層に注射した薬液が良く拡散するようにすることを目的で使用されるようになっていきました。さらに、体内式のこの超音波も改良が加えられ、ベイザーという製品になっています。このベイザーは、バーの先端の形状を改良して、火傷を発生しにくくしているのですが、それでも術後の痛みは強く、バーの入り口である皮膚の穴は大きいものです。
超音波の次に登場したのは、レーザーを使用した脂肪溶解です。スマートリポという商品で、イタリアのメーカーが発売したものが最初です。
このレーザーを使用した脂肪溶解も、超音波と同じく、やはり脂肪吸引を行う時に、吸引を容易にする目的で使用されることが多いものでした。しかしながら、少量の脂肪であれば、このレーザーのみで溶かして放置しておくことで、脂肪層の厚みの現象が観察されました。これは、超音波と違って、レーザーの場合には、物質によって吸収される波長が異なり、それが脂肪組織と良い具合にマッチしていたのだろうと予想されます。また、超音波とは違って、中に水たまり(セローマ)ができることもありませんでした。ただし、その出力は脂肪組織を効率よく溶解して死滅させるには非常に弱く、分厚い皮下脂肪については、やはり、超音波同様に、レーザー照射後には脂肪吸引が必要でした。
そしてレーザーによる脂肪溶解が、いろいろと改良されつつあるちょうどその頃、脂肪溶解注射が日の目を見ることになるのです。
最初に脂肪溶解注射を考え出したのは、本当のところは誰なのか、はっきりとは分かっていません。1952年に、フランスのDr.Pistorによって始められた、メソセラピーというのが、その元であるということは、一般的に認識はされています。メソセラピーと言うのは、病変などの症状のある箇所の皮膚に、その症状をとったり和らげたりする薬剤を、直接注射することで、症状の緩和や治療を行う技術です。特に初期のうちには、慢性的な疼痛の緩和策としての治療でした。それが美容皮膚科的な治療として取り入れられ、そのうちにセルライト治療の一つの方法となり、脂肪溶解に応用され始めたのですが、実際に脂肪溶解注射を、いつ、誰が確立したのかは、はっきりとしていません。多分、美肌を目的として薬剤を工夫しているうちにセルライト治療に効くことが分かってきて、その薬剤を皮下脂肪層に注射しているうちに、脂肪溶解注射の原型が出来上がったのでしょう。文献(論文)の上では、スペインの美容外科学会誌2003年8月号に、スペイン語で、Dr.ルチアーナ オリヴェーラが発表したのが、最初のようです。その後、国際美容形成外科学会の公式雑誌2003年11月号に、Dr.パトリシア リッテス(Patricia Guedes Rittes,M.D)氏の脂肪溶解注射に関する論文が掲載された後に、「脂肪溶解注射」として全世界に広まったという経緯を辿りました。これが、現在一般的に脂肪溶解注射として言われている、フォスファチディルコリンの注射液を使用した、脂肪溶解注射なのです。
しかし、あまり知られていないことなのですが、脂肪溶解注射には、あと2つほど別の系譜があります。
その別の系譜のうちの一つは、アメリカのUCLAの形成外科の系譜です。これは、簡単に言うと、浸透圧を利用して、皮下脂肪の脂肪細胞を破裂させてしまう方法です。前述の、フォスファチディルコリンを使用した、化学的に細胞膜を破壊する方法とは、少しコンセプトの差があります。細胞と言うのは、細胞膜によって囲まれた中に、細胞質(原形質)と核が存在します。細胞質は、その中に色々な物質、特にタンパク質や、カリウムなどの電解質が溶け込んだ液体で構成されています。つまり、細胞質の中はタンパク質の水溶液ですので、細胞が真水の中にある状態では、細胞の外側よりも浸透圧が高い状態になっています。そうすると、細胞膜は半透膜ですので、水分が細胞の中にどんどんと自動的に入ってきて、細胞は膨れ上がり、そのうち、風船が破裂するように、細胞そのものが破裂してしまいます。そのようなことにならないように、細胞の膜には、水を外に出すためのポンプが存在し、侵入してくる水を、細胞の外に出し続けています。また、水はナトリウムとともに移動する性質があり、このナトリウムを外に出し、カリウムを中に入れるポンプも、細胞膜に存在します。この方法は、細胞膜をアルコールで弱くし、細胞の外の浸透圧を注射液で下げ、これらの、細胞膜に存在するポンプを、血圧を下げる薬であるカルシウムブロッカーという薬剤で止めてしまうことで、脂肪細胞を膨化させ、破裂させるというコンセプトです。この方法は、細胞と細胞の間、つまり、個々の脂肪細胞の外側の浸透圧を下げる為に、注射薬を効率よく浸み込ませる必要があり、そのために体外式超音波装置を2つ、同時に使用して、それらの間に脂肪組織を挟み込む形で施術が行われていました。この体外式超音波の使用法が、後に、収束超音波による脂肪溶解のヒントになったとされています。
脂肪溶解注射の、もう一つの系譜と言うのは、酵素による脂肪溶解です。
これは、ニューヨークの形成外科医を発祥としているようですが、実際には、脂肪溶解注射としての応用は、フロリダを中心としてものだったようです。フォスファチディルコリンによる脂肪溶解注射において、それを皮下脂肪層に注射すると、リパーゼと言う酵素が誘導されて、脂肪溶解作用を発現するということが言われていた時期がありました。しかし、この説はどうやら、脂肪細胞が破壊されることによって、細胞の外に漏出した中性脂肪が代謝される際に、その部分にリパーゼが増加するというのが、本当のところのようです。つまり、リパーゼが増加するから脂肪溶解されるのではなく、脂肪溶解の結果として、リパーゼが増加していたということができます。この酵素による脂肪溶解については、リパーゼを注射するというものではなく、細胞の外にある構造物を、脂肪細胞を溶解する作用のある薬剤が拡がりやすくするためのものです。これは同時に、皮膚や皮下脂肪組織の血行も良くするもので、実際のところ、メソセラピーにおいて、セルライトの治療に使用されています。
そしてこのようにしながら、脂肪溶解注射が、約10年前に我が国にも上陸してきたのですが、その際に、初めて診療に取り入れたのが、当院です。
当時、当院が取り入れたのは、一番最初の系譜にあたる、スペインなどの地中海地方から南米にかけてのもので、フォスファチディルコリンの皮下注射を主体とした物でした。その後、この方法は1年もしないうちに全国に広まり、現在は、ほとんどのクリニックで、この方式を行っています。実際のところ、混合する薬剤は、ビタミンやアミノ酸を混ぜるなど、クリニックごとに少しだけ違ったりする場合が多いのですが、脂肪溶解の主成分としては、このフォスファチディルコリンです。名称は、その薬剤のメーカーの所在国や、メーカー名、または商品名などを採っている場合が多いようですが、基本的には同じもので、その効果もあまり大きな差はありません。
また、最近では、高周波や収束超音波を使用した機器が、脂肪溶解作用のあるものとして、注目を浴びているようです。しかし、これらの機器は、脂肪細胞には作用するようですが、その脂肪細胞がなくなった部分に対して、そこを再生する細胞にまでは、作用しないことが考えられます。さらに、最近のSTAP細胞の発見を見れば明らかなように、細胞膜に対する刺激によって、細胞の性質が、再生を司る細胞に変化することも、考えられます。ちなみに、STAP細胞に関しては、酸性の培養液での細胞培養で、成熟した細胞が多能性再生細胞や幹細胞の性質を獲得するものであるということが注目されていますが、研究過程において、酸性培養液のみならず、ある種のエンドトキシンや物理的な細胞の変形刺激によっても、この現象が発生するとされているのです。これらの中で、酸性の培養液での培養が、最も多能性のある細胞をたくさん回収できるということに過ぎません。つまり、高周波や収束超音波、さらに冷却で凍らせるといった物理的刺激が、脂肪細胞の破壊のみならず、脂肪細胞やその他の脂肪組織内の細胞をSTAP細胞に変化させ、これが脂肪細胞のなくなった個所を埋めてしまい、元の状態に戻ってしまうのではないかと言うことです。実際、これらの治療を他院にて受けて、約半年から1年後に、元の状態に戻ってしまったという患者さんが、最近たくさん、当院の強力脂肪溶解注射を受けにきます。
当院の強力脂肪溶解注射は、最初に診療に導入した脂肪溶解注射から改良を加えて行き、その効果を強力にしたものです。
まず、脂肪溶解作用の主成分はフォスファチディルコリンなのですが、そのままでは水に溶けないフォスファチディルコリンを水溶液にするときに、一緒に添加してあるデオキシコール酸という物質があります。これは、胆石の治療のために使用する薬剤なのですが、これに細胞を殺してしまう作用があることが分かり、その脂肪細胞への働きが、細胞のサイズを変化させるのではなく、皮下脂肪組織を構成する細胞を殺してなくしてしまうのだということが、分かりました。つまり、フォスファチディルコリンを使用した脂肪溶解注射は、機器を使用する方法や、浸透圧を利用したり、酵素を利用したりする脂肪溶解注射とは違って、元に戻ることのない、確実な効果の望める脂肪溶解注射であるということです。しかし、このフォスファチディルコリンを使用した脂肪溶解注射は、効果を出すには最低でも3回の処置が必要だというのが現実でした。そこで、当院では、このフォスファチディルコリンを使用したオリジナルの脂肪溶解注射を使用して、効果をより大きく出そうとしてきました。しかしその時に、薬液の濃度を濃くすることは、先ほどの細胞破壊作用から、重大な副作用を防ぐという観点からすると、どうしても限界があります。注射する薬液の薬剤濃度をそのままにし、できるだけ効果を大きくするには、どうすればいいかを考えつづけ、薬液の薬剤混合比率とその種類を研究し続けた結果、3回から5回分の効果を一度の処置で出せるようにしたのが、当院の強力脂肪溶解注射です。そして現在、そのバージョン7が、現在当院で用いられている、強力脂肪溶解注射なのです。