太ももの上方をくるりと一周、強力脂肪溶解注射

太ももの内側・外側・前面・後面の強力脂肪溶解注射を受けたモニターさんです。術後約5週間経過しています。元々、太もも自体はあまり太くないのですが、ポイント的に、総じて太ももの上の方の太さがあり、ジーンズなどのサイズに関して不具合が発生していたようです。どういうことかと言うと、ウエストでサイズを合わせると太ももが入らず、太ももでサイズを合わせるとウエストがかなり余ってしまうといった不具合です。術後のこの時点では、既に効果が出始めているため、そのような現象はかなりなくなってきたということでした。


強力脂肪溶解注射やプラズマリポなどは、このようなポイントでの痩身、つまり部分痩せに関しては、非常に良い適応であると言えます。全身的な肥満に関しては、脂肪溶解注射は直接的には効果がありません。脂肪溶解注射は、あくまでも注射をした部分の皮下脂肪をなくす技術です。この点については、脂肪吸引やプラズマリポも同じです。つまり、部分痩せ=体型のアンバランスの修正です。こちらのモニターさんのように、「ジーンズをウエストで合わせると、太ももが入らない」というのは、典型的な体型のアンバランスと言うことができます。つまり、ウエストと太ももがアンバランスなため、既製服であるジーンズのサイズに無理が生じているのです。このアンバランスを治療するのが、強力脂肪溶解注射・プラズマリポ・脂肪吸引などです。では、全身的な肥満に関しては、どのように治療するのかと言うことですが、これは、一言で言うと、「カロリーを貯めない」と言うことに尽きます。貯めないためには、「入れない」か「どんどん使う」かです。つまり、カロリー制限か運動と言うことになります。

使わないのに余分に入れてしまった(食べてしまった)カロリーは、主として肝臓と脂肪細胞に貯蔵されます。そのうち、肝臓は短期間用の蓄えとして働き、それでも余ったカロリーは、脂肪細胞に長期間用の蓄えとして保存されます。脂肪細胞は、カロリーの蓄えとしては、細胞の中に中性脂肪を増やすことによって、カロリーを蓄えます。そうすると、脂肪細胞が大きくなり、脂肪組織はその厚みを増加させ、体型のサイズアップが始まります。これが、肥満の始まりです。そして、その肥満がもっと進行すると、脂肪細胞の数が増加し始めます。これは、一つの脂肪細胞が蓄えることのできる中性脂肪の量が限られているためです。そこで人体は、貯蔵しなければならない量を賄うため、今度は数を増やし始めるのです。この脂肪細胞の数が増加するというのは、脂肪組織の中にある、脂肪由来幹細胞の働きです。脂肪由来幹細胞は、このように脂肪細胞を増加させる働きがあるため、脂肪注入の際に、脂肪の生着率をアップさせるために用いられます。しかし、このように脂肪細胞の数が増加するのは、少し太ったくらいでは発生しません。はっきりとした数字があるわけではありませんが、体重が約10%増加するほどの肥満によって発生してくるようです。つまり、体重50㎏の人が5㎏体重が増えて、55㎏になるとこの脂肪細胞の増加が始まると考えています。そして、これらの脂肪組織の増量のスピードが、急激なカロリーの過剰摂取に追いつかなくなってくると、再び肝臓がカロリーを蓄えるのに使用され、脂肪肝や高脂血症の発症という結果を見ることになるのです。

強力脂肪溶解注射は、脂肪細胞そのものを破壊し、その数を減少させることができます。しかし、前記のような全身的な肥満によって発生するサイズアップは、その発生を防止することはできません。しかし、体型のアンバランスについては、元々の脂肪細胞の数がその体型に合わせてアンバランスに存在していると考えられます。したがって、脂肪細胞を破壊してしまう強力脂肪溶解注射は、脂肪細胞の数のアンバランスを修正できる治療と言うことができます。つまり、肥満による体重の増加やサイズアップは、脂肪溶解注射を受けたところにも発生しますが、肥満する前の脂肪細胞がすでに減少していますので、体重が元に戻れば、強力脂肪溶解注射を受けたところも肥満する前の状態に戻り、体型のアンバランスも修正された状態に戻ります。

強力脂肪溶解注射によって、脂肪細胞が強力に破壊されて、その数が減少し、脂肪組織が薄くなることはお分かりになったと思います。しかし、脂肪細胞を再生する脂肪由来幹細胞はどうなるのでしょう?
脂肪組織の中の脂肪細胞が破壊され、破壊されたものが吸収されていくと、そこには脂肪由来幹細胞が残るように思えるかもしれません。しかし、脂肪細胞が破壊された時点で、脂肪細胞の間にちりばめられていた脂肪由来幹細胞は遊離し、破壊された残骸とともにリンパ管や毛細血管から吸収され、血管を通って一度全身にばらまかれていくと考えられます。したがって、脂肪由来幹細胞だけが、元の脂肪組織の位置に留まって、脂肪細胞を再生して元に戻ってしまうことはありません。むしろ、全身にばらまかれた脂肪由来幹細胞が、傷害を受けた臓器や老化した皮膚に対して再生的に働くと考えられます。強力脂肪溶解注射を受けた患者さんの中に、糖尿病の指標であるHbA1cの数値が改善したり、肌荒れが改善したりするのは、このためだと思われます。