強力脂肪溶解注射 肩から二の腕

当院の強力脂肪溶解注射の「強力」たる理由についてですが、これは、皮下脂肪組織を「単なる油の塊」と捉えるのではなく、細胞とそれを支えて形を作っている細胞間物質(細胞間マトリックス)の複合体であると捉えるところから始まっています。

皮下脂肪組織は、脂肪細胞のみでできているのではなく、脂肪細胞と細胞間マトリックスでできているということです。脂肪溶解注射は、脂肪細胞だけではなく、最初にこの細胞間マトリックスに作用して、それを透過するような薬剤を含んでいないと、効果が低いといえます。それは、脂肪組織の構造として、脂肪細胞が5~8個ずつ、細胞間マトリックスの膜によって包まれて粒として存在するからです。そして実際は、それがまた5~8個ずつ細胞間マトリックスの膜で包まれ、またそれが5~8個ずつ・・・といった具合に、何回もこういった構造が繰り返されて構成されているのが脂肪組織だからです。したがって、脂肪細胞を溶かす薬剤のみを注射しても、その薬剤は細胞間マトリックスの膜に邪魔されてしまい、脂肪細胞に到達するのは、そのほんの一部であるということができるのです。そこで、脂肪を溶解する薬剤であるフォスファチヂル・コリンが、この細胞間マトリックスを通過しやすくするための薬剤を添加する必要があるというわけです。そして、細胞間マトリックスを最大限に通過しやすくする薬剤を含んでいるのが、当院の強力脂肪溶解注射なのです。


ところで、「脂肪溶解注射は効果がない」という噂が駆け巡っていた時期があります。今でもそのように考えている方も多いようです。しかし、このことこそ、その効果がない原因が、主に前述の細胞間マトリックスの作用によるものなのです。

欧米での、フォスファチヂル・コリン製剤単剤を注射する、いわゆるクラシックな脂肪溶解注射の研究では、脂肪溶解注射はきちんと効果がでており、その評価は非常に高いものがあります。しかし、本邦においては、このクラシックな脂肪溶解注射の評価が非常に低いのです。それにはいくつかの原因があります。一つは、脂肪溶解注射の術後の経過です。
脂肪溶解注射の術後には、軽度の腫れや赤みなど、ある程度のダウンタイムを伴います。特に軽度の腫れについては、脂肪組織の体積が増加し、それが消褪するまでの期間が存在するため、脂肪溶解注射の効果が少しでも分かるようになるためには、少なくとも1か月の期間が必要です。しかし、このクラッシックな脂肪溶解注射は、1回目の注射の後、2週間のインターバルで次の注射を行うようになっています。そうすると、1回目の注射による腫れがまだ残っているのに2回目の注射を行うことになり、それがまた腫れを作ってしまうということで、皮下脂肪層が減少したという実感を得るのはまだ先のことになってしまいます。さらに、3回目の注射も、2回目の注射の後、2週間目に注射することになりますので、皮下脂肪層の減少と言う実感は、さらに先です。このようなプロトコールで行われる脂肪溶解注射は、その本当の効果が得られるためには、初回の注射を受ける治療開始時から数えると、約半年もの時間がかかるということになります。このように、約半年もの時間をかけての治療と言うのは、結果を急ぎたがる日本人の患者さんには不向きであるといえます。治療を開始して半年もの月日がたった時には、自分の術前の皮下脂肪の厚みを忘れているということも言えるでしょう。その結果、「脂肪溶解注射は効果がない」という噂がたってしまったのです。当院の強力脂肪溶解注射の場合には、注射処置は1回のみでしかも効果が強力ですので、術後1か月が経過した時点で、ある程度の効果を出すことができます。したがって、「脂肪溶解注射は効果がない」と思っていた方でも、「強力脂肪溶解注射は効果がある」と言う風におっしゃっています。

2つめの原因としては、日本人と欧米人の皮下脂肪組織の違いから、日本人の皮下脂肪には、脂肪溶解作用のあるフォスファチヂル・コリンの作用が弱いということです。

欧米人の脂肪吸引をしていると脂肪組織の硬さなどが日本人を含む東洋人と非常に大きな差があることが分かります。実際には、欧米人の脂肪組織のほうが、東洋人の脂肪組織よりも柔らかく、弾力性と粘り気がないということが分かります。そして、脂肪吸引で取り出した脂肪組織を比較してみると、脂肪細胞を集めて粒を構成している膜が、欧米人のほうが東洋人と比較して薄く、しかも少ないということがわかります。つまり、日本人の脂肪組織は、たくさんの膜によって細かく区切られており、それが脂肪吸引で取り出された脂肪組織の弾力性や粘り気を創出しているといえます。つまり、日本人の脂肪組織は細胞間マトリックスが多く、それが脂肪溶解注射の主成分であるフォスファチヂル・コリンの脂肪細胞への接触を妨害しているということが考えられます。このことから、欧米人にはよく効く脂肪溶解注射も、日本人にはその効果が弱く、これが「脂肪溶解注射は効かない」という噂の元になっているといえます。
当院の強力脂肪溶解注射は、この細胞間マトリックスに作用する薬剤をフォスファチヂル・コリンに添加することで、フォスファチヂル・コリンの脂肪細胞への接触を増やし、オリジナルの脂肪溶解注射が欧米人によく効くという効果以上の効果を、日本人の患者さんで得ることができています。

現在、日本国内で行われている他院での脂肪溶解注射は、同じ個所に対して、約2週間から1か月おきに、最低でも3回の処置が必要なものです。これは、オリジナルの脂肪溶解注射と変わりありません。

脂肪溶解注射は、19990年代の後半にヨーロッパにて、フォスファチヂル・コリンが局所の脂肪溶解に行こうなことが発見されてから、ヨーロッパ、その中でも主に地中海諸国に広まり、それが南米諸国へと伝えられました。実際の論文の発表の上では、スペインの美容外科学会誌の2003年8月号に、Dr.ルチアーナ オリヴェーラがスペイン語で世界最初の論文を発表しました。そしてそのあとすぐに、国際美容形成外科学会の公式雑誌である「Aesthetic Plastic Surgery」の2003年11月号にDr.パトリシア リッテス(Patricia Guedes Rittes,M.D)氏が執筆した論文が掲載されたことが、脂肪溶解注射の全世界的な流行を作り出したと言えるでしょう。これらの論文の中でも、脂肪溶解注射は同一部位に対して3回の処置が必要とされています。この後者の論文の内容に従って、日本国内のクリニックでは、順次、脂肪溶解注射の診療への導入が始まったのです。
この「原法」ともいえる脂肪溶解注射は、当院では2003年7月に導入しました。これは、世界で最初の脂肪溶解注射に関する論文が発表される以前のことです。それ以前に、当院では総院長自身が、自分の脇腹にフォスファチヂル・コリンを注射し、自らの体を張って、脂肪溶解注射の有効性を実験してみています。これが日本での最初に行われた脂肪溶解注射と言うことになります。またこのことは、南クリニックが、日本で一番最初に脂肪溶解注射を診療に導入したということでもあり、かつ、総院長自身が日本人での一番最初の患者でもあるということです。
日本国内のクリニックが、順次、脂肪溶解注射を導入し始めてから、既に海外ではこの脂肪溶解注射の改良が行われつつありました。改良の方向性としては、やはり、「いかにたくさんの脂肪を溶かすか」と言うことです。

皆さんご存知のように、欧米人の肥満者の皮下脂肪の厚みは、日本人の肥満者とは比べ物にならないくらいに分厚いのです。そこで、脂肪溶解注射にも、たくさんの量の脂肪を溶解することが求められてきたのです。そしてその時の脂肪溶解注射における改良の方向性は、フォスファチヂル・コリンの脂肪細胞への溶解作用(破壊作用)とともに、その他の薬剤を添加することによって、脂肪の代謝を亢進させようというものでした。具体的には、L-カルニチン、ヒアルロニダーゼ、β‐ブロッカー、エピネフリン、トライアックスなどの添加です。L-カルニチンは、筋肉において、脂肪から糖を作り出し、それを消費するのを助けます。ヒアルロニダーゼは、脂肪組織内の血行を良くすることで、脂肪の代謝を亢進させます。βブロッカーは脂肪細胞のエネルギーの吸収を少なくします。エピネフリンは脂肪細胞の代謝を亢進させます。トライアックスは甲状腺ホルモンの前駆物質で、やはり細胞の代謝を亢進させます。このように、海外、それも主に欧米諸国における脂肪溶解注射の改良は皆、フォスファチヂル・コリンの脂肪細胞に対する破壊作用を強化するものではなく、脂肪組織やその周辺組織での代謝亢進を以て、脂肪溶解注射の効果を強化しようというものでした。この改良の流れは2005年頃から日本にも上陸し、脂肪溶解注射を行うクリニックが、独自にそれぞれのルートからこれらの改良に関する情報を仕入れ、診療に導入し始めました。その状況は、武道の流派が乱立していくのに似た状況でした。
これらの欧米での脂肪溶解注射の改良は、それぞれに一応の成果を上げ、欧米人の肥満者にとって、脂肪溶解注射は局所の皮下脂肪減少法の大きなオプションとなりました。しかし日本においては、皮下脂肪の溶解量を増加させるということにおいては、大きな成果を得ることができませんでした。これは、肥満の原因に関して、食生活などの習慣を含めて、日本人と欧米人とは大きな違いがあり、それに応じて肥満者における脂肪の代謝も異なっていたためと考えられます。したがって日本では、脂肪溶解注射では「効果を得るためには、同一部分に対して最低でも3回の注射が必要である。」という、オリジナルの脂肪溶解注射と同じ原則は、そのままの状態として残されてしまっていたのです。

そこで当院では、日本人にとって大きな効果を期待できる脂肪溶解注射の開発に着手していくことになりました。これは、欧米とは違ったアプローチでの開発となりました。

まず、「日本人には脂肪溶解注射が効きにくい」と言う点に着目することにしました。これは、欧米での論文に掲載されている脂肪溶解注射での皮下脂肪の厚みの減少量と、日本人の皮下脂肪の厚みの減少量に差がみられたことに気付いたからです。このことは、オリジナルのフォスファチヂル・コリン単体を使用した脂肪溶解注射であっても、それに代謝亢進のための薬剤を添加した改良型の脂肪溶解注射であっても、同じことが言えます。そこで、当院では、欧米人の皮下脂肪組織の構造と、日本人の皮下脂肪組織の構造に、違いがあるのではないかと考えました。わたくしたち美容外科医にとって、人間の脂肪組織をじかに見ることは、診療の中で脂肪吸引を行っていれば、そんなに珍しいことではありません。しかし、欧米人の脂肪組織と日本人の脂肪組織の比較となると、欧米人の患者さんがいないと不可能です。当院の総院長は、日本国内よりもむしろ海外でのほうが有名なため、欧米人の患者さんも、他院と比較して多く訪れます。そこで当院では、欧米人の脂肪組織と日本人の脂肪組織の比較が可能だったのです。その結果、やはり欧米人と日本人では、皮下脂肪の構造に差がありました。日本人の皮下脂肪組織は、欧米人と比較して、その中に硬い細胞外マトリックスの膜が多く存在したのです。そこで、この細胞外マトリックスの膜を通して、フォスファチヂル・コリンが脂肪細胞に直接、しっかりと働くように、薬剤を添加しました。そしてこれが、強力脂肪溶解注射の最初のバージョン(Ver.1)として登場したのです。この強力脂肪溶解注射は、日本人ばかりでなく、欧米人の皮下脂肪に対しても大きな効果が観察され、その後の改良がさらに加えられ、現在のバージョンの強力脂肪溶解注射となったのです。