二の腕の強力脂肪溶解注射を受けたモニターさんです。二の腕に合計4か所(上腕上部・中部の各左右)を注射して約3か月目の記録(症例写真)になります。腋の部分には注射していませんので、腕を下ろしたときには大きな効果を見ることはできませんが、腕の太さそのものはかなりの減量となっています。以前にも記事に書きましたが、年齢とともに下がってくる脇の下の脂肪は、腕を下ろして横に持ってきたときに、腕の脂肪を押し出す働きをするため、腕を太く見せてしまう大きな要素です。また、腕には脂肪があまりないのに、腕を下ろしたときに太くなる原因でもあります。しかし、こちらのモニターさんは、術前の状態では、腕自体にかなりの脂肪がありますので、腕の強力脂肪溶解注射で、かなりの効果を獲得できた状態です。
最近、よく尋ねられるのですが、強力脂肪溶解注射と普通の脂肪溶解注射はどう違うのでしょう?普通の脂肪溶解注射の場合には、効果を出すためには、同じ箇所に最低でも3回の注射が必要です。通常は、クリニック側からは5回セットだとか、6回セットでのオファーになっていると思います。しかし、当院の強力脂肪溶解注射の場合には、普通の脂肪溶解注射の3回から5回の効果が、1回の注射で獲得できるという違いがあります。これは、私の腹部の脂肪に対して注射を行って実証済みです。では、強力脂肪溶解注射は、どうしてこのような強力な効果があるのかということになります。これは、偏に薬剤の種類とその配合の違いです。このことに関しては、企業秘密的なことになりますので、何をどれくらいの量で配合しているなどということは申し上げられません。しかし、メインになる薬剤に加えて、その薬剤がしっかりと脂肪細胞に到達するように、補助的な薬剤を混ぜているということは言うことができます。この補助的な薬剤によって、強力脂肪溶解注射は、メインになる薬剤が脂肪細胞に到達して脂肪細胞を効率よく破壊することになり、その効果を強力に発揮するのです。
一般論なのですが、脂肪溶解注射には2つのメインになるストリームがあります。それは効果による分類なのですが、一つは脂肪細胞を小さくして皮下脂肪層の厚みを薄くする脂肪溶解注射、もう一つは脂肪細胞を破壊して脂肪細胞の数を少なくすることで皮下脂肪層を薄くする脂肪溶解注射です。
脂肪細胞を小さくする脂肪溶解注射には、脂肪の代謝を助ける薬剤が入っています。具体的にはアミノフィリン、アーティチョークエキス、L-カルニチンなどです。これにアドレナリンを混合して、脂肪細胞の代謝を高め、脂肪細胞の中の中性脂肪の消費を増やし、脂肪細胞を小さくするというものです。カーボメッドという器械を使用する方法も、脂肪細胞を小さくする方法です。このカーボメッドという器械は、二酸化炭素(炭酸ガス)を皮下脂肪層に送り込む器械です。これで、なぜ脂肪細胞が小さくなるのかというと、人間の体の仕組みの上で、局所の二酸化炭素濃度が高くなると、毛細血管に血液を流し込む、細動脈という細い動脈が開き、局所の血行がよくなる(血流が多くなる)ため、水分や余分な物質を洗い流すと同時に、細胞の代謝に必要な酸素やアドレナリンなどの物質の、脂肪細胞への供給が増加するからです。つまりカーボメッドは、脂肪細胞の代謝を助けてやることで脂肪細胞を小さくし、細胞と細胞の間にある余分なものを取り去ることで、脂肪層を薄くするのです。つまり、エステで「揉み出し」などともっともらしく宣伝されている方法と、なんら変わりないのです。
このように、脂肪細胞を小さくすることで皮下脂肪層の厚みを薄くする方法は、一見、理にかなった方法であるという風に感じることでしょう。しかし、この方法の場合、その効果の持続性に大きな問題があります。脂肪細胞の数が減少しているわけではありませんから、一度太ってしまえば、元の体重に戻ったとしても、術前の状態と同じ状態に戻ってしまうのです。また、その部分の皮下脂肪層が分厚くなってしまった原因は放置されているのですから、術後に一時的に脂肪層の厚みが減少し、その後に太らなかったとしても、早晩、元の状態に戻ってしまうのは時間の問題です。このようなことから、医療機関で行う脂肪溶解注射は、脂肪細胞を小さくするという脂肪溶解注射ではなく、脂肪細胞を破壊して脂肪細胞の数を減少させるものであるべきと考えます。
脂肪細胞を破壊することで皮下脂肪層の厚みを薄くする脂肪溶解注射ですが、これにも大きく分けて2つの種類があります。一つは薬剤の細胞に対する作用そのものを利用する方法、もう一つは、浸透圧を利用して細胞を破壊する方法です。これらの2つの脂肪溶解注射は、ほぼ同時に発表されています。したがって、「どちらの歴史が古い」だとか、「どちらが最新である」と言うことはありません。薬剤の作用そのものを利用する方法は、国際美容形成外科学会の公式雑誌である、Aesthetic Plastic Surgeryの2003年11月号に掲載された、Dr.パトリシア リッテス(Patricia Guedes Rittes,M.D)氏の論文が有名です。そして、浸透圧を利用する方法は、アメリカ美容形成外科学科の公式雑誌、Aesthetic Surgery Journalの2002年11月号に掲載された、Dr. スティーヴンMホフリン( Steven M Hoefflin,M.D.)氏の論文がおそらく最初でしょう。これらの論文の発表時期には約1年のずれがありますが、新しい論文が発表されるまでには、発表症例の術後経過観察期間が必要ですので、最初に脂肪溶解注射が行われた時期は、ほぼ同じだろうと考えられます。
薬剤の作用そのものを利用する方法は、今や有名になったフォスファチヂル・コリンを皮下脂層に注射します。最初にこの方法が発表された後、各国のAesthetic Medicine(美容医学)の学会の中で、いろいろな形で改良が進められました。そして現在では、フスファチヂル・コリン単体ではなく、それに脂肪を燃焼させるための薬剤として、L-カルニチンやアミノフィリンなどを混合して使用する方法が、一般的となりました。燃焼させる薬剤を混合することで、フォスファチヂル・コリンで破壊する脂肪細胞の分だけでなく、残った細胞もその中の中性脂肪を燃焼させ、外見上の効果を大きくしようという発想です。悪い言葉で言うと、脂肪細胞を破壊した以上の効果を、外見上は短期間の間水増ししようとしているものです。現在、普通の脂肪溶解注射と言われているものは、この注射のことです。
これに対して浸透圧を利用する脂肪溶解注射とは、体液の浸透圧よりも、浸透圧が低い溶液を皮下脂肪に注射する方法です。浸透圧が低い溶液を皮下脂肪層に注射すると、脂肪細胞の中に水分が流入し、細胞の大きさがどんどん大きくなります。そして、最終的には細胞膜の弾力性が細胞の膨張に追いつかなくなり、細胞膜が破裂して脂肪細胞が死滅するという原理です。ちょうど、風船の中に空気を大量に送り込むと、そのうち限界を超えて破裂するというのと同じです。しかし細胞には、すぐには破裂しないように、入ってきた水分を細胞の外に排出する機能が備わっています。細胞膜に存在する、H2Oポンプと呼ばれるものです。このポンプは、カルシウムイオンの存在下でなければ働きません。そこで、この注射にはカルシウム・ブロッカーと言う薬剤が入っています。つまり、水を外に出さないようにして、細胞の中にできるだけたくさんの水を貯めていくのです。その他の細胞膜に存在するポンプには、ナトリウムポンプ(細胞内に入ってきたナトリウムを外に出す)・カリウムポンプ(細胞の中にカリウムを入れる)などがあります。細胞の中に水分を出来るだけたくさん取り込んで、細胞を膨張させることがこの方法の趣旨ですから、細胞内にたくさん含まれているカリウムも成分中に含まれています。さらに、脂肪細胞が壊れてそこから流出した中性脂肪を水溶化し、早く局所から取り去るために、アルコールが添加されています。原法では、この低浸透圧溶液を注射した後に、超音波でキャビテーションを起こさせることになっています。しかし、この方法では効果が弱いため、最近では、前述のフスファチヂル・コリンを添加するクリニックが増えています。
このように、現在の脂肪溶解注射では、フォスファチヂル・コリンという薬が大活躍しています。では、フォスファチヂル・コリンとは、いったいどんな薬なんでしょうか?
分子構造的には、リン脂質というものに分類されます。リンの元素を持った脂肪の一種です。脂肪溶解注射なのに脂肪を注射するとは、何だか変な感じがするかもしれません。しかし、このリン脂質と言うのは、普通の脂肪とは違い、脂肪を水に溶けやすくする働きがあります。通常、脂肪細胞の中にある中性脂肪は油の一種ですので、水には溶けません。しかし、このフォスファチヂル・コリンを加えると、水に溶けるようになるのです。身近なものに例えれば、石鹸のようなものです。また、脂肪細胞に限らず、細胞の外側の膜である細胞膜は、分子量が比較的大きな脂肪の分子が縦に並んだ構造をしています。フォスファチヂル・コリンは、この細胞膜の脂肪にも作用し、水に溶けやすくすることで脂肪細胞を壊れやすくする働きもあります。つまり、脂肪細胞の膜を弱くして壊れやすくし、脂肪細胞の中に入り込んでそこにある中性脂肪を水溶化し、さらに脂肪細胞が壊れて漏れてきた中性脂肪も水溶化することで、リンパ流や血流に乗ってそこから除去されやすくするのです。
このように、脂肪溶解注射には非常に便利なフォスファチヂル・コリンですが、薬剤、特に注射液として一つの欠点があります。それは、純粋な状態では水に溶けない、つまり水溶液にならないことです。水に溶けないフォスファチヂル・コリンを無理に水に溶かそうとすると(水溶液にしようとすると)、白く濁った状態になって、コロイドと言う状態になります。コロイドとは、水に溶けずに、分子が水などの溶媒の中に浮遊している状態のことです。溶けずに浮遊しているだけですので、それを放置しておくとビンの底面に沈殿するか、液面に層状になって集まってしまいます。このようなフォスファチヂル・コリンを、濃度を一定にして注射するためには、しっかりとかき混ぜればいいのですが、注射器の中でも沈殿を始めてしまいますので、最初のほうに注射した注射液と、最後の方に注射した注射液とでは濃度が違ってきてしまいます。そこで、フォスファチヂル・コリンの製剤は、フォスファチヂル・コリンを水に溶けやすくするために、ある物質を加えているのです。それが、デオキシ・コール酸です。デオキシコール酸は、フォスファチヂル・コリンの分子にくっついて、水に溶けやすくする性質を持っています。実はこのデオキシ・コール酸は、胆汁の中に含まれている物質です。胆汁の中に含まれているのは、食物の中の油脂成分を水に溶けやすくするためです。当然、リン脂質の一種であるフォスファチヂル・コリンも水に溶けやすくするのです。