非吸収性ジェルによる豊胸術の禁止

日本美容外科学会より、非吸収ジェル(非吸収性充填剤)による豊胸術の禁止声明が出されました。具体的には、アクアフィリングとアクアリフトによる豊胸術のことです。最近、アクアリフトは、アクティヴ・ジェル(Aktivegel)と改名したようですが、同じものです。よく、「アクア豊胸」などとうたわれている豊胸術は、これらを使用しています。禁止理由としては、合併症が多発しているためということです。その合併症の内訳は、しこりなどのかたまり44%、感染症22%、皮膚変化8%、変形6%などです。


https://www.asahi.com/articles/photo/AS20190425003832.html

しこりに関して言えば、脂肪注入でも発生しますが、脂肪注入の場合、手術時の手技によるものが多く、注入機器の開発により、最近は減少しています。小さな脂肪の塊を、バラバラにいろいろな層に注入していくことで、バストを変形させるようなしこりの発生は防止できます。このように、脂肪の塊を小さく、バラバラに注入するための機器が、既に市販されているため、これを取り入れるクリニックが増えており、術者による手技のばらつきが減少しています。

感染に関しては、同じジェル状のものでも、ヒアルロン酸とは違って、異物の挿入である点では、バッグ挿入手術と変わりません。しかし実際は、手術セッティングでなく、清潔度がより低い、注射処置のセッティングで施行することが多いため、このような事象が多発するのでしょう。つまり、皮膚の消毒などの感染対策が甘いまま処置が行われるため、感染率が跳ね上がった結果だと思われます。また、年単位での後期に発生する感染に関しては、viral in situです。このviral in situというのは、バッグ豊胸術を受けた患者さんが、術後何年も経過した後、誘因なく、バッグの周囲に浸出液が溜まって、バストが腫れあがってくるというものです。この浸出液を検査しても、細菌は検出されないのですが、弱い細菌感染が関与しているのではないかと言われています。この場合、手術自体には問題ないのですが、長期間にわたって異物が存在する関係上、体内に通常存在する無毒である細菌(常在菌)が、症状を惹起する原因ではないかと考えられます。非吸収性ジェルに関しても、異物である限りは、同じことが発生することがあります。

皮膚変化は、感染によるものや、異物反応によるものでしょう。アクアフィリングとアクアリフトのメーカー側の説明にも、乳腺の下に、一塊として(ひとかたまりとして)注入するように説明されているのですが、これを皮下浅層に注入した場合には、感染や異物反応が強く出る傾向があります。また、大部分が乳腺の下に注入されている場合でも、強い圧を加えて注入した場合には、カニューレの挿入箇所に近い部分に、カニューレの経路に沿って、ジェルが拡がってきます。また、乳腺が小さい場合には、注入したジェルが乳腺下に収まり切れず、結果的に皮下浅層に拡がった状態になります。

変形に関しては、やはり、注入手技の問題が大半を占めていると思われます。そして、これは術後の感染に関しても言えることなのですが、術後のドレッシング(ガーゼを貼ったり、包帯を巻いたりすること)が、不完全だったと思われます。注入口は、ガーゼを弾力性のあるテープで張り付け、少なくとも当日は圧迫した状態にしておくことが必要です。このことは、アクアリフトのメーカー側の手技説明にも記載されています。それを怠れば、注入口のほうにかけては、ジェルが逆流しやすいため、変形を惹起するということです。

今回の声明は、合併症が多数発生しているということが、その理由なのですが、合併症の原因は、ほぼ全て、非吸収性ジェルによる豊胸術は「異物を挿入する」手術であるという本質を捉えずに、単純な注射処置であるという術者側の認識から来ているものと思われます。

尚、今回の非吸収ジェルによる豊胸術の禁止声明は、JSAPSとJSASの共同声明ですから、どちらに所属している医師であっても、近日中に内容を知るようになるでしょう。

ちなみにアクアリフトは、ここに出てくるウクライナ製。アクアフィリングはチェコ製で、一時、アクアリフトの製造元と、商標や特許で紛争中でした。現在、アクアリフトは、アクティヴジェルという名称で販売されています。

そこで、ここが微妙なところなのですが、今回のこれは、禁止「声明」です。あくまでも「声明」で、「命令」ではありませんので、強制力はないのです。また、今回の声明に名前を連ねているどの団体も、政府機関ではない以上、強制力はなく、最高の処分でも、除名となります。したがって、この声明が出されたにもかかわらず、今後もアクアフィリング・アクアリフトを使用し続ける医師・医療機関は存在すると思われます。商業的な医療機関なら、アクアフィリング・アクアリフトという名称を使用せず、別の名称を使用・商標登録したり、新しいアクティヴジェルという名称を使用することも、考えられます。