日本美容外科学会会報が送られてきました。

「日本美容外科学会会報」 とは、日本美容外科学会(Japan Society of Aesthetic Plastic Surgery, JSAPS)の機関誌です。同名の日本美容外科学会(Japan Society of Aesthetic Surgery, JSAS)の機関誌は「日本美容外科学会誌」といいます。


私はJSAPSの会員ですので、その機関誌である「日本美容外科学会会報」 が、登録住所であるクリニックに送付されてきます。
「日本美容外科学会会報」の内容については、他の学会誌にも見られるように、玉石混交ではあります。「専門医資格の更新のためだろうな」と思われる開業医の投稿や、「教授に言われて学位論文の主論文を投稿したかな?」といった感じの論文なども、散見されます。形成外科学会の分科会的な色彩が強い学会の機関誌であるため、純粋な美容外科の投稿よりも、むしろ再建外科的なものが目立つ時もあります。また、あまり新しい術式や技術などはなく、悪い言葉でいえば、今更的な、散々皆が行った後の、出がらし的な内容も多くあります。しかし、大学の形成外科の教授や、論文発表に熟練した先生方が査読しているため、商業誌とは違って、内容的には信頼できるものです。そして、あまり新しい技術が盛り込まれないのは、慎重にデータを解析したり、長期経過を発表しているからでしょう。
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今号の掲載論文の中で、興味を持ったものは、以下の2論文である。
1)フェイスリフトにおける円錐形アンカー付き牽引糸のよるつり上げ術(シルエットリフト)の役割
2)2010年アメリカ美容形成外科学会(ASAPS)に参加して
どちらも、私の知り合いのDrによる執筆であるが、知り合いだからと言って興味を持ったわけではない。
1)については、シルエットリフトそのもの、つまり、単独での効果について述べたものではなかったが、ある意味、参考になった。と、いうのは、執筆者が開業する前に、一時、当院で働いていたことがあったのだが、その当時、彼は糸によるフェイスリフトやサーマクールについては否定的な見解を持っていて、「自分はやらない」と宣言していた。しかしながら、やはり、時代の流れなのだろうか?その彼自身が、こういった論文を発表するようになったのである。とは言っても、論文中の症例は全例、フェイスリフトやその他の手術との併用なので、無切開のシルエットリフトを提供している当院とは、やはりコンセプトが違うようである。つまり、彼の場合は、従来のフェイスリフトなどの手術を、剥離範囲を小さくしたりして、より低侵襲に改良するために、シルエットリフトを使用している。当院のシルエットリフトのコンセプトは、全く切開しないというものなので、やはり、コンセプトの違いは明瞭である。
2)は、アメリカの学会参加日記のようなテイストで、非常に参考になった。特に、脂肪注入による豊胸術について、当地ではどのような発表がされているかということである。
このことに関して、全体的には、約15年間に及ぶ私の持論とその実践である、Micro-fat graft 、つまり、小さな塊でいろいろな層に広範囲で脂肪を注入するという手技は、やはり正しかったという確証が得られた。また、一度に大量の脂肪を注入する方法(メガ脂肪注入などと商業的に称しているクリニックもある)は、7から8人に1人の割合で、脂肪の壊死やそれに伴うのう胞の発生があり、石灰化へのリスクになることも、私の持論と同じであった。具体的には、
1)平均片側230cc注入の発表では、脂肪壊死は小さなもので、特に問題なく経過し、生着率も高かったということ。
2)200ccから500ccの、大量の脂肪注入の発表では、7から8人に1人の割合で、脂肪の壊死やそれに伴うのう胞の発生があったということ。
しかし、1)のDr.は、脂肪幹細胞の併用については否定的な見解を示していたということなので、この点だけは少し腑に落ちない感はあった。だが私自身も、正確に言えば、脂肪幹細胞が注入脂肪の生着を上昇させるとは思っていない。脂肪幹細胞が分泌する成長因子が、注入脂肪の中に含まれている幹細胞にも働いて、添加した幹細胞を含めた、大量の幹細胞が脂肪組織へと分化増殖し、吸収された脂肪に代わってボリュームを作り、豊胸効果を増加させるのだと思っている。つまり、幹細胞が少ない状態であっても、成長因子さえしっかりと働けば、脂肪注入の効果は結果としてほぼ100%の生着が得られるということである。