シリアの学会へ 9 シリア・ダマスカス 聖アナニア教会

やはり、全人口の10%しかキリスト教徒がいないため、大きな教会はなく、街角のあちらこちらにマリア像が、まるでお地蔵さんの祠のような感じで存在する。


城塞に囲まれたダマスカスでは、大きな建物のほとんどが、イスラム教のモスクなのだ。そんな中でも、ダマスカスには有名な教会がある。新約聖書の、「ダマスカスの奇跡」の舞台である、聖アナニア教会だ。ここの地下礼拝堂(アナニヤの家の地下室)は、キリスト教徒にとって、聖地のひとつといっても過言ではないだろう。ダマスカスの奇跡とは、新約聖書に記載のある、ユダヤ教徒のパウロが改心して、キリスト教徒となり、キリストの最初の使徒72人の一人となり、聖人として称えられるようになる経緯である。内容は、次のとおり。
エルサレムにおいてキリスト教徒を迫害していたのだが、ある時、イエスの弟子を捕らえるためにダマスカスに遠征した際に、復活したキリストから、「サウロ、サウロ、なぜ、わたしを迫害するのか」(サウロとは、パウロのユダヤ名(ヘブライ語))と呼びかけられる。そして、郊外で落雷に遭い、失明してしまった。その時に、パウロには天から「まっすぐな道に行け」という神の声が聞こえた。その声のとおりに、「まっすぐな道」に行ってみると、キリスト教徒のアナニアに出会った。アナニアはパウロの目が治るように祈りを捧げたと言う。すると、パウロの目から魚のうろこの様な物が落ちて、パウロの目は再び見えるようになった(「目から鱗」の語源)。これを「ダマスカスの奇跡」と言い、奇跡を体験したパウロはキリスト教に改宗し、キリスト教のを伝道師となった。
聖アナニア教会は、確かに地下に礼拝堂があり、中は古い石造りの空洞になっている。そこにはキリスト教の礼拝堂がしつらえてある。入り口は狭い階段で、家の外から入るようになっている。何か物が置いてあれば、地下室への入り口とはわからない様だ。初期のキリスト教徒が、まさに「地下に潜る」といった具合に、信仰を守り続けてきた雰囲気が満ちていた。ダマスカスの奇跡の頃は、この辺りはユダヤ教が支配的で、現在のシリアはイスラム教国。建造物はモスクが幅を利かせている。多分、宗教という観念が欠落している我々日本人には、理解不能な歴史的経緯を辿ってきたのが、シリアという国で、ダマスカスはその首都なのだ。私は、祭壇に向かって、敬意を込めて手を合わせた。私はキリスト教徒ではなく、彼らからすると、いわゆる「異教徒」なのだろうが、神様は神様である。天皇陛下が日本の天照大神の子孫であるのと同じく、すでに没しているが、キリストも神の子・神の使いである。手を合わせて悪いことはないだろう。ただし、これは信仰ではなく、敬意の表現である。
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