シリコンバッグを抜去して成長再生豊胸で再建(Wを1回のみ)

約20年前に、他院にて、バッグによる 豊胸 術を受けたモニターさんです。年齢的には50歳代後半です。若い時には目立たなかった、リップリングを主訴として、非常に遠方から来院されました。

術前の状態と、術中のバッグを除去した状態

摘出したバッグ。内容はシリコンですが、バッグ自体には全く異常を認めません。


成長再生豊胸を注射した直後の状態と、術後1ヶ月の状態

新幹線で片道約3時間+在来線1時間近くかけて、当院のことを探して来られたということです。リップリングとは、簡単に言うとしわができてしまった状態です。その本体はバッグの表面のしわです。豊胸用のバッグは、中身がシリコンでも生理食塩水でも外側を覆っているのは、シリコン製の膜です。ちょうど袋の中に、シリコンなり生理食塩水なりが入っている状態です。そのシリコン製の膜は、中身や周囲の組織よりも硬い物質なので、しわが出てくるということです。
さらに、本人さんの希望としては、乳がん検診で異物が入っていることが分からないようにとの希望で、バッグの入れ替えではなく、成長再生豊胸による再建を計画しました。

バッグによる豊胸術の、もっとも頻度の高い合併症と言われているのが、カプセル拘縮です。
カプセル拘縮が発生すると、バストが非常に硬くなり、場合によっては変形や痛みが発生します。このことは皆さんは十分にご存知かと思います。しかし、リップリングについてはあまり知られていません。それは、カプセル拘縮が術後比較的早期(術後5年以内)に発生し始めることが多いのに対して、リップリングは術後早期の段階では発生率が少なく、術後、もっと時間が経ってから発生する場合が多いからです。
リップリングについては、皮下脂肪層や真皮に厚みがある若い年代のときには、発生しません。なぜなら、皮下脂肪層や真皮がクッションの代わりになり、シワを覆い隠してしまうためです。こちらのモニターさんも、手術した当初は、カプセル拘縮のない柔らかいバストで、本人的には大満足の状態だったそうです。

リップリングの症状ですが、簡単に言うと、バストにしわが発生するということですが、手術の方法によって、発生する症状や位置的なものに違いがみられます。
バッグによる豊胸術の手術法は、大きく分けて2つに分けられます。一つは大胸筋の上にバッグを挿入する方法です。これは筋膜下だとか、乳腺下などという名前で呼ばれていますが、筋膜は厚さ1mmにも満たないため、バッグ上の組織の厚さから考えると、乳腺下法と同じとみていいでしょう。そしてもう一つの方法は、大胸筋の下にバッグを挿入する方法です。この方法を大胸筋下法と言います。乳腺下法の場合には、バストの上のほうにシワが発見されやすく、大胸筋下の場合にはバストの下から外側にかけてシワが出やすいという傾向にあります。また全般的には、大胸筋下法よりも乳腺下法のほうが発生頻度は高い傾向にあります。
リップリングは、やせ型に人に多く、カプセル拘縮は伴わずに柔らかいバストを維持できている方が大半です。また、年代的には20代よりも30代以降に多い症状です。これは、20代のときにはバストの皮下組織に弾力性と厚みがあり、しかも皮膚にも厚みがあるからです。出産後、バストが元の大きさに戻ったことが契機で発生することも多くあります。この場合には、妊娠中に乳腺のサイズアップによって引き伸ばされた皮下脂肪と皮膚が、弾力性と厚みを失った結果、リップリングが発生するのです。

リップリングの治療は、これまでも、たくさんの方法が試みられてきました。例を挙げると、
バッグの周囲に脂肪注入をする方法
バッグを除去して脂肪注入する方法
バッグが入っているカプセル内に同種真皮移植を行う方法
バッグの入れ替え
生理食塩水バッグが挿入されている場合には、生理食塩水の増量
などです。

バッグの周囲に脂肪注入する方法ですが、非常に薄くなっている脂肪層に対して脂肪を注入するため、その効果は限られています。つまり、生着率が低いのです。また、脂肪を注入する際に、注入用の針の先でバッグの破損が発生することもありますので、慎重に手技を行う必要があります。
バッグを除去して脂肪注入をする方法は、バストに対する脂肪注入の、最近の進歩によって、非常に良い結果を出すことができるようになりました。特に幹細胞とWPRPFを併用することで、しこりを作ったりせず、生着率は80%以上を記録でき、近年、過去にバッグで豊胸手術を受けた方が、バッグを取り出してこちらを受けるケースが後を絶ちません。ただしこの方法は、幹細胞採取用の脂肪と注入用の脂肪と言う風に、比較的多くの量の脂肪吸引が必要になります。したがって、脂肪吸引の箇所については比較的広い箇所が必要で、術後のダウンタイムについてもそれなりの準備が必要です。
バッグが入っているカプセル内に同種真皮移植を行う方法は、大胸筋下に大きなバッグを挿入しているケースが多い、アメリカでよく行われている方法です。大胸筋下での手術の場合、前述のようにバストの下外側にリップリングの発生が多く、この部分に同種真皮移植を行って、皮膚を厚くして、リップリングを隠すというものです。同種真皮移植とは、他人の真皮を移植することです。この移植する真皮は、当然ですが、生きている人から採ってくることはできないので、死体から採ってくることになります。アメリカや韓国ではすでに、このような真皮が凍結乾燥されて製品になっており、医療器具として流通しています。アメリカではAlloderm(アロダーム)、韓国ではSurederm(シュアダーム)という製品です。どちらも日本では承認されておらず、また、個人輸入しようにも、人体を原材料とした製品なので、事実上通関ができない状態です。さらに、この手術は、アンダーバストの下に長い切開創が必要ですから、日本人を含む有色人種向けとは言えない手術でもあります。
昔の生理食塩水バッグで行った手術では、中身の生理食塩水が少しづつ減少することで、リップリングが発生してくることがあります。その場合、シリコンバッグに入れ替えてやることや、中身の生理食塩水の増量によって、症状の改善をみる場合があります。しかし、リップリングの本体が、バッグの外膜のしわであることから、バッグを入れたままにしておくこれらの手術法では、根本的な解決にはなりません。加齢に応じて皮下組織や皮膚が薄くなってくると、再びリップリングが発生してくることが多いと思われます。

こちらのモニターさんについては、痩せているので、バッグを除去して脂肪注入を行うためには、脂肪注入と幹細胞採取用の脂肪を採ってくるために、かなり広い範囲の脂肪吸引が必要である状態です。
したがって、術後の状態も厳しいことになり、ダウンタイムも必要になります。そうなると遠方から来院されている関係上、当院近辺への滞在期間も長くなります。そこで、バストのサイズについては完全な再建を目指さないことを条件に、成長再生豊胸による豊胸術を行うことにしました。成長再生豊胸の場合には、注入用の脂肪を採取するための脂肪吸引の必要がありません。したがって、成長再生豊胸自体の術後のダウンタイムは皆無に等しいと言えます。しかし、バストのサイズについては、バッグを除去する前のサイズを再現することは、処置回数を重ねないことには困難です。