局所麻酔薬中毒について

局所麻酔中毒は、注射液が脂肪組織内で吸収された後に血液内に入って、血液内のキシロカイン濃度が上昇し、過量のキシロカインが脳に達することで中毒症状を起こすことです。


そこで、脂肪吸引の際に、通常使用される局所麻酔の投与安全域については、既に国際的に常識になっている基準があります。 この基準については、1990年代には既に常識となっていたのですが、不勉強な美容外科医の場合には、これを知らないことも多いのが現状です。
皮下脂肪層に注射する局所麻酔は、その濃度によって、
0.1%エピネフリン入りキシロカインで、体重1kgあたりキシロカイン70mg
0.15%エピネフリン入りキシロカインで、体重1kgあたりキシロカイン50mg
1%エピネフリン入りキシロカインで、体重1kgあたりキシロカイン7mg
患者さんの体重が50kgとして、それぞれ、3500ml、1667ml、35ml
このように、脂肪吸引の際の使用する局所麻酔薬の上限量は、濃度によって違ってきます。
なぜ、濃度によって違ってくるのかというと、高濃度の場合には血液内キシロカイン濃度の上昇が早く、代謝や排出など、濃度を下げる働きがそれに追いつかないので、血液内に蓄積されてしまうからです。また、急激な血液内濃度の上昇は、脳細胞の細胞膜での電位変化も急激なものにしてしまい、ゆっくりと濃度が上昇した場合と比較して、比較的低濃度の状態で中毒症状が発生するからです。
局所麻酔薬(キシロカイン)は、その濃度によって、中毒症状を起こす上限が違ってきます。では、濃度が薄ければ薄いほどいいのかというと、そういうわけでもありません。たしかに、中毒症状だけを見ると、薄いに越したことはないのですが、今度は、麻酔効果(痛みを取る効果)に問題が生じます。
実際のところ、筋膜層から皮膚直下まで行う、当院の脂肪吸引の場合、実際のところ、0.1%では、大半の人が痛がります。これは、皮膚直下と筋膜へのカニューレの接触時の痛みです。脂肪層については問題ありません。0.15%では、ところどころ痛みがあります。注入後、30分経過すると、ほぼ、痛みを感じなくなります。 完全に皮下脂肪層に対して、脂肪吸引の際に、すぐに麻酔効果を獲得するには、0.2%の濃度が必要です。 そうすると、体重が50kgの患者さんでは、約900mlの量しか注射できません。