F to M 乳房切除術とは、胸部の男性化を目指して、乳房を切除してしまう手術です。目標としては、バストの平坦化なのですが、男性でも、バストが全く平坦と言うわけではなく、それなりの形を有しています。したがって、この手術の究極の目標としては、バストを小さくするということは勿論ですが、「形」そのものを、男性的にすることです。基本的には、乳腺の摘出、皮下脂肪の減量、皮膚の切除からなりますが、同時に乳輪や乳頭の縮小を希望される方も、多くいらっしゃいます。

手術法の概要としては、まず、乳腺を取り巻く皮下脂肪の処理を行います。基本的・実際的には、脂肪吸引です。その後、皮膚を切開して、乳腺の摘出を行います。乳腺を摘出したら、あるいは、乳腺の摘出と同時に、皮膚の余りを切除します。つまり、この手術は、

脂肪吸引

乳腺切除

皮膚の切除

の3段階から構成されています。

 

脂肪吸引

バストの脂肪を除去することで、乳房の体積を小さくすることができます。脂肪吸引は、細い管(カニューレ)を使用して、陰圧をかけて脂肪組織を除去する手術です。術前には、隙間なくぎっしりと詰まっている脂肪組織が、術後には、脂肪組織の中の脆弱な部分が取り除かれ、ハニカム状(ハチの巣状)になります。ハニカム状になった脂肪組織は、比較的太い血管や神経が残されていて、圧迫によって容易に止血できる状態です。また、この状態になるということは、脂肪吸引は、脂肪組織の中に埋まっている血管を、良く見えるように掘り出しているということもできます。つまり、手術の初期段階で脂肪吸引を行うということは、この後の乳腺の摘出に際して、血管の焼灼・結紮による止血操作や、靭帯の切断などを、より確実にするものです。
この脂肪吸引に際しては、ボリュームと言う点では、乳頭よりも下の部分の脂肪を重点的に除去します。当然、脂肪吸引は乳腺の周囲全ての範囲にわたって行うのですが、重点的に行うのは、乳頭よりも下の部分になります。理由としては、女性のバストと男性のバストの形の差です。女性のバストの形は、乳頭を含めて、全体的に前方に突き出しているか、または、乳頭よりも下の部分のボリュームが豊富です。それに対して男性の場合には、乳頭よりも下の部分のボリュームが少なく、鎖骨に近い部分は、所謂、胸板として前方に張り出しています。そこで、この後の乳腺の摘出が終了した後のバストの形を考慮すると、バストの上のほうの皮下脂肪は、取りすぎないことが大切だと考えられます。
そして、これは当院の脂肪吸引の特徴なのですが、できるだけ細い吸引管(カニューレ)を使用する関係上、凹凸を抑制しつつも、皮膚の直下の脂肪を、除去することができます。そのことで、術後には、ある程度の皮膚の縮みが出現するため、余分な皮膚の切除も、最小限に止めることができます。これは、1990年代半ばに、表層脂肪吸引による皮膚の引き締めとして発表された理論に則った手法です。皮膚の切除を最小限に止めることができるということは、切開線を短くすることができ、術後の傷跡も、より目立たないものにすることができるということです。

 

乳腺の摘出

脂肪吸引が終了したら、次は乳腺の摘出に移ります。当院では、大部分の症例で、乳輪周囲切開を使用します。乳輪の縁に沿った、乳輪の下半周の切開です。しかし、バストの大きさや下垂の程度、皮膚の弾力性などによっては、乳輪周囲切開だけでは、男性的なバストの創造が不可能な場合もあります。その場合には、切開線を延長したり、本格的な乳房縮小術のような、逆T字型の切開線を設定する場合があります。
乳腺摘出の際に、最も注意すべき点は、術後の出血をいかに防止するかということです。そこで、前のステップである脂肪吸引が、役に立ちます。前述のように、脂肪吸引を前もって行っておくことで、脂肪組織がハニカム状になり、脂肪組織の中に埋まっていた血管が、良く見えるように なるためです。乳腺に向かって入って行っている動脈は、主に上下内外の4本と、乳腺の底面からの、合計5本が、脂肪組織の中で枝分かれしています。そこで、これらの血管のできるだけ根元を、吸収性の糸でしっかりと結紮することで、術後の出血を防ぐことができます。これらの血管は、脂肪組織の中で枝分かれしているため、脂肪吸引でそれらがしっかりと見えるようにすることは、結紮による止血を、より確実にするものであると言えます。

 

皮膚の切除

最後に、余った皮膚の切除を行います。当然のことですが、皮膚の余りがなければ、この操作は行わず、乳輪周囲の創を閉じて、手術は終了します。皮膚に弾力性があり、乳腺や皮下脂肪の重みがなくなることで、皮膚が十分に縮む場合にも、皮膚の切除は必要ありません。この、皮膚の切除を必要とする場合でも、皮膚の余りが少なく、乳輪の周辺だけで余った皮膚を処理でき、傷は乳輪周囲のみの場合もあれば、乳輪の両サイドに一本づつの傷を残す場合、さらに、逆T字の傷が、乳輪からアンダーバストにかけて必要な場合など、様々な場合があります。また、若いうちから十分にホルモン治療を行っておくことで、乳腺やその周辺の脂肪組織の萎縮が得られます。そうすると、バストのボリュームに伴う皮膚の伸びも抑制され、皮膚の切除も少なくて済みます。したがって、傷を少なくしたい場合には、まず、ホルモン療法をしっかりと受けていただくことが、大切なことになります。

皮膚の余りがない場合

乳輪の大きさを小さくする必要がなく、皮膚の余りが出ない場合には、傷は、乳輪の下半分だけで済みます。

 

皮膚の余りが少ない場合

乳輪の大きさを小さくする必要がなく、皮膚の余りが少ない場合、傷は、乳輪の下半分と、その両側に少しの傷で大丈夫です。

 

皮膚の余りが中程度の場合

乳輪を小さくしたり、移動させる必要がある場合や、皮膚の余りが中程度の場合には、乳輪周囲とその両側に、傷ができます。

 

皮膚の余りが大きく、胸板を厚く作る場合

筋肉の形に合わせて、皮膚を切除します。但し、縫い合わせる上下の皮膚の長さを合わせるために、腋の下まで、傷が来ます。皮膚の余りが大きいので、乳輪・乳頭は、位置の変更が必要なので、乳輪周囲の傷も必要です。

 

皮膚の余りが大きく、胸板を厚く作れない場合

クラシックで、オーソドックスな、皮膚の切除になります。胸板が薄く、肉付きも良くない場合には、この方法になります。

 

最後に、この手術は、基本的には、豊胸手術を行ったとしても、まるっきり元の状態に戻せるという手術ではありません。したがって、手術を受ける際には、熟慮の上に決断することが必要です。