注入した脂肪の平均生着率100%に迫る、オリジナル脂肪注入豊胸術です。

脂肪注入による豊胸術と言うと、どうしても、注射した脂肪が残らないというイメージがあると思います。 確かにこれまでの脂肪注入豊胸術は、注入した脂肪のうち、平均で30%程度の生着率で、 中には全く豊胸効果を感じることのできない症例も存在しました。 そこで、幹細胞やコンデンスリッチ・ファット、SVCを利用したり、ピュアグラフトなどの新しい脂肪分離法を利用して、 生着率を高め、より豊胸効果を高めようという技術が出てきました。 しかしこれらを使っても、脂肪の生着率は、最も高いもので70%が限界でした。 そこで当院では、再生医療のもっと深い部分の研究と、 これまでの方法の技術的欠点を洗い出し、注入した脂肪の平均生着率を90%まで向上させることに成功しました。 そしてついに、現在では、当院での豊胸術はこの成長因子併用・高生着率脂肪注入豊胸術が主流となり、 これまでのシリコンバッグを挿入する豊胸術は、特殊な例を除いて、ほとんどなくなってしまいました。

高生着率脂肪注入の、おおよその流れと特徴

まず、気になる部分から、当院独自の極細脂肪吸引カニューレを使用して、皮下脂肪を脂肪吸引します。 そして、注入した脂肪の生着率を高めるため、血液成分や脂肪吸引の際に使用した薬剤の混ざった生理食塩水、 そして死んでしまって役に立たない細胞などを、遠心分離にて取り除きます。 さらに、幹細胞をはじめとした、脂肪吸引で獲得した脂肪組織内の細胞の濃度を極限まで濃縮します。 次に、このようにして濃縮した細胞と脂肪細胞に対して、独自の特殊加工を施します。 この特殊加工とは、成長因子や数種類の薬剤を、適切な細胞成分に対してそれぞれ反応させるように、混合する作業です。 最後に、このようにして作成した豊胸用の細胞加工物を専用の注射器に充填し、バストに注入します。

高生着率脂肪注入の特徴は、何といっても、注入した脂肪組織の生着率(吸収されずに残る脂肪組織の割合)が、大幅にUPしたことです。 これまでの脂肪注入による手術の場合には、生着率が顔の場合で約30%から50%・バストの場合で約20%から30%の生着率でした。 しかし、この高生着率脂肪注入 の場合には、どちらも平均90%以上の生着を可能にしました。 そしてこの生着率はあくまでも「生着」率であり、死んでしまった脂肪組織によって形成された、 硬いしこりによる豊胸効果ではありません

高生着率脂肪注入の、詳しい手術手順

1)脂肪吸引をするところに、麻酔をする。

麻酔の方法は、脂肪吸引で採取する脂肪の量、つまり注入する予定の脂肪の量によって決まります。 しかし、豊胸術の場合には顔面とは違って、比較的多くの脂肪を必要とするため、脂肪吸引の範囲もある程度の範囲を設定する必要があります。 そこで簡易な全身麻酔としての静脈麻酔を使って、眠っている間に硬膜外麻酔を施します。

2)脂肪を、針のような極細の吸引管で採取する。

当院オリジナルの極細吸引管(カニューレ)で採取することで、カニューレを挿入した跡は、 治癒してしまえば「ない」と言っても過言ではないほど、目立たなくなります。
また、極細のカニューレで脂肪吸引することで、採取された脂肪の粒が直後から非常に小さいものとなっています。 そのため、それらを加工して注入用の脂肪を作成する際にも、加工効率が良く、 注入後にも周囲のバストの組織から、注入された脂肪細胞や幹細胞などを含む成長細胞への栄養や酸素の供給が、 豊富に、かつスムースに行われます。これらのことは、注入した脂肪組織の生着率のUPに貢献します。

3)脂肪を注入するところに、印をつける。

バストの中の、どの部分に、どれくらいの量の、注入用として準備した脂肪を注射するかを、あらかじめ検討しておきます。 そして手術の前には、その計画に沿って、バストに印をつけていきます。 当然のことですが脂肪吸引に際しても、どこの部分から、どのような形を作ることを目的として、 どれくらいの量の脂肪を採取するかを、きちんと印をつけます。 基本的には、立った姿勢か、もしくは座った姿勢で、この印は付けていくことになります。

4)脂肪を注入するところに、麻酔をする。

脂肪注入を行うバストに麻酔をします。 大半の場合には、脂肪吸引を開始する前に、脂肪吸引用の硬膜外麻酔を行う際に、眠っている間に、 同時に麻酔用のカテーテルを挿入していますので、このカテーテルから麻酔薬を注入します。 注入する予定の脂肪が多くない場合には、局所麻酔で十分ですので、局所麻酔で行うこともあります。 
この場合には、一度、局所麻酔液で、脂肪注入によって膨らませたい部分を膨らませてみることもあります。 そうすることで、バストの中の部分ごとに、必要な注入用の脂肪の量を決定しなければならないケースがあるからです。 このように局所麻酔薬で膨らませてみるといった手法を採った場合には、麻酔薬がよく吸収されるように、 マッサージを行い、麻酔液による腫れをできるだけ取り去ります。

5)脂肪を注入する。

バストに加工した脂肪を注入します。その際、使用する針は、先端が丸いものを使用します。 これは、周辺の脂肪組織をできるだけ傷つけないようにするためです。 周辺の脂肪組織を傷つけないことで、血管やリンパ流などの、栄養と酸素を脂肪組織の中で細胞に運搬するシステムを保存し、生着率を高めます。 さらに注入する脂肪組織は、一つのかたまりが約0.1cc以下になるように、別々の深さ・位置に、できるだけバラバラになるように注入します。 これは、周囲の組織からの脂肪細胞への栄養の供給が豊富に、かつスムースに行われるようにするためです。こうして生着率を向上させ、しこりを残さない脂肪注入が可能になります。

6)帰宅

局所麻酔のみで処置を受けた方は、このあとすぐに帰宅できます。
脂肪を注入する際に硬膜外麻酔を使用した方は、約2時間の休憩の後、帰路につけます。

術後の経過・バストの変化

手術を行った箇所のうち、バストに関しては注入・注射のみですので、この手術の術後は非常に楽なものです。 腫れに関しても、約1週間あれば、ほぼ退いてくるでしょう。 内出血は、全く出ないと言えば嘘になりますが、出ても非常に軽度で、その軽度な内出血も、術後約2週間でほとんどなくなります。
当院では、手術翌日(術後1日目)の再診を推奨しています。 手術翌日の再診の際、脂肪吸引したところのヘビーな圧迫固定を外して、カニューレ(吸引管)の挿入口に、防水フィルムを貼るためです。 その時に、バストのほうも検診し、注入した時の針穴にも防水フィルムを貼って、針穴を防水します。 そうすることで、シャワーを全身、浴びてもらうことができるようになります。 大部分のケースでは、バストに対する防水は特に必要ないのですが、あくまでも念のために行います。 それは、豊胸のためにバストに脂肪は、術後早期のうちは十分な血流が再開されていませんので、細菌感染に対してとても弱く、中に細菌が繁殖しやすいからです。 この状態で注入された脂肪が細菌感染すると、その脂肪は激烈な炎症を起こし、豊胸目的で注入された脂肪は細菌によって溶かされ、「膿」が溜った状態になってしまいます。 そうなると、バストに小さな切開を加えて、膿を排出させ(排膿)、場合によってはドレーンの挿入と留置が必要になります。 せっかく注入した脂肪を、全て膿として排出させないといけないばかりか、石灰化を伴ったシコリを残してしまいます。 このような事態が起こらないように、当院では、手術の翌日に再診していただいて、念のために防水フィルムによる防水処置を受けていただいています。
術後1週間すれば、細菌感染の危険もほとんどなくなります。 その時点で、入浴に関しても、シャワーだけでなく、浴槽に浸かることができるようになります。 バストの腫れも、かなり退いている状態です。 ここからは、バストが、一度、小さくなってきます。 これは、注入した脂肪が、吸収されると言うよりも、細胞一つ一つが小さくなるためだと思われます。 この現象は、約1カ月から2カ月の間、続きます。 その後、もう一度細胞が大きくなってきて、バストの大きさが再び大きくなります。 大きくなるのは、術後6ヶ月間にわたって、徐々に大きくなり、その後、成長を停止します。 ここまでのバストの変化を、簡単に説明すると、たとえば以下のようになります。 

1)AカップからCカップになるように、脂肪の量を考えて、高生着率脂肪注入でを行った。
2)術後すぐにはCカップになったが、術後1から2カ月で、Bカップになってしまった。
3)しかし、3カ月目には、再びCカップになった。

このような、術後3カ月目に再びバストの体積がおおきくなり、成長する脂肪注入は、豊富な幹細胞と成長因子を併用する必要があります。 実際、私の経験上、通常の脂肪注入(コンデンスファット)では、2カ月で吸収が終了すると、それ以降、バストのサイズは 変わりません。 また、幹細胞+脂肪の注入では、吸収は少ないものの、2カ月目以降のバストの成長は見られませんでした。 以上から分かったことは、長期経過の中で、バストが再び大きくなるのは、成長因子の作用であるということです。
ところで、この成長因子ですが、シワに用いるPRPとは、成長因子の混合濃度や粘チョウ度がまったく違います。 また、作用のさせ方が違います。 シワに使用する場合は、主に皮膚に対して作用させるわけですから、皮膚に作用しやすいように、粘チョウ度と成長因子の濃度を調整しています。 それに対して、バストの場合には、皮下脂肪に作用させるわけですから、シワに注射するのとは、全く異なったフォームをとるのです。

高生着率脂肪注入豊胸術の症例解説

非常に痩せている、20代女性のモニターさんです。術後の写真は、3か月以上経過したものです。

授乳後の急速なバストサイズのダウンを気にして、高生着率脂肪注入を決意しました。
太ももとヒップからの脂肪吸引を行いました。
鎖骨の下からバストにかけて、広い範囲で脂肪注入を行い、肋骨の浮き上がりをカバーしています。費用:110万円

高生着率脂肪注入で豊胸術を受けた、20歳代のモニターさんです。モニターさんには顔が出ることを承諾の上で、モニター契約に及び、写真を掲載しております。

脂肪を採取した箇所は、主として太ももですが、腹部のタルミの修正のために、上腹部と下腹部にもプラズマリポのたるみ取りモードを施行しています。腰の部分と太ももには脂肪吸引を行っています。
バストへの脂肪の注入量は、片方に付き200ml、両方のバストで合計400ml。術後の計測値としては、両方のバスト共に、約180mlの脂肪の生着を見ておりますので、生着率は90%。ブラのカップにして、約2カップの乳房体積の増量に成功しています。

太ももと腰からの脂肪採取量は、高生着率脂肪注入での注入量である400mlを大幅に上回っています。

これは、水分や古い脂肪、さらに壊れた脂肪を脂肪吸引で採取した脂肪から取り除き、濃縮を行ったことが一つ。さらに幹細胞の分離を行うためにその一部を利用したことが原因ですが、それでももう一度バストへの注入が可能なほどの脂肪が残りました。しかし、片方のバストに付き200mlという量は、ほぼ、こちらのモニターさんにとっては限界の量でもあったということから、残りの脂肪は医療廃棄物として破棄せざるを得ないことになりました。しかし、予定注入量に満たない脂肪しか採れない場合よりも、脂肪吸引で採取した脂肪が余る方が、当初の目的を達成するためには好都合です。一般的に、脂肪注入の場合には、注入予定量よりも少し多めの脂肪を脂肪吸引で採取しておかなければなりません。

バストへの脂肪注入量の限界ですが、これは手術を受ける患者さんの、元々のバストの状態に大きく左右されます。

例えば、アンダーバストが大きくて、胸郭の幅が広い場合には、一度に多くの脂肪を注入することが可能です。また、皮膚に余裕がある方の場合には、比較的多くの量の脂肪注入が可能になります。では胸郭が狭く、皮膚に余裕がない方の場合には、脂肪注入ではあまりバストを大きくできないということですが、そうでもありません。その場合には、脂肪を数回に分けて注入することで、注入するたびに少しずつ大きくしていくという方法を用いればいいのです。手術の回数は増えますが、しこりになる確率は非常に低くなり、そういった面での安全性は向上します。これは、皮膚の下に風船を挿入して少しずつ膨らませていき、足りない皮膚を伸ばしていくティッシュー・エキスパンダーという方法と、理論的には同じです。

狭いスペースにたくさんの脂肪を注入すると、どういったことが起こるのでしょうか?それは、注入した脂肪が壊死に陥る確率が高くなるということができます。

つまり、注入した脂肪の多くが無駄になってしまうということです。また、しこりの発生率も飛躍的に増加します。
脂肪吸引で採取した脂肪細胞とその前駆細胞や幹細胞は、周囲の組織から取り外されています。この細胞の周囲の組織というのが、細胞に必要な栄養や酸素を運び、さらに不要な代謝産物や二酸化炭素などを細胞の周囲から取り去る働きをしています。その組織のことを、細胞外マトリックスと呼びます。細胞外マトリックスから取り外された細胞は、そのままではいずれ機能しなくなり、細胞死へと向かいます。そこで、これらの細胞を脂肪組織の中に移植すると、それまでの箇所ではなく、移植されたところの細胞外マトリックスから、必要な栄養や酸素を受け取るようになります。しかし、移植される細胞が大量になると、細胞外マトリックスから受け取るべき栄養や酸素を、移植された細胞やそれまでそこに元々存在した細胞同士が取り合う結果となり、ある限度を超えると、移植された細胞は栄養や酸素を受け取れずに、細胞死に向かい、それがかたまって存在すると、壊死という状況に陥るのです。このようなことが広い範囲で、たくさんの箇所で発生すると、注入した脂肪組織はその体積を大きく減少させてしまい、最終的にはバストのサイズは術前とほとんど変わらないという結果になってしまうのです。

また、脂肪組織が大量に狭いところに注入されると、注入された脂肪組織同士が接触して、大きな脂肪組織の塊となってしまいます。

そうすると、塊の周囲に近いところに存在する細胞は、移植された箇所の細胞外マトリックスからの栄養や酸素で生きていくことができます。しかし中心部分の細胞は、栄養や酸素の供給がなく、壊死に陥ることになります。壊死に陥った組織は、壊死が開始されると変性し始めます。変性が起こった組織は、既に自家組織としては機能しませんので、人体にとっては異物として認識されます。人体内の異物については、直径で約30ミクロン以下のものは、白血球の貪食機能によって、その個所から取り去られます。直径30ミクロンよりも大きいものは取り去られずに、その部分に残留します。そして周辺の組織から隔絶するために、その周囲にはコラーゲンを主成分とした膜が形成されるのです。つまり、脂肪組織が大量に狭いところに注入された場合には、このような異物反応も発生することになり、その結果、バストは術前と同じ状態に戻るか、周辺の膜の形成によって、しこりとして認識されてしまうことになるのです。

では、脂肪注入による豊胸術では、どのような注入が最も効率よく効果を発揮できるのかということが問題です。それはやはり、前回の記事のことを踏まえて考察すると、一つ一つの塊はできるだけ小さな粒にして、できるだけいろいろな層に少しづつ注入するということです。

一つ一つの塊をできるだけ小さな粒にするには、脂肪吸引の際のカニューレ(吸引管)が細くないといけません。太いカニューレでは、大粒の脂肪が採取されてくるからです。大粒の脂肪は、細い針には通りませんので、注入も太い針で行わなければならず、注入時の跡が目立つ結果になってしまうこともあります。また、脂肪吸引のカニューレ挿入口である皮膚の穴も大きくなり、こちらも目立つ跡を残してしまいます。
また、できるだけいろいろな層に少しづつ注入するということは、注入した脂肪の粒同士ができるだけ接触しないように注入するということです。脂肪の粒同士が接触すると、それらが一つの大きな粒ということになり、前述のように、死滅して吸収されてしまうかしこりになってしまいます。
このように、一つ一つの脂肪の塊はできるだけ小さな粒にして、できるだけいろいろな層に少しづつ注入するということを実践すれば、どうしても注入する脂肪の量は限定されてしまいます。それが、平均的日本女性の場合には片胸につき200mlということです。

このように、脂肪注入の安全性と効率を考えると、一度にバストに対して注入できる脂肪の量は限られているということができます。そこで、あとはその注入した脂肪のうちの何%が残るかというのが、脂肪注入による豊胸術で、良い結果を出すための決め手になります。

従来の方法によるバストの脂肪注入を行った場合に、注入した脂肪は最高で約30%といった結果でした。この場合、平均的な日本人女性にとって最高の量である、片方につき200mlの脂肪を注入した場合でも、残る量はそのうちの60mlです。この量では、ほとんどの場合はブラジャーのカップサイズのアップには及ばず、ブラジャーのパッド1枚分といったところでしょう。そこで、この脂肪の生着率をアップさせるべく考え出されたのが、PRP(多血小板血漿)の添加です。PRPというのは、患者さん本人の血液の中から血小板成分を取り出して濃縮したものです。これを添加することで、バストへの脂肪注入の生着率は最高で約50%まで向上しました。しかし、それでも注入された脂肪200mlのうち、最高で100mlしか生着しません。これはブラジャーのサイズにすると、およそ1カップ弱といったところでしょう。PRPの添加は、脂肪の生着率をアップさせたことは事実ですが、まだ、目標にはほど遠いというのが事実でした。そこで、次に登場したのが幹細胞の添加なのです。

幹細胞とは、いろんな組織の細胞の元になる細胞のことです。人間が成長するときや、怪我などで組織にダメージを負った時には、この幹細胞が分裂して細胞の数が増加し、それらのうちの一部がさらに分化して、元の細胞を補給することで、障害を受けた組織を修復します。

すなわち、この幹細胞が存在するから、成長もするし傷も治るということです。
このような働きをする幹細胞は、体中さまざまなところに存在しますが、成人の場合、その分布が一番多いのが脂肪組織と骨髄です。そこで、脂肪吸引で皮下脂肪を採取してきたときに、その中から幹細胞を取り出し、注入する脂肪に混ぜてバストに注入しようというのが、幹細胞併用脂肪注入です。
注入に使用する脂肪も、幹細胞を取り出すための脂肪も、どちらも幹細胞を含んでいます。しかし、脂肪吸引で採取されたこれらの脂肪には、普通に切除して脂肪を取り出した場合に比べて、幹細胞の含有量が約半分しか存在しないのです。そこで、その差である半分を補ってやることで、注入した脂肪の生着率を高められないかということが考えられたのです。この方法は、注入した脂肪の生着率を60%から最高で70%にまで高めることができました。しかし、この方法には大きな欠点がありました。

幹細胞併用脂肪注入の欠点は、脂肪吸引量が注入量の約2倍以上必要なことです。脂肪吸引量が多くなると、どうしても術後の経過がハードなものになってしまいます。

脂肪注入による豊胸術の場合、注入を受けたバストのほうは、術後の痛みも非常に軽いか、または痛みが全くありません。しかし、脂肪吸引を行ったところは、術後の圧迫固定を行っていても、痛みが発生します。この痛みについては、太いカニューレを使用して粗雑な手術操作を行えば、強く出る傾向があり、細いカニューレで丁寧な手術操作を行えば、筋肉痛程度で収まります。多くの量の脂肪を吸引するためには、それだけ広い範囲で脂肪吸引を行う必要があります。そこで、細いカニューレで丁寧な手術操作を行ったとしても、筋肉痛程度の痛みは発生しますので、広い範囲で脂肪吸引を行えば、それだけ痛みの範囲も広くなってしまいます。また、やせ形の体型の患者さんには、全身の脂肪吸引を行っても、脂肪の量そのものが不足しますので、この方法は使えません。

そこで、幹細胞の採取量=脂肪吸引量を減らすことができるように、少量の幹細胞を体外で培養して増やし、注入する脂肪に添加しようという試みがなされました。この試みは、いわゆる肌細胞注射などと宣伝されている、繊維芽細胞を培養して皮膚に注射する方法の脂肪バージョンと考えると分かりやすいと思います。

この場合の一番の問題点は、幹細胞の培養に時間がかかるということです。幹細胞採取のために脂肪吸引を行い、幹細胞を分離するのは1時間くらいで終了します。しかし、幹細胞を培養して、それなりの数にするためには、最低でも2~3週間の時間を必要とします。したがって脂肪吸引の手術は、幹細胞を採取するために1回、そして注入用の脂肪を採取するためにもう1回の、合計2回の脂肪吸引の手術を必要とする形になります。手術を2回に分けるということは、麻酔も2回かける形になり、また、脂肪吸引の術後の痛みや腫れなどの経過と、術後の生活制限も2回に及ぶということになります。これでは患者さんの負担が大きく、実用にはなかなか踏み出せるものではありません。また幹細胞の培養には、非常に高価な設備と薬剤が必要になります。そのため、治療費も大幅に高価なものになってしまいます。

そこで当院では、幹細胞を注射したところ、すなわちバストで増やすというコンセプトを開発し、採用しました。それが、当院の高生着率脂肪注入術です。



WPRPFとは、PRP(多血小板血漿)の血小板濃度を2倍(ダブル)にし、白血球(White blood cell)を含んだものに、成長因子(細胞増殖因子:Growth Factor:F)を添加したものです。つまり、WPRPFは細胞の成長・分裂・分化に、非常に大切な役割を担っている 成長因子(細胞増殖因子)や、それらの信号を受け渡すバイオシグナルを大量に、しかも高濃度に含有したものです。
このWPRPFの働きは、皮膚に注射した場合には、皮膚の細胞のうち、特に繊維芽細胞の増殖と活動性を向上させ、皮膚内のコラーゲンとヒアルロン酸やエラスチンの含有量を増加させます。また、皮膚内の幹細胞にも作用し、繊維芽細胞やその他の細胞をさらにたくさん作ります。そうすることで、さらに繊維芽細胞の増殖と活動性が向上し、皮膚内のコラーゲンとヒアルロン酸やエラスチンはさらに増加します。このWPRPFを皮下組織である皮下脂肪に注射すると、皮膚内の繊維芽細胞に対しての働きと同じ働きを、今度は脂肪組織に対して行います。しかし、繊維芽細胞と違って、脂肪細胞は分裂能がなく、増殖することができませんので、脂肪細胞になる前段階の細胞である、前脂肪細胞(Pre-adipocyte)から幹細胞までのいくつかの段階の細胞に対して作用し、増殖と活動性の向上が観察されます。また、乳腺の細胞に対しても同じ働きを及ぼし、その増殖と活動性を向上させます。また、WPRPFの幹細胞に対する働きは、その増殖を介して、 成長因子(細胞増殖因子)の分泌を助け、組織内の 成長因子(細胞増殖因子 )の濃度を向上させます。このように、バストの脂肪注入を行う際に、WPRPFを併用することは、その効果を最大限に発揮させるのに大きな役割があるということが、わかりました。当院の高生着率脂肪注入は、このようなWPRPFの作用を元に、その作用を分析し、WPRPFと同様の作用を注入した脂肪に対して示すように、成長因子を組み合わせて、注入する脂肪に添加したものです

幹細胞をバストに注入する脂肪に添加することで、注入した脂肪の生着率が約30%から約60~70%まで向上したことは、以前にお伝えしたとおりです。では、幹細胞とWPRPFを併用することによって、総合的にはどのようなメリットがあるのかと言う事ですが、それはもうお分かりかと思います。

幹細胞ばかりでなく、WPRPFの添加によって、より多くのメリットがあります。それらは、主なものを列挙すると、以下のようになります。
1)幹細胞のみを添加する場合に比較して、さらに注入した脂肪の生着率が向上した。
注入した脂肪の生着率が、平均して約80から90%にまで向上しました。
2)幹細胞の添加量を少なくすることができた。
幹細胞の添加量は、従来の10分の1まで絞っても、効果の指標である生着率には変化がなかった。
3)脂肪の生着率を増加させるばかりでなく、乳腺への作用も得られることで、より自然で形のいいバストを作ることができる。
注入した脂肪や元々バストに存在する脂肪組織と同時に、乳腺にも作用するため、構造的には、元々バストが大きい人のバストとほぼ変わりない状態になる。

1)幹細胞のみを添加する場合に比較して、さらに注入した脂肪の生着率が向上した。

幹細胞を注入する脂肪に添加した場合、脂肪の生着率は、約80%という報告もありますが、一般的には約60%から70%です。しかし、高生着率脂肪注入の場合には、それが平均90%と、ほぼ100%に近い量の脂肪が生着します。中には100%の生着を観察した症例もありますが、平均すると90%といったところです。この理由については、やはり成長因子群の作用によって、注入された脂肪の中にある前脂肪細胞以下、幹細胞までの増殖と分化能が刺激され、それを大きく発揮したためと考えられます。このことは、WPRPFの作用、つまりは、当院の高生着率脂肪注入に添加している成長因子群の作用として、幹細胞の作用そのものを助ける働きがあると同時に、バストの中で細胞の培養が行われていると考えることができます。

2)幹細胞の添加量を少なくすることができた。
WPRPFには、以前の記述のとおり、脂肪細胞を増加させるだけでなく、幹細胞に対してもその分裂能を増加させ、幹細胞自身の量も増加させます。

したがって、少ない幹細胞の添加でも、十分にその効果を発揮することができるということです。実際に、幹細胞の添加量は、従来の添加量の10分の1に絞っても、効果そのものに変化はありません。しかし、幹細胞の添加を行わない場合には、効果としてのバストに注入した脂肪の生着率は、大きな向上はありません。やはり幹細胞の添加は、効果を最大限に発揮させるためには、当院の高生着率脂肪注入に添加している成長因子群 を添加した場合でも必要不可欠であるということができます。では、幹細胞の添加量を少なくすることは、実際に患者さんにとっては、どのようなメリットがあるのでしょうか?それは、幹細胞の添加を少なくするということは、すなわち、幹細胞抽出用に脂肪吸引で採取する脂肪の量を少なくできるということです。以前にもお伝えしたとおり、バストの脂肪注入で、術後の経過、つまりはダウンタイムのキーポイントになるのは、注入するための脂肪を採取する、脂肪吸引です。脂肪吸引で採取しなければならない脂肪の量が少なくて済むということは、脂肪吸引を行う範囲を少なくすることができるということでもあります。また、同じ範囲で脂肪吸引を行う場合においても、その範囲における脂肪吸引による刺激が少なく済むということです。つまり、いずれの場合でも、術後の痛みや腫れ、生活制限などの各項目において、従来の幹細胞併用脂肪注入と比較して、非常に楽に術後を過ごせるということです。また、脂肪吸引で採取できる皮下脂肪が少ない患者さん、つまり比較的痩せ型の患者さんでも、高生着率なら、以前の幹細胞脂肪注入とは違って、脂肪注入による豊胸術を受けていただくことができるということです。

3)脂肪の生着率を増加させるばかりでなく、乳腺やそれを囲んでいる靭帯への作用も得られることで、より自然で形のいいバストを作ることができる。

バスト(乳房)は、脂肪組織のみで構成されているものではありません。たしかに、バストが大きな人は、その中にある脂肪組織の量が、通常よりも多いと言えます。しかし、バストの構造としては、いくつかの乳腺の塊(腺葉と言う)が、脂肪組織の中に浮いていて、それらが乳管を乳頭へと伸ばしています。そしてそれら乳腺と脂肪の合わさった組織が、クーパー靭帯という靭帯で取り囲まれ、胸壁の筋肉に固定されています。クーパー靭帯の周囲には皮下脂肪が存在し、その外側に皮膚があるのですが、バストの形を決めているのは、このクーパー靭帯や乳腺、皮膚と言うことができます。脂肪組織はこれらと比較すると非常に柔らかく、張りのあるバストを形作るには柔らかすぎます。つまり、逆に考えると、バストの中で、クーパー靭帯の内側では、乳腺が脂肪組織をいくつかに分割していて、その乳腺がクーパー靭帯とともに脂肪組織を支えていると言う風に考えることもできます。そこで、この乳腺とクーパー靭帯をしっかりと強化できれば、形のいいバストを作ることができるということです。実際に、白人の大きなバストは、その中の皮下脂肪の占める割合が大きいとされています。しかし、彼女たちの大きなバストは、形的には決して張りのあるものとは言えず、むしろ垂れ下がり方が大きいと言えます。高生着率脂肪注入の場合には、添加している成長因子群 と幹細胞から分泌された成長因子(細胞増殖因子)の働きで、乳腺とクーパー靭帯もしっかりと張りのある状態に持っていくことができますので、大きくなったからと言って、バストが垂れ下がって型崩れを起こすこともなく、自然な美しい形の豊胸効果を獲得することができるのです。

ところで、高生着率脂肪注入の、バストの部分に関する術後経過は、最初の腫れが大きく、予定よりもかなり大きなバストに仕上がるのではないかと不安に思われる方がいます。

この腫れについては、細かく脂肪を注入するために生じる腫れですので、必ずなくなっていきます。術後約2週間の間は、徐々に腫れが退いていく期間ですので、心配には及びません。その後、術後約1か月の間は、吸収されるべき脂肪が吸収されていきます。その後、術後3か月から半年目までの間は、注入された幹細胞や前脂肪細胞などの脂肪や乳腺として分化するべき細胞が、分裂と分化を繰り返し、再びバストが大きくなってきます。つまり術後1か月目が、術後の経過においては一番バストが小さくなった状態です。これらの経過については、吸収された脂肪に代わって、幹細胞や前脂肪細胞などがそれを補うまでに時間差があるからであるということができます。
脂肪細胞が死滅して吸収されていく過程では、どうしてもバストが小さくなっていきます。この経過は個人差がありますが、術後約1か月程度の間です。しかしながら、術後1か月の状態では、未だ幹細胞などの、増殖を繰り返して脂肪細胞に分化する細胞が、十分にその力を発揮しきれておらず、吸収された脂肪細胞の代わりとして十分なボリュームを出すには至っていないということです。その後、術後3か月程度までの間、これらの細胞が脂肪細胞やそれを支える血管などの細胞に分化・増殖し、さらにそこから細胞外マトリックスを大量に作り出すことで、脂肪組織の増量が得られます。このようにして、術後1か月目に脂肪の吸収によって一旦小さくなったバストが、その後再び大きくなっていくのです。

最近の研究では、バストに注入された脂肪細胞は、残らず吸収されてしまうという報告があります。しかし、これは注入した部分に脂肪組織が増えないということではありません。

たしかに、注入された「脂肪細胞」は、死滅してしまって全て吸収されてしまうことでしょう。しかし注入用に加工された脂肪組織の中の、幹細胞から前脂肪細胞までの、脂肪細胞になりきっていない細胞は、ほぼすべてがバストの中に残り、分化と増殖を繰り返しながら脂肪細胞を作り始めます。この過程を促進し、効果を最大限に出すためのものが 、当院の高生着率脂肪注入に添加している成長因子群 なのです。では、死滅してしまってほぼ完全に吸収されてしまう脂肪細胞は、注入する前に取り除いておいて、幹細胞から前脂肪細胞までの、脂肪細胞になる前の段階の細胞のみを、高生着率脂肪注入に添加している成長因子群と混ぜて注入すれば、もっとたくさんの細胞をバストに注入でき、一度の手術で大きな効果を出せるのではないかと思われるかもしれません。しかし、脂肪細胞が死滅するという過程が、幹細胞やその他の前駆細胞が分化と増殖を開始するために、大切な役割を果たしています。つまり、脂肪細胞が死滅しないと、幹細胞や前駆細胞の分化・増殖が開始されないということです。これは、脂肪細胞が死滅するときに、幹細胞や前駆細胞の細胞分裂を始めさせるシグナルを発しているためと考えられています。実際に、怪我などを負って、その傷が治る過程が開始されるためには、「傷を負った=細胞が一部死滅した」ということが必要になります。その後、傷を負った箇所の近傍に存在する幹細胞や前駆細胞が働いて、それらが創傷治癒のために分化・増殖と必要な成長因子(細胞増殖因子)の分泌を開始するのです。そうでなければ、傷を負っていないところにも、細胞の増殖と分化が起こり、非常に不都合な現象が発生してしまうからです。
以上のことをまとめると、死滅して吸収されてしまう脂肪細胞も、幹細胞などの脂肪細胞になる元になる細胞が分化・増殖するためのスイッチとして、一緒に注入することが必要であるということです。

これまでの脂肪注入の問題点を解決した、高生着率脂肪注入

これまでの脂肪注入の問題点

この方式(高生着率脂肪注入)が開発される前の脂肪注入では、生着率が顔の場合で約30%から50%・バストの場合で約20から30%でした。したがって、なるべく一度で目的を達成したい場合には、平均で必要脂肪量の約3倍の脂肪注入を行う必要がありました。つまり、脂肪注入で目的の3倍に局所を膨らませていたわけです。
この方式には大きく分けて、3つの問題点があります。
ひとつは、術後のいわゆる「腫れ」が長引くことです。
注入した脂肪が、それなりに吸収されるまでには約1か月かかります。これは、「腫れ」が退くのに約1か月必要だということです。また、3倍に膨らませて、さらに局所麻酔も大量に入っているわけですから、初期の腫れもハンパじゃありません。しかし、この問題は、時間が経てば自然に解決します。
二つ目は、麻酔です。
3倍の量の脂肪注入を無痛で行うためには、注入する箇所に、大量の麻酔薬を注入する必要があります。また、脂肪を採取するところに関しても同様です。特に、顔面や胸部への大量の局所麻酔薬の注射は、麻酔薬の血液内濃度を急激に上昇させやせやすく、最悪の場合には局所麻酔薬中毒の症状として、血圧低下・見当識障害・けいれんなど、緊急事態に発展することがあります。これらを念頭において的確に対処できれば、特に後遺症も残さず解決できるので、これも手術を受ける以上、避けがたいものと解釈することも可能でしょう。
しかし、3つ目の「しこり」の問題は、先の2つとは全く性格が異なるものです。
それは、前の2つが、手術の時のみの一時的な問題であるのに対して、「しこり」は放置しておくと、場合によっては一生、そのままの状態になってしまうことです。そして、内部に「石灰化」を起こすと、バストの場合、マンモグラフィーで癌と非常によく似た所見となり、最悪の場合には乳房切除手術となります。だから、アメリカの形成外科学会・美容外科学会では、近年まで脂肪注入による豊胸術を事実上禁止していました。しかし近年、このような脂肪注入技術の進化に伴い、アメリカでも脂肪注入による豊胸手術を行う医師が増加してきています。

それでは、なぜ、これまでの脂肪注入は、「しこり」ができていたのでしょう?それは以下の4つの原因が考えられます。

1)局所の高い内圧

先ほどの説明の通り、これまでの脂肪注入は、生着率(注入した脂肪が吸収されずに残る率)が低いものでした。そこで、予定量の約3倍の脂肪を注入しておく必要があったわけですが、そうすると、注入した部分の内圧が非常に上昇して、内部の血管を圧迫し、血流が悪くなります。簡単に説明すると、ゴム風船をいっぱいに膨らませた状態を想像していただければわかると思います。血流が悪くなると、当然のことながら、注入した脂肪に対しても、栄養や酸素の供給が減少します。さらに2)の、「注入した脂肪同士がお互いに接触し、固まる」という現象も起きやすくなるのです。そうすると、注入した脂肪の多くが壊死に陥ます。壊死に陥った脂肪は、白血球の一種であるマクロファージによって貪食(食べられる)され、そこから取り去られるのですが、その際には必ず炎症反応を伴います。炎症反応は、慢性的に長期間持続すると、石灰化の原因となるものです。バストの場合は、特にたくさんの脂肪を注入する必要があるため、壊死に陥る脂肪も大量です。したがって、炎症反応も慢性的に長期間に及びやすく、石灰化を伴うしこりの発生率が高くなります。 

2)注入した脂肪がお互いに接触し、固まる

脂肪注入の手技は、脂肪をまとめて一気に注入するのではなく、少量づづばらばらに注入します。これは、注入した脂肪が、周囲の組織からできるだけたくさんの栄養や酸素を受け取り、生着するための絶対条件と言えます。植木をかためて植えるのと、一本一本分けて植えるのとでは、植木の成長が違うのと同じことです。しかし、これも大量の脂肪を注入する必要がある従来の脂肪注入では、注入した脂肪同士の距離が近すぎ、場合によってはお互いに接触してしまい、生着するために十分な栄養や酸素が、注入した脂肪に供給されません。たくさんの植木を、せまい庭に植えている状況です。その結果、生着にむらができたり、先ほどの1)の説明のような経過をたどって、壊死に陥った脂肪が吸収される過程でしこりが発生したりするのです。

3)太い吸引管での脂肪吸引で採取した大粒の脂肪

太い吸引管(カニューレ)で脂肪を採取すると、非常に短い時間で大量の脂肪が採取できます。しかし、採取された脂肪は、大きな脂肪の塊です。これを注入すれば、塊の中心部の脂肪細胞は、生着のために十分な酸素や栄養を、周囲の組織から受け取ることができず、壊死に陥ります。このように中心部のみが壊死に陥った脂肪の塊は、白血球の一種であるマクロファージが壊死に陥った脂肪を貪食するのも遅く、慢性的な炎症反応が長期に及びます。つまり、1)で説明したとおり、この場合も石灰化を伴うしこりの発生率が高くなります。「1から2時間でバストアップ」などと広告している場合には、ほとんどが太い脂肪吸引管での脂肪採取を行っていると思われます。実際、そのような施設での手術を受け、術後のしこりについて相談に当院を訪れる方も非常に多いのが現状です。

これまでの脂肪注入で、「しこり」ができていたのがお分かりになったと思います。では、 高生着率脂肪注入は、どうなのでしょう。

1)低い局所の内圧

高生着率脂肪注入は、これまでの説明の通り、生着率(注入した脂肪が吸収されずに残る率)が高い脂肪注入法です。脂肪注入量は、予定量を上回る必要はありません。したがって、脂肪を注入した部分の内圧は、大きく上昇することがありません。これまでの脂肪注入では、内圧が非常に上昇して、内部の血管を圧迫し、血流が悪くなっていたのとは、大きな違いがあります。高生着率脂肪注入は、血流が悪くならないので、注入した脂肪に対して栄養や酸素の供給が悪くなりません。さらに成長因子と、成長因子を生産する幹細胞が働き、血管や細胞外マトリックスの生成を促進するため、注入した脂肪には早期に豊富に栄養と酸素が供給されます。
また、内圧が低い状態では、2)の「注入した脂肪同士がお互いに接触し、固まる」という現象は、発生しにくいことは自明です。その状態であれば、注入した脂肪の多くが壊死に陥らず、白血球の一種であるマクロファージがたくさん集まって来ることもありません。それは、マクロファージが貪食する(食べる)壊死に陥った細胞がないためです。よって炎症反応も少なく、慢性的に長期間持続することもないため、石灰化の原因が存在しないのです。バストの場合でも、大量の壊死に陥る脂肪が発生しません。したがって、石灰化を伴うしこりの発生がないわけです。

2)「注入した脂肪がお互いに接触し、固まる」という現象は起きない

前章の説明の通り、脂肪注入の手技は、脂肪をまとめて一気に注入するのではなく、少量づづばらばらに注入します。これは、注入した脂肪が、周囲の組織からできるだけたくさんの栄養や酸素を受け取り、生着するための絶対条件と言えます。植木をかためて植えるのと、一本一本分けて植えるのとでは、植木の成長が違うのと同じことです。高生着率脂肪注入では、脂肪注入量は、予定量を上回る必要がありませんので、注入した脂肪同士の距離が近すぎたり、お互いに接触ることはなく、生着するために十分な栄養や酸素が、注入した脂肪に供給されます。十分な広さの土壌に、余裕を持って植木を植えている状況です。その結果、生着にむらができたり、壊死に陥った脂肪が吸収される過程でしこりが発生したりすることがありません。

3)当院オリジナルの、極細吸引管(カニューレ)での脂肪吸引で採取した細かい脂肪

太い吸引管(カニューレ)で採取した脂肪を注入するリスクは、前章の3)で解説したとおりです。高生着率脂肪注入では、極細吸引管(カニューレ)での脂肪吸引で採取した細かい脂肪を使用します。脂肪の採取には時間がかかりますが、採取された脂肪は一つ一つが小さな塊です。この場合、注入した脂肪は、塊の中心部の脂肪細胞まで、生着のために十分な酸素や栄養を、周囲の組織から受け取ることができます。よって、大粒の脂肪を注入した時のような中心部のみが壊死に陥った脂肪の塊を作ることがなく、ゆっくりと白血球の一種であるマクロファージが壊死に陥った脂肪を貪食することがないため、慢性的な炎症反応が長期に及ぶこともありません。つまり、1)で説明したとおり、石灰化を伴うしこりが発生しないわけです。実際、手術時間はやや長時間(顔面で1時間程度・バストで2、3時間程度)ですが、石灰化を伴うしこりは、これまで一度も発生したことがありません。

脂肪注入豊胸術に伴う脂肪吸引について

脂肪注入豊胸術を行うには、バストに注入する脂肪が必要なわけで、そのために脂肪吸引で脂肪を採取する必要があります。したがって、当然、脂肪吸引を行うことになります。

そこで近年、脂肪吸引の方法や使用する機器も、様々なものが開発され、発売されています。しかし、どんな方法でどのような機器を使った脂肪吸引でもいいかというと、そう簡単なものではありません。間違った知識で、間違った方法を使用して脂肪吸引を施行し、そのように採取してきた脂肪を使って豊胸術を行った場合、最悪の場合ほぼ0%か非常に少量の脂肪しかバストに残らず、不満足な結果になってしまいます。

では、間違った脂肪吸引とは、そのような脂肪吸引なのか、代表的な、してはいけない脂肪吸引を列挙します。

1)プラズマリポを使った後の脂肪吸引

プラズマリポは、簡単に言えば、プラズマ光を使って脂肪組織を破壊して溶かします。プラズマリポを脂肪吸引に併用すると、脂肪吸引自体の手術操作が安定的に行え、脂肪吸引後の回復過程が早く、結果の安定性が高いばかりか、内出血や腫れも少ない傾向が見られます。しかし、脂肪注入豊胸術に吸引した脂肪を使用する際には、この、脂肪組織を破壊して溶解してしまう作用が、脂肪細胞の前駆細胞や幹細胞などの、組織の再生にかかわる大切な細胞までも破壊してしまいます。つまり、この脂肪を豊胸術に使用すると、脂肪注入ではなく、脂肪の死骸注入になるわけです。そこで、プラズマリポを脂肪注入豊胸術に使用する際には、まず脂肪吸引にて注入に使用する脂肪組織を確保しておいて、術中のその後にプラズマリポを照射することをスタンダードとしています。つまり、プラズマリポを使用する利点としての、凸凹ができないことや術後の経過が楽になることなどは、脂肪吸引での施術である程度の皮下脂肪の除去が終わり、その上でのプラスアルファの部分として生かすことが、上策であるということです。

2)ベーザー(ヴェーザー・Vaser)

超音波を使って脂肪組織を破壊する代表的な器械が、ベーザー(ヴェーザー・Vaser)です。脂肪を溶かすという作用は、プラズマリポと同様です。したがって、当然、脂肪細胞や幹細胞などの再生細胞までも破壊します。メーカー側の言い分としては、「ベーザーは脂肪のみを破壊し、その他は破壊しないので、採取された脂肪組織は脂肪注入には問題なく使用でき、血液などの混入が少ないから、むしろ脂肪注入豊胸術には適切な脂肪組織が採取できる。」ということです。しかし、超音波をエネルギー源に使用している限り、脂肪組織との接触部においては高熱を発生し、破壊と同時に細胞の死滅は免れません。よって、ベーザーを使用して採取した脂肪組織をバストに注入するというのも、脂肪の死骸注入になってしまいます。当院では、豊胸用以外の、通常の脂肪吸引の際にも、ベーザーは使用していません。ところが、他院の脂肪注入豊胸術の症例で、このベーザーを用いて脂肪吸引した脂肪組織をバストに注入した患者さんをたくさん診ました。全ての患者さんが、ほとんど乳房の大きさに変化がなく、豊胸効果を獲得することができず、豊胸術としては失敗していました。またそのうち1人は、脂肪の死骸が吸収されずにコラーゲンの膜であるカプセルに取り囲まれるときにできた、多数の大きなしこりをバストに残し、乳房が変形していました。

3)ボディージェット

局所麻酔薬を細かい水滴状にしたうえで、高圧で周囲の脂肪組織に噴射する器械。メーカ側の説明としては、「脂肪を柔らかくして、局所麻酔の効果を高め、脂肪吸引の操作性を向上させる(脂肪吸引しやすくする)」ということです。実際のところ、局所麻酔での脂肪吸引には、麻酔薬の均一な拡がりを獲得でき、麻酔の効きがよくなるため、有用な器械と言えます。しかし、麻酔薬の噴射圧力が非常に高く、多くの血管や神経を切断しているようです。実際に、ある論文によると、このボディージェットによる脂肪吸引が、通常の脂肪吸引やベーザーなどの超音波脂肪吸引などと比較しても、最も多くの脂肪組織内繊維を切断していたという結果です。このような繊維を切断するような高い水圧では、やはり脂肪細胞や幹細胞・再生細胞に障害を与えます。しかも、豊胸術に使用するほどの量の脂肪組織を採取するには、局所麻酔のみで脂肪吸引を行うのは、現実的ではなく、もし行うとなると、局所麻酔薬の量が多すぎて、局所麻酔薬中毒になることも考慮しなければならないでしょう。

4)スマートリポ、クールリポなどのレーザー機器

これらは、レーザーで脂肪組織を破壊して溶かす機器です。作用としてはプラズマリポと同様です。したがって、この脂肪を破壊して溶かす作用が、脂肪前駆細胞や幹細胞などの組織の再生に関り、豊胸効果の獲得に対して重要な役割を果たす再生細胞までも破壊します。しかも、プラズマリポとは違って、皮膚の引締め作用や脂肪溶解作用も弱いため、手術には大幅な時間の延長を覚悟しないといけません。

以上から、脂肪注入豊胸術に用いる脂肪組織採取の際に行う脂肪吸引は、従来の、機器を使用しない手作業による脂肪吸引がベストであるということになります。このことは、脂肪組織を、その中の細胞をできるだけ生きたまま、できるだけ新鮮な状態で取り出すべきであるということを忠実に守ることでもあります。そのためには、脂肪吸引に関しては手間を惜しまず、器械に頼るべきではないという結論が導き出せます。

脂肪吸引の術後を楽に乗り切るために

脂肪注入豊胸術術後の痛みや腫れなどについては、豊胸術そのものは注射であって、その経過は軽度なものです。よって、脂肪吸引の術後の経過によって決まります。そこで、脂肪注入による豊胸術を受ける際には、クリニック選びの段階で、どのような脂肪吸引であれば、術後が比較的楽なのかということを、理解しておく必要があります。
ベーザーやプラズマリポなどを使用すれば、脂肪吸引の術後は比較的楽だということが、よく宣伝されています。確かにプラズマリポは、術後の圧迫固定が一晩だけで、翌日からのシャワー入浴が可能ですから、通常の脂肪吸引と比較すると、その差は大きなものと言えます。しかし、ベーザーやボディージェットの場合には、皮下脂肪層に存在する神経へのダメージが大きいことから、痛みに関しては強く出る傾向があります。またこれらは、注入した脂肪組織の生着率を向上させるために重要な働きをする、脂肪細胞や脂肪の前駆細胞・幹細胞に障害を与えますから、注入用の脂肪を採取する際には、使用してはいけません。そうなると、通常の脂肪吸引の手術で我慢するしかないのかと言うと、そういうわけでもありません。
その一つの解答としては、「丁寧な」脂肪吸引を施行することであると言えます。「丁寧な」脂肪吸引とは、「仕上がりがいい」「たくさん採る」ということではありません。それよりも重要なこととして、脂肪組織の血管や神経にできるだけダメージを加えない方法で脂肪吸引を施行するということです。血管へのダメージが少ない脂肪吸引を施行すれば、術後に現れる内出血が少なくて済みます。また、神経へのダメージが少ないことは、術後の痛みが少ないことに繋がります。そのような、血管や神経に対してダメージが少ない脂肪吸引とは、いくつかのポイントを満たしている必要があります。

術後の痛みが少なく、楽な脂肪吸引を行うためのポイントは、以下のようになります。
1)できるだけ細いカニューレを使用する。
2)手術中に、カニューレを激しく前後運動させない。
3)脂肪を採る量は、脂肪層の厚さの3分の2にとどめる。
と、いったものです。
それぞれの項目について、説明していきます。

1)できるだけ細いカニューレを使用する。

脂肪組織は水のような完全な液体ではなく、柔らかい個体です。したがって、脂肪吸引は、「吸引」と言われていますが、実際は液体を穴からストローでズルズルと吸い出すものではありません。ちょっと怖い表現ですが、カニューレの先に開いている穴に、脂肪組織を陰圧で吸いつけ、脂肪組織の粒をもぎ取ってくるような感じです。
ブドウの粒を、掃除機の先にくっつけて、木になっているのを取ってくるような風景を想像してみてください。
掃除機の先が大きくて太いと、一度にたくさんの実や粒を収穫できますが、葉っぱや茎・太い枝などもいっしょにもぎ取ってきてしまいます。逆に、先が小さな掃除機の場合、少しづつしか収穫できませんが、太い枝などはもぎ取りません。
ブドウの木を脂肪組織、ブドウの実を脂肪の粒、茎や枝を神経や血管に置き換えて考えてみると、太いカニューレは、短時間にたくさんの脂肪を採取できますが、血管や神経へのダメージが大きく、逆に細いカニューレでは、時間はかかりますが、血管や神経へのダメージが少なく、採取できるのは、ほぼ、脂肪の粒のみと言うことになります。つまり、脂肪吸引に用いるカニューレは、細いものほど、神経や血管へのダメージが少なく、したがって、術後の内出血や痛みも少ないということができます。

2)手術中に、カニューレを激しく前後運動させない。

脂肪吸引は、カニューレの前後運動を行うから、脂肪が採れるのですが、限度と言うものがあります。やはり、激しいカニューレの前後運動は、採取する脂肪組織を傷めるばかりでなく、神経や血管にも多くのダメージを加える結果となります。1)のカニューレの太さの項目での例えを、もう一度思い出してみてください。掃除機の先端を、ブドウの房の周りで乱暴に動かせば、枝を折り、葉っぱも引きちぎってしまいます。カニューレを素早く前後運動させると、短時間に多くの脂肪組織を採取できます。しかし、神経や血管へのダメージも多いわけです。また、手術自体の安全性も、低下してしまいます。素早い前後運動は、どうしても正確な深さにカニューレを挿入するのに、大きな誤差が生じます。つまり、近隣の脂肪層以外の組織である皮膚や筋肉への、カニューレの挿入も、頻度が増加するのです。カニューレの激しい前後運動は、このように、術後の経過の面と、安全性の面で、お勧めできる手技ではないのですが、同じカニューレの前後運動でも、パワーカニューレの使用については、特に問題はないと考えます。それは、パワーカニューレ自体の前後運動は、ミリ単位と、非常に小さいからです。それとは対照的に、人の手によるカニューレの前後運動は、Youtubeの脂肪吸引のビデオから割り出すと、その振幅が平均15から20cmあります。 つまり、パワーカニューレの前後運動は、人の手によるカニューレの前後運動から比べると、振動くらいでしかないのです。血管や神経などの人体の組織には、ある程度の弾力性がありますので、パワーカニューレの前後運動はその弾力性に吸収され、細胞の破壊や、血管や神経に対する大きな損傷は招かないと言えます。ただし、パワーカニューレの使用に関しては、ある種のものについては、安全性についての注意があります。

3)脂肪を採る量は、脂肪層の厚さの3分の2にとどめる。

脂肪層がほとんどなくなって、つまむとペラペラになるくらいの脂肪吸引を、「どうだ!すごいだろう!」と、自慢げに写真や動画をUploadしているサイトがあります。たしかに、脂肪吸引の効果としては、局所の脂肪層がなくなって、その部分は非常に細くなるでしょう。しかし、術後はたいへんです。だから、そいのような症例については、術後1週間目の写真など、掲載している場合は非常に稀だと思います。
まず痛みが強く、なかなか退きません。脂肪吸引は脂肪層に管(カニューレ)を挿入して、脂肪を採取するのですが、脂肪層の厚みの4分の3以上になると、より神経や血管の近くの脂肪を採ることになります。そうすると、比較的太い神経へのダメージの頻度も増えます。神経へのダメージが大きいと、痛みが強く、それ以上のダメージだと、感覚脱失(皮膚の感覚がなくなる)が発生します。目に見えないくらいの細かな神経に関しては、術後の経過とともに再生するのですが、肉眼で確認できる太さ以上の神経がダメージを受けて切断されると、通常は元には戻りません。そうなると、感覚脱失という症状が、一生残ることになります。
また、術後の内出血も大きなものとなります。血管に関しても、より太い血管に対してダメージを加えることになるからです。そして、このことは内出血の問題だけでなく、もっと大変な問題に発展する可能性が大きくなります。それは、静脈血栓症です。これは、早期に対処しないと、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)に陥り、生命が危険に曝されることになります。
したがって、脂肪注入豊胸術の術後を、より安全に楽に乗り切るには、 脂肪吸引の範囲を、余り少なくしないことも重要です。たとえば、同じ量の幹細胞と注入用の脂肪を採取する際に、狭い範囲で脂肪吸引を行うと、広い範囲で脂肪吸引を行うのに比べて、たくさんの厚みを採取する必要があります。そうすると、術後の痛みや内出血の問題や、リスクの発生率が上昇するわけです。

南クリニックの脂肪吸引の平均的術後経過

脂肪吸引の平均的術後経過
脂肪吸引手術当日:
厚さ約1㎝のスポンジの上から、特殊なガードルなどで圧迫固定を行います。
痛み止めを点滴から使用して、痛みを取ってから帰宅していただきます。帰宅後は、内服薬の痛み止めが効いてきます。
脂肪吸引手術翌日:
身体を動かせば、筋肉痛程度の痛みはあるが、大きな制限を受けるほどではない。
圧迫固定を解除するために再診。
脂肪を取ったときの穴を、防水フィルムで保護して、全身のシャワーが許可となる。
矯正下着など、圧迫ができる下着を準備しておき、それを着用する。
日常生活上の制限はほぼなくなる。
平均的には、腫れは目立たず、手術前と同じ太さくらいのサイズか、プラスアルファくらいに収まる。
脂肪吸引術後7日目:
抜糸後、入浴の許可となる。
脂肪吸引術後14日目:
脂肪吸引したところの治癒過程を促進するために、マッサージ指導を受けに再診する。
この頃には、腫れが全体の70から80%消滅しているので、少し効果を感じ始める。
脂肪吸引術後3ヶ月目:
ほぼ最終的な状態となる。
※経過については個人差がありますので、上記はおおよその目安と考えてください。

豆知識:幹細胞脂肪注入豊胸術に用いられる、幹細胞分離を行う機器あれこれ

幹細胞脂肪注入豊胸術は、幹細胞を脂肪組織から分離するときに使用する器械の名前で、いろいろな呼び名を、クリニック側が付けているのが現状です。それらの本質は、全て、脂肪吸引で取りだした脂肪組織から、幹細胞を取り出す作業を、オートマチック(自動的)で行うことです。幹細胞の分離を自動化することには、2つの意味があります。一つは、人的な省力化です。もうひとつは、分離できる幹細胞の安定化です。

人的な省力化については、人手を省けるということですので、理解は容易だと思います。工場で、手作業の代りに、工作ロボットを使用するのと同じことです。幹細胞の分離には、少なくとも1時間の時間が必要です。これは、脂肪吸引で取りだした脂肪組織に、薬剤を混入してから、この薬剤の反応が終了するのに、最低30分必要だからです。この時間は、このような器械を使用しても、これ以上の短縮はできません。しかし、器械に任せておけば、その間の1時間は、人手がいらないわけですから、他の患者さんの診察などに充てることができるのです。

分離できる幹細胞の安定化ですが、これも、工場で工作ロボットを使用するのと同じことです。たとえば、手作業で幹細胞を分離する場合、ある人がやると高濃度の幹細胞を分離できるが、別の人がすると、濃度が低い・・・・・などということが防止できます。そういった意味で、幹細胞を分離する際の、熟練度による品質のばらつきを少なくするのに、器械を導入する意義があります。

このように、省力化と安定性を目的として、幹細胞分離機器を導入するクリニックが多いのですが、問題点がいくつかあります。

1)TGI 1200
アメリカ製の器械。卓上型で、現在入手可能な機器の中で、最もコンパクトだと思われるもの。しかし、元々、心臓の血管や組織、または足の血管が詰まってしまう病気の治療に、脂肪吸引で採取した脂肪から、幹細胞を分離して使用する目的で作られたため、1回の幹細胞作成量が、豊胸術用としては不足している。また、一回の稼働に60分の時間がかかる。

2)セリューション(Celution,Cytori)
やはり、アメリカ製。一般的なレーザー機器ほどの大きさ。手術室でスペースを必要とすることと、やはり1回の稼働に2時間ほどの時間が必要で、しかも2台のセリューションがないと、効率的に運用できない。つまり、4時間が必要になるということ。サイズが大きいことから、処理能力(一度に取り出す幹細胞の量)という点では、優れていると言える。

3)リポマックス(Lipomax)
韓国の美容外科医がオーナー社長である、Medicanという会社の製品。オートマチックという点では、行程中に人の手が必要な部分がかなりある。しかし、最初から最後まで、シリンジ同士での試料のやりとりなので、手術室内での操作には、非常に便利。この機械での中間産物である、遠心分離した脂肪を、コンデンスファット(コンデンスリッチファット)という名称で、脂肪注入に使用することもあるが、これは、正確には幹細胞脂肪注入とは違ったものである。

脂肪注入豊胸術後の経過・特に痛みや内出血について

脂肪注入そのものは、単なる注射ですから、注入を受けたバストは、術後の痛みもほとんどなく、いわゆる「張った感じ」が 約1週間あるだけです。脂肪注入の術後の痛みや、経過の困難さは、そのほとんどが、脂肪吸引を行ったところのものです。したがって、脂肪吸引の術後の経過が、脂肪注入の術後の経過に直結しています。つまり、術後が楽な脂肪吸引なら、この手術の術後は楽であるということなのです。

では、術後が楽な脂肪吸引とは、いったい、どんな脂肪吸引なのでしょうか?内出血が無く、術後の痛みも無く、そして、術後の圧迫固定もない、といった脂肪吸引が、最高に楽な脂肪吸引ですが、残念ながら、そのような脂肪吸引はこの世の中に存在しません。そして、これからも発明されることはないでしょう。一部の美容外科クリニックの広告文句に、以下のような文言があります。

「術後の痛みはありません」
・・・・・真っ赤なウソです。
「手術の翌日から仕事に戻れます」
・・・・・「仕事に行くのは、医学的には禁止しない」というだけ。通勤するのに、駅の階段をスムースに昇降できるかというと、ちょっと無理でしょう。

そんなことを謳い文句にしているクリニックほど、実際は荒っぽい脂肪吸引を行って、術後は激痛と、脂肪吸引したところが、全面の内出血で変色する場合が多いようです。

高生着率脂肪注入の、注入用脂肪の混合と、バストへの注射のコツ

幹細胞が取り出せたら、これを、注入用の脂肪に混合します。注入用の脂肪は、勿論、濃縮脂肪(コンデンスファット)です。さらに、成長因子を添加します。
この際、全てが均等に混ざるようにします。偏りがあると、不均等生着の原因となります。不均等生着は、バストの形や大きさの左右差や、変形をもたらしますので、均等な混合が、これらの副作用の防止には欠かせません。

そして、この脂肪を、バストに注射します。注射するときには、ひと固まりが0.1cc以下になるようにします。そして注入する層は、皮膚の直下・脂肪層の中層・脂肪層の深層・乳腺の上・乳腺の直下・筋肉の上・場合によっては筋肉の下、という風に、たくさんの層に、バラバラに注入します。このように、注射する脂肪を、少量づつ、たくさんの塊として注射するのは、生着率を高め、しこりの発生を防止するためです。脂肪注入なのですから、注入した脂肪は、正常に近い脂肪の形で生着して、ボリュームを出すべきなのです。しこりになった状態でボリュームを出せても、脂肪注入の意味がありません。

高生着率脂肪注入 豊胸術の手順~理論的・手技上のポイントを中心に

高生着率脂肪注入豊胸術の手順について、その概要を、理論的・手技的なポイントを解説して記します。

1)脂肪吸引
まず、脂肪吸引を行います。その際、注入する脂肪だけでなく、幹細胞を分離するための脂肪も、同時に採取します。

2)脂肪吸引で採れた脂肪を、幹細胞抽出用と、注入用に分ける。
幹細胞を取り出した後の脂肪は、バラバラになっていて、注入には使用できませんので、破棄します。したがって、吸引した脂肪は、注入用と富幹細胞層抽出用に分ける必要があります。

3)両方の脂肪を、遠心分離して濃縮する。
脂肪吸引で採取した脂肪には、壊れてしまった脂肪細胞や、麻酔薬・生理食塩水などの、生きた脂肪組織以外の成分が含まれていますので、これを取り除いて濃縮します。

4)富幹細胞層抽出用の脂肪から、富幹細胞層 を取り出す。
脂肪組織を細胞単位でバラバラにする過程です。それぞれの細胞は、比重が異なりますので、再び遠心分離して、富幹細胞層だけを取り出します。

5)濃縮した注入用脂肪に、4)で取りだした富幹細胞層と、成長因子を混合する。
注入用脂肪に、幹細胞と、幹細胞の分化・増殖を促進させる働きのある、成長因子群を添加して、混合します。

6)バストに注射する。
一気に注射するのではなく、0.1cc未満の量を、少しづつ、いろいろな層と位置にまんべんなく注射していきます。

豆知識:脂肪吸引で取りだした脂肪を遠心分離?コンデンスファットとは?

脂肪吸引で取りだした脂肪は、Tumescent液(血管収縮剤+麻酔薬+生理食塩水)と、少量の血液が混ざっています。さらに詳しく言うと、これらに加えて、少量ですが、脂肪吸引の手術造作によって壊された脂肪細胞と、そこから放出された中性脂肪が混ざっています。このまま混ざった状態だと、脂肪細胞(正確には脂肪組織)のみを取り出すことができません。しかし、これらは、脂肪細胞とは比重が異なるため、遠心分離器にかけると、層状にそれぞれの成分が分離します。層状に分離していれば、脂肪の層だけを取り出せば、ほぼ100%の脂肪組織が得られるのです。つまり、脂肪組織が濃縮されている状態です。

最近の言葉で、「コンデンスファット(濃縮脂肪)」というのがありますが、それは、このように遠心分離を行って取りだした脂肪のことです。それをそのままバストに注射すると、従来の脂肪注入に比べて、ある程度の生着率の向上は得られますが、幹細胞を混合する方法からすると、比べようもなく少量です。新しい言葉を目にしたときには、それの意味をしっかりと理解せずに、かっこいい雰囲気だけに酔っていると、大きな期待外れを招きます。コンデンスファットとは、このように、幹細胞脂肪注入では、コンデンスファットというのは、あくまでも中間産物にすぎないのです。