太もも・ヒップ

太もも全体とヒップの脂肪吸引を受けたモニターさんです。膝周り(膝上・ひざ内側)を含んでいます。写真は各方向、順に、術前・術後約1か月・術後約3か月の経過です。

脂肪吸引は、一部の美容外科での複数回の患者死亡により、世間的に非常に悪いイメージが出来上がってしまっています。しかし、皮下脂肪の除去には、いろいろな機械を使用したり、脂肪溶解注射を受けるよりも、ずっと大きな効果があります。

もちろん、脂肪溶解注射や機械を使用した方法も、それなりに効果はあるのですが、脂肪吸引ほどの大きな効果は望めません。したがって、脂肪吸引をより安全性を高くして行うことが、しっかりとした効果を得るためには最も効率が良いということになります。では、安全性を高くするとは、どういうことなのでしょうか?手術には、麻酔>手術>術後管理といった、どの種類の手術にも共通する一定のプロセスがあります。それらのプロセス一つ一つに安全率を高める施策を施すことによって、全体として、より安全性の高い手術となっていくのです。

麻酔

まず、麻酔についてです。アメリカの皮膚外科学会と形成外科学会の統計を元に考察すると、脂肪吸引の際には、麻酔はより局所麻酔に近い麻酔を使用したほうが安全であると言えます。局所麻酔とは、麻酔をかけた場所だけ、痛みを取ることができる方法です。具体的には歯医者さんの麻酔や、切り傷を縫合するときに使用する麻酔のことです。それに対して全身麻酔と言うのは、文字通り麻酔を全身に作用させるもので、脳にまで麻酔がかかるため、麻酔中の意識はありません。当然のことながら、心臓や全身の筋肉にも麻酔がかかりますので、血圧や脈拍数は低下する傾向にあり、きちんと生体監視モニターを装着して麻酔導入に臨む必要があります。また、術中の麻酔管理も必要です。このようなことから、麻酔自体の安全性を考えた時には、全身麻酔は不要な範囲や臓器にまで麻酔をかける形になりますので、できるだけ控えた方がいいというのはお分かりかと思います。また、全身麻酔下の脂肪吸引では、静脈が拡張し、さらに全身の筋肉がその力を失うため、静脈に対するポンプ機能が失われ、静脈血栓の発生率が高く、それが肺の血管に塞栓を発生させ、死亡してしまうことがあります。この死亡症例の発生が、局所麻酔よりも全身麻酔での脂肪吸引のほうが、事故の発生率を高くしてしまっている一つの原因でもあります。

しかし局所麻酔にも、局所麻酔薬中毒と言う問題があります。あまりに大量の局所麻酔薬を注射すると、中毒症状を起こしてしまうのです。具体的には、不穏>痙攣>呼吸停止>心停止>死亡、といったプロセスをたどります。実際に、この局所麻酔薬中毒での死亡事故が、昨年、福岡の美容外科で発生しています。早期に症状が発見でき、それに対する治療を開始できれば、死亡することは稀なのですが、やはり、このようなことはないに超したことはありません。つまり、局所麻酔の欠点としては、麻酔薬を大量に必要とする広い範囲での手術には不向きだということです。また長時間の手術では、途中で麻酔が切れてきてしまうことがあります。それと言うのも、局所麻酔に通常使用されるキシロカインという麻酔薬は、作用時間が約1時間だからです。したがって、手術時間が1時間以上に及ぶ広い範囲の脂肪吸引には、通常の局所麻酔は使い物になりません。
 
では、広い範囲の脂肪吸引には、どうしても全身麻酔が必要なのでしょうか?答えとしては、全身麻酔が必要なケースは非常に稀です。具体的には、局所麻酔の中でも硬膜外麻酔という麻酔を使用すれば、大半の脂肪吸引が施行可能です。硬膜外麻酔とは、脊椎の硬膜外腔というところに麻酔薬を使用する局所麻酔の方法で、少量の麻酔薬で広い範囲の麻酔が可能です。他科の手術では、無痛分娩などに用いられる麻酔です。この麻酔ですが、背中に針を刺して極細のチューブを挿入し、そこから麻酔薬を注入します。このようにチューブを挿入しておくことで、約1時間おきにこのチューブから麻酔薬を追加することで、長時間の手術でも手術時間中はずっと、完全に麻酔を効かせておくことができます。チューブからの麻酔薬の追加を続ける限り、理論的には無制限に麻酔時間を延ばすことができるのです。もちろん、この麻酔の手技には技術的な熟練が必要なのですが、きちんと麻酔を行うことで、薬剤による中毒を回避しつつ、術中の痛みを完全にとることができます。

術式

次に手術の方式です。脂肪吸引の症例数が、国内とは比較にならないくらいに多く、しかも1回の吸引量が非常に多いアメリカでは、やはり脂肪吸引はツメッセント法などの、ウェット・メソッドが推奨されています。ウェット・メソッドとは、脂肪吸引の際に皮下脂肪に大量の薬液を注入し、脂肪層を膨らませておくことをさします。予定吸引量とほぼ同量の薬液を注入するのをスーパー・ウェット法、予定吸引量とは関係なしに注入口から薬液が溢れ出し、もうこれ以上は入らないほど薬液を注入する方法をツメッセント法と言います。注入する薬液の内容は、生理食塩水などの細胞外液系の点滴溶液に、血管収縮剤としてのエピネフリンを混合したものです。局所麻酔での手術の場合には、この注入溶液で麻酔を行うことになりますから、これらの薬剤の他に局所麻酔薬が追加されます。当院では、広い範囲での脂肪吸引の手術は前記事にある硬膜外麻酔を使用しますので、局所麻酔薬の添加は、術後の痛みを軽くするためだけのものとして、ほんの少量かつ低濃度のみです。
ウェット・メソッドで脂肪層を膨らませておくのには、理由があります。一つは血管収縮薬の作用によって、術中の出血を抑えることです。二つ目は、薬液で膨らんで膨化した脂肪組織は、柔らかくなって脂肪吸引のカニューレ操作が容易になるという理由です。そして最後に3つ目の理由としては、脂肪層が膨化して分厚くなることで、脂肪層の厚みに対して相対的にカニューレの口径が小さくなるというのが、大きな理由なのです。
「脂肪層の厚みに対して相対的にカニューレの口径が小さくなる」というのは、一見、分かりにくさがあると思います。たとえば、脂肪層の厚みが1.5cmのところを、口径3mmのカニューレで吸引したとしましょう。そうすると、脂肪層の厚みに対するカニューレの太さは、3mm÷15mmで20%です。しかし、脂肪層の厚みを3cmまで膨化させておくと、3mm÷30mmでカニューレの口径は脂肪層に対して10%になるというわけです。つまり、元の1.5cmの厚さの脂肪層を1.5mmの口径のカニューレで脂肪吸引した状態になります。したがって、ウェット・メソッドを使用することで、実際に使用したカニューレよりも口径が細いカニューレを使用して脂肪吸引を行ったことになるのです。このことは、ふくらはぎなどの、他の場所と比較すると脂肪層が元来薄い箇所を脂肪吸引するときには、特に有効な方法であると言えます。

アメリカの美容外科学会の報告にもありますが、脂肪吸引の際にはカニューレが細いほうがいいことも事実です。まず第一に、分かりやすい理由としては、手術の結果の上で、表面の凸凹を作りにくいことが挙げられます。
一般的に、太いカニューレで手術を行った場合、一度に大量の脂肪吸引が可能ですので、手術時間は非常に短くて済みます。しかし、太いカニューレで皮膚に近い部分の脂肪吸引を行うと、凹凸ができてしまいます。この凹凸ですが、術後の経過した期間が浅いとあまり目立ちません。それは手術による腫れがまだ残っていて、凹凸をカバーしているからです。逆に腫れによって凸凹している場合もあります。そうしているうちに、手術による腫れがほぼ無くなってしまう頃に、徐々に凹凸が目立ってきます。具体的には、術後1週間目の抜糸のときには全く問題なかったのに、術後3か月目くらいになると凸凹してきたという場合です。このような事態を防止するには、太いカニューレを使用する際には、脂肪吸引は深い層のみに留めておき、皮膚に近い層の脂肪吸引は行わないことです。しかし、このような方式をとると、脂肪吸引の効果そのものは半減してしまいます。そこで当院では、皮膚の表面の凸凹を作ることを回避しつつ、効果を最大に出すために、口径の細いカニューレを使用して、筋肉に近い深層の脂肪から皮膚の直下の浅層の脂肪までをまんべんなく吸引します。 

細いカニューレを使用することのメリットとしては、手術時および術後の出血を少なくできるということも大きなものの一つです。カニューレの口径が大きければ、太い血管へのダメージ、つまり太い血管を傷つけやすいということができ、その分、手術中の出血や術後の、注入した薬液中の血管収縮剤の効果が切れた時の出血(通常、内出血として認識されます)が多くなります。しかし、カニューレの口径が細い場合には、太い血管には傷をつけないため、術中の出血ばかりか、術後の出血(内出血)も最小限に絞ることができます。つまり、カニューレが細ければ細いほど、血管へのダメージを最小化でき、術中から術後にわたっても、出血量が少なく、したがって術後の内出血も少ないということができます。 手術中の出血量が多いと血圧低下や貧血などに陥り、危険なのは常識です。脂肪吸引の場合には、小さな範囲の手術や、脂肪の吸引量があまり多くない場合には、このことはあまり問題になりません。しかし、広い範囲の脂肪吸引、たとえば両太ももの一周すべてに及ぶ範囲などの脂肪吸引で、比較的大量の脂肪を除去する場合には注意が必要です。したがって、広い範囲の脂肪吸引ほど、術中の出血を少なくするために、できるだけ細いカニューレを使用した方が、安全性が高いということができます。 術後の出血については、内出血と言う形で認識されます。他院にて太いカニューレで手術がおこなわれ、術後1週間以内の症例を、何例も診たことがありますが、脂肪吸引が行われた箇所の皮膚のほとんどが紫色に変色し、大きな腫れと痛みを伴っていました。それらの患者さんは、全員、術後の痛みに耐えかねて、当院に受診した人々でした。彼女たちは、担当医の術前の説明とは大きくかけ離れた経過を見て、元のクリニックを受診するのに恐怖を感じて当院を受診したのです。彼女たちの中には、血液が皮下に貯留して、注射器で血液を除去する必要がある人もいました。このように術後の出血(内出血)が多いと、痛みも激しい傾向にあります。つまり、術後の痛みを最小限にするためにも、細いカニューレを使用して、術後の出血をできるだけ絞ることが大切なのです。

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副作用・合併症:硬膜外麻酔に伴う頭痛
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