乳房吊り上げ

年齢は30代半ば。結婚前は、巨乳ブームに乗って、雑誌のグラビアにも少しだけ登場していたというモニターさんです。その当時はHカップあったそうです。出産して、授乳後に少しづつサイズが無くなっていったのと、それに伴って下垂(垂れ下がり)が酷くなったことで、手術を決心されました。


しかし、やはり乳輪からアンダーバストにかけての、縦に入る傷跡には抵抗がありました。そこで、比較的皮膚が柔らかく、柔軟性のある肌質で、色白であることから、この、乳輪からの乳房縮小・吊り上げ術を提案しました。この方法は、縦の傷が入る方法と比較すると、吊り上げ効果はやや落ちるのが現状ですが、傷を少なくするための方法としては非常に価値があります。

このような、傷が少ない、乳輪周囲からだけの乳房縮小・吊り上げ術ですが、適応には大きな制限があります。その中で最大なものは、皮膚の性質です。
乳輪周囲を切開して、皮膚を切除することが、この手術の第一歩のプロセスです。この場合、乳頭側が内側、そして、切除した皮膚側が外側になります。そうすると、内側の円周は、当然、外側の円周よりも短い状態です。この短い円周に、長い円周を縫合しなければならないわけです。このとき、皮膚の弾力性が不足していると、傷の外側にはギャザー(しわ)ができる形になります。皮膚に弾力性があり、よく伸び縮みするのであれば、このギャザーは、術後3カ月から6カ月すると自然に消失します。しかし、硬い皮膚で、あまり伸び縮みしないのであれば、このギャザーは定着したままとなります。ギャザーが定着すると、これを治療するには、もう一度切開して、ギャザーを切り取り、切開線を細かくジグザグに縫い合わせることが必要になります。 
また、皮膚の伸び縮みがよくない場合には、傷の仕上がりもよくありません。糸をしっかりとかけて皮膚を引き寄せておいても、どうしても傷を開く方向に、慢性的な力が働きます。数カ月すると、傷が拡がりはじめ、太く盛り上がった、肥厚性瘢痕という状態になることもあります。こうなると、酷い場合には、傷にかゆみや痛みを伴い、いわゆるケロイド化といったことも起こりえます。

では、「この手術を受けたら、自分はどうなのだろうか?」と思うかもしれません。元来、この手術は、欧米で開発されたものです。したがって、傷が比較的きれいに治癒してしまう白人にこの手術を行うことは、そんなに大きなリスクを伴うものではありません。専門の美容外科医に受診してみるのが一番確実で速いのですが、簡単に、自分で判断できる基準みたいなものはないのかと、考えるでしょう。そこで、私自身の、一応の判断基準の一部を紹介しておきます。

1)皮膚が薄いこと
皮膚は弾力性があり、いわゆるゴムのようなものだと考えるといいでしょう。細いゴムは、弱い力でもしっかりと伸びます。また、しっかりと伸ばされると、ふたたび縮む力を失います。同じように、薄い皮膚はよく伸び、ふたたび縮む力を失ってしまいやすいため、傷を開く向きに力が働きにくく、肥厚性瘢痕になることも少ないと言えます。乳房の皮膚から、静脈が透けて見えているような状態まで皮膚が薄いと、ほぼ、大丈夫だと言えます。
 
2)色白であること
皮膚の色は、メラニンの含有量によって決定されます。正常の皮膚には、メラニンを作る働きのある、メラニン細胞というものが備わっています。しかし、傷の組織には、このメラニン細胞がありません。したがって、通常、半年ほどすると、最初は赤みがあったり、茶色をしていた傷は、白くなります。すると、もし、皮膚の色が濃い場合、この傷は周囲の皮膚の色とは全く違った色になり、目立ちます。具体的には、乳輪と周囲の皮膚の間に、白い輪っかができた状態になるのです。ここで、色白の方の場合には、この白い傷と、皮膚との境目が目立たないというわけです。
 
欧米で、白人のために開発されたこの手術ですが、有色人種の国で開発されなかったのは、やはり、皮膚の性質の差から、奇麗な仕上がりが得られなかったからではないかと予想されます。幸いにして、日本人の場合には、皮膚の性質がバラエティーに富んでおり、この手術の適応となる方も、少なからず存在します。もし、この手術を希望する場合には、術前の皮膚の状態を、しっかりと確認し、担当医のアドバイスに従い、手術に踏み切る必要があります。

医療広告限定解除要件
副作用・合併症:肥厚性瘢痕
費用・料金:総額90万円