乳輪周囲で皮膚切除(乳房切除+乳頭縮小)

F to Mトランスセクシャル希望で、乳房除去手術と乳頭縮小術を同時に行ったモニターさんです。約4年前よりホルモン治療を継続的に行い、乳房はかなり委縮傾向にはありましたが、やはりバストの形と乳頭の大きさが邪魔をしており、Tシャツ一枚で出歩くことができませんでした。また仕事中も、どうしてもバストが邪魔になるということで、手術に踏み切りました。
写真は順番に、術前・術後3週間目・術後3か月目になります。


手術の術式は、脂肪吸引を行った後、乳輪の周囲の切開創から乳腺を摘出する方法です。その時に、同時に乳頭の縮小術も行いました。麻酔は、点滴で眠っている間に胸部硬膜外麻酔を施し、さらにTumescent solutionを胸部に十分に注射しました。脂肪吸引は乳輪周囲の切開創と、アンダーバストの部分に小さな穴を開け、それらから当院特注の極細カニューレを用いて行いました。脂肪吸引が終了したら、乳輪周囲の切開創から中を覗くと、乳腺を包んで胸壁に固定しているクーパー靭帯と、それにつながる、多数の繊維が見え、それらがハニカム状になっています。これらの繊維は、血管や神経をその中に含んでいるため、それらに対して一つ一つ、高周波や糸での結紮で出血の予防を行いながら、切断をしていきました。さらにクーパー靭帯に関しても、その中の血管を結紮しつつ、止血処置を施しながら切断を進めて行きました。このようにして、バストの皮下で乳腺を周辺の組織から完全に外し、最後に乳管を切断して、乳腺を取り出しました。乳腺を取り出した後は、乳頭縮小術を行い、最後に乳輪を少し小さくして、傷を縫合して手術を終了しています。

F to M乳房切除術については、元々のバストの大きさや皮膚の状態によって、手術の方法の選択が異なってきます。こちらのモニターさんのように、若くてホルモン治療がきちんとなされており、バストの委縮が得られていて、皮膚の弾力性が保たれている場合には、乳輪周囲からの切開のみで手術が可能です。しかし、バストが大きく、皮膚の弾力性が失われている場合には、余分な皮膚を切除しないといけない関係上、切開創は乳輪周囲のみでは手術が行えません。もし、無理をして乳輪周囲の切開創のみで手術を行った場合には、バストそのものは小さくなるものの、皮膚のタルミが高度に発生して、非常に無残な垂れ下がったバストができてしまいます。
つまり、この手術を乳輪の周囲の切開創だけで済ませたい場合には、以下のことが大切です。

1) しっかりとホルモン治療を行っていること
2) できるだけ若いうちに手術を受けること
3) スポーツやトレーニングで筋肉をつけておくこと

1) しっかりとホルモン治療を行っていること
ホルモン治療によって、乳腺を退縮させておくことで、バストの中の乳腺と脂肪組織の比率を脂肪優位に変えておくことは、小さな切開創からの手術を可能にします。脂肪組織の比率が大きいということは、バストのボリュームを減少させるうえで、脂肪吸引が有効であるということです。脂肪吸引の場合には、バストに対してはほんの小さな穴が必要なだけで、メスでの切開は不要です。この脂肪吸引によって脂肪組織は減量が可能ですので、あとは乳腺組織ということになるのですが、こればかりは、取り出すのにメスでの切開が必要になります。この乳腺が小さければ、切開創も小さくて済むというわけなのです。さらにホルモン治療は、男性に比較して薄くて柔らかい女性の皮膚を、分厚く硬いものに変えていってくれます。このことは、乳房切除術の後の皮膚の縮みを助け、手術直後は皮膚がやや余り気味であっても、術後の経過とともに余っていた皮膚が縮んでくるのを促進します。また、ホルモン治療を行わずに、バストの成長をそのままにしておくことで、バストのサイズが大きくなるとともに、皮膚自体もそのサイズに合わせて伸ばされてしまいます。以上のように、乳房切除術をより小さな傷で完了し、できればプールやビーチでも、Tシャツさえも着用せずに、海パン一枚で楽しめるようにするには、早い段階でホルモン治療を開始し、乳腺の状態を手術に適した形に持っていくことが大切です。

2)できるだけ若いうちに手術を受けること
これは、人間の皮膚が年齢とともに弾力性を失ってくるためです。弾力性が失われるということは、皮膚が伸びにくくなると同時に、縮みにくくなるということでもあります。そうすると、余分な皮膚を切除するための切開創も大きくならざるを得ず、乳輪のみからの切開での手術が不可能になる場合があります。とはいっても、10代のうちでは自分の意思のみで、手術を受けることができません。父母など親権者の理解があるのであれば、話は早いのですが、どうしても理解が得られない場合には、20歳になるまではホルモン治療をしっかりと行い、成人するまで待機するようにしましょう。

3)スポーツやトレーニングで筋肉をつけておくこと
男性ホルモンによるホルモン治療は、筋肉を太くたくましくする作用があります。筋肉トレーニングなどは、この男性ホルモン治療の最中に行うことで、より大きな効果を発揮させることができます。このことはまた、乳腺の退縮を助ける働きとなり、乳腺を小さくし、皮下脂肪層も薄くすることになりますので、皮膚を伸ばしてしまう作用を減弱し、切開線を小さくするのに役立ちます。
これまでのことを総合してまとめると、10代のうちからホルモン治療を開始し、スポーツに励み、成人したらすぐに乳房切除術を受けることが、胸に大きな傷を残さない手術を受けることができる最良の治療計画と言うことができます。

摘出した左右の乳腺。これくらいの大きさなら、乳輪周囲での切開で摘出が可能です。

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