乳房切除

男性ホルモン注射にて、ホルモン療法を継続している F to M トランスジェンダーのモニターさんです。男性ホルモン療法については、医師によって様々な見解があり、統一したものは未だ出されていないという現状がありますが、ここのところ研究会なども発足して、それなりに収斂されてきた感もあります。

ところで、このホルモン療法ですが、F to M トランスジェンダーに関しては、一般的に男性ホルモンを注射する方法が採られます。女性の反対は男性であり、女性に対して男性ホルモンを注射すると、男性化するという考えによるものです。実際に、男性ホルモンの注射によって、体毛やヒゲは濃くなり、声は低く、筋肉も付き、生理も止ってしまう方もいます。しかし、乳房・バストに関しては、サイズ的には小さくなる傾向にありますが、どうしてもふくらみの形そのものは、男性的な胸板になるというわけにはいかないのが現実です。そこで、乳房の切除手術を行うということになるのですが、この時に問題になるのが、傷のことです。切除と言う限りは、傷が全く残らない手術と言うのはあり得ません。しかし、その傷をいかに目立たなくするかと言うところが、美容整形・美容外科的なアプローチとして、独自性と創造性を発揮できるところでもあります。

乳房の切除と言うと、乳がんの治療を思い出す方が多いかもしれません。しかし、F to M トランスジェンダーの場合には、手術法がかなり異なります。
乳がんの手術の場合には、病巣を取り除くことを主体に考えますから、その後に変形を残した場合には、そこから再建と言う形になります。したがって、病巣を取り除き易い位置と長さを考慮して、切開線の位置や長さを設定することが多いと言えます。しかし、F to M トランスジェンダーの場合には、術後の仕上がりとしての形を、できるだけ正常な男性化させたものとするために手術を行うわけですから、傷の位置や長さは、乳がんの手術の際とは、自ずから異なってきます。
具体的にはどういうことかと言うと、乳がんの手術は、必要に迫られて行うもので、肉眼的所見において、乳腺以外でも、癌が浸潤しているところは、その部分を全て切除する必要があるということです。つまり、皮膚や周囲の脂肪層、さらに乳輪や乳頭にまで、切除範囲が及ぶことがあるため、そのあたりには切開創を加えないわけにはいかず、そこには傷ができるというわけです。

そこで、F to M トランスジェンダーの場合の乳房切除術の場合には、最初から乳房の、否、胸部の形重視での手術を行うということになります。その場合、やはり傷を最小にすることが大切になります。基本的に、F to M トランスジェンダーの場合には、乳輪や乳頭の大きさについても修正を希望する場合が多いため、これらの手術とともに、乳房切除をワンセットに考えます。つまり、乳輪や乳頭の縮小のための傷と、乳房切除のための傷を、共通化できるところは共通化するということです。具体的には、乳輪縮小と乳房切除の傷を、できるだけ共通化するため、乳房切除の傷を、できるだけ乳輪周辺とすることです。したがって当院では、乳輪・乳頭の縮小と乳房切除を、事情が許すようであれば、できるだけ同時に行うことを推奨しています。そうすることで、手術を2回に分ける必要がなく、しかも、乳輪縮小と乳房切除の、2つの手術の傷を共通化できる部分が増える為です。

こちらのモニターさんの場合にも、乳房切除の手術と乳輪・乳頭の縮小施術を同時に行いました。乳房切除手術の傷跡としては、乳輪の下半分のところと、その両側に約1㎝のものとなりました。それは、術前の写真上でもお分かりかと思いますが、乳腺と皮下脂肪を含む乳房の内容を取り除くのみでは、術後に皮膚に余りを生じる可能性が大きかったためです。そのため、皮膚の切除を要することから、乳輪の下半分の部分に沿って切開創を置いた後、そこから下約1.5㎝の幅で皮膚を切除しました。そして、それを縫合する際に、両端の皮膚の余り(ドッグイヤー)を切り取って修正するのに、乳輪の両側に短い傷が必要になったのです。しかし、この傷痕は、術後約半年ほどすれば、その色がなくなり、もっと目立たなくなってきます。
F to M トランスジェンダーの場合には、胸部の皮膚の余りと言うのは、乳房切除の際には大きな問題になります。もし、F to M トランスジェンダーの乳房切除術の際に、皮膚の余りを残してしまった場合には、その仕上がりがかなり良くない状況になります。F to M トランスジェンダーの乳房切除術と言うのは、皮下脂肪と乳腺を取り除く手術であることは論を待たないところなのですが、この手術の後の状況は、いわゆる、萎縮した乳房とよく似た状態です。つまり、高齢者の乳房と言うことです。これは、張りのなさとともに乳房の下垂を伴っていますので、乳房の中身に対して皮膚が余った状態です。この状態をF to M トランスジェンダーの乳房切除術の際に造ってしまうと、やはり余分な皮膚を切除する手術を行わないと、改善が見込めません。結局、手術を2回にわたって行うという形に陥ってしまうのです。
しかし、皮膚の余りについては、乳房の大きさによってカモフラージュされていたり、場合によっては、乳房の重量によって皮膚が引っ張られていることで、過剰に表れていたりする場合もあります。例えば、術前にはかなり大きな乳房であっても、その中身を取り除いた時に、重力の影響がなくなることや、中からの圧力で、皮膚が伸ばされていた分は、自然に縮むこともあります。そのようなことは、皮膚の弾力性が豊富な、比較的若い方に多く見られる現象です。20歳代前半であれば、これらの現象を期待できる場合があります。診断には、術前の乳頭の位置や乳房の形、さらに皮膚の厚みなどを総合的に判断することが必要です。凡その診断基準としては、年齢は20代前半まで、乳房の形はお椀型、乳房が大きくなってホルモン注射で小さくなったというわけではなく、乳房のサイズ的にはほぼ一定を保ってきたこと、などが、皮膚の余りを処理するための切開を加えなくても、皮膚がしっかりと縮んでくれる条件です。

医療広告限定解除要件
副作用・合併症:肥厚性瘢痕
費用・料金:乳房切除60万円 乳頭縮小20万円 合計80万円