F to M 乳房切除術のモニターさんです。男性ホルモン療法にて、良くコントロールされていて、元々の乳房は大きくはありません。男性でも、女性化乳房という状態なら、よく見かけるくらいのバストです。しかしながら、やはり乳腺の形は隠しようもなく、Tシャツを着ても、女性的なバストの線は分かってしまうというのが、術前の状態です。このような場合には、やはり乳腺を摘出し、その形を男性的に整えてやることが大切です。幸いにして、非常に痩せ型の体型であるため、バストには脂肪があまりついていなくて、乳腺周囲の脂肪吸引は、その量をあまりたくさん吸引する必要がありませんでした。また、バストの皮膚が伸びておらず、若い患者さんであったこともあり、術後の皮膚の縮みも良好で、皮膚の切除を最小限に抑えることができたため、仕上がりとしては、本人の満足をほぼ100%得ることができました。
しかし、乳腺周囲の脂肪層の吸引量があまり必要なかったからと言って、簡単な症例と言うわけではありません。それは、皮下脂肪が少ないということは、その分、繊細な脂肪吸引を心がけないと、術後のバストの皮膚に凹凸を残しやすいためです。では、脂肪吸引を省略してしまうと、どうなるのでしょうか?その場合には、やはり満足のいく結果が得られないことが多いと言えます。それは、女性の乳房と言うのは、乳腺は勿論のこと、その周辺の脂肪組織も、同時に乳房の形を作っているからです。つまり、手術の内容を、乳腺の摘出だけに留めると、仕上がりは、より小さな女性のバストを作ってしまうということです。
乳腺周囲の脂肪層に対して脂肪吸引を加えることには、2つの利点があります。
一つは、前述のように、女性的なバストの形を形成する一つの要素である、皮下脂肪を取り去り、その形を男性的に創作することで、より手術の結果を安定させることができることです。
もう一つは、術後の皮膚の縮みに関するものです。バストの皮下脂肪層が厚い場合でも、また逆に薄い場合でも、F to M 乳房切除術の場合には、表層脂肪吸引の技術を使用します。表層脂肪吸引と言うのは、皮膚の直下の脂肪層に脂肪吸引を行うことによって、術後に皮膚が縮み、たるみが改善される技術です。1990年代に、イタリアのDr. Gasparottiによって提唱された技術で、その実施に際しては、高い技術力が必要とされます。F to M 乳房切除術では、この表層脂肪吸引を行うことによって、女性化した際に伸びてしまった皮膚を縮め、術後の乳房の垂れさがりを防止します。これは、換言すると、皮膚のメスによる切除を最小限に止めることができるということです。したがって、切開線を最短の状態にし、術後の傷を目立たなくできるということでもあります。
F to M乳房切除術を受けた患者さんは、当然のことながら、男性化を目指すことになります。まず、着衣の状態での男性化というのは、このF to M 乳房切除術で、大半は達成できます。しかしながら、大半の患者さんが困るのは、家の外でのトイレの問題です。デパートや地下街などのトイレを利用する際、彼ら(彼女ら)は、男性用のトイレの個室にて、小用を足す形をとります。そこで、彼らの次の目標は、男性用小用便器を使用することが、大半を占めます。つまり、「立って小用を足す」ということです。F to M 乳房切除術を受けた後、立って用を足せるようにするためには、やはり下半身に手術を加える必要があります。
しかしながら、男性と同等のペニスを作成する手術は、腕から骨と筋肉と皮膚とを一塊にして、血管を付けて採ってくる必要があります。その腕の組織で筒状のペニスを作成し、血管を下腹部の血管と縫合して、ペニスの代わりをさせるものです。この手術を受ける際には、最低でも2週間の入院と全身麻酔を必要とするばかりか、腕には大きな傷を残し、場合によっては腕の運動制限などの後遺症を残します。つまり、かなりの覚悟が必要な手術と言うことです。
そこで、もっと手軽な方法で、立って小用を足せるようにするには、尿道延長術という手術を行うことになります。この尿道延長術も、方法がいろいろ存在します。一般的には膣閉鎖術を伴うことが多く、この際に膣粘膜を使用して尿道を形成するのですが、この場合、子宮と卵巣の摘出を行わなければなりません。そこで、局所の粘膜のみを用いて、尿道を形成する方法が採られることがあります。このF to M 乳房切除術術後に行う、局所の粘膜のみを用いて尿道を形成する方法については、比較的手軽に、立って小用を足せるようにする方法であると言えます。
しかし、この方法は手軽である反面、2つの欠点があります。
一つは、男性ホルモン注射治療によって、クリトリスの成長を十分に獲得しておく必要があることです。尿道延長手術は、クリトリスの下の部分に尿道を形成し、できるだけその先端に外尿道口を持ってくる手術です。したがって、クリトリスに十分な大きさがないと、外尿道口も前に出ることはなく、たとえ尿道延長術を行っても、立って小用を足すことができないというわけです。
もう一つの欠点は、尿道が狭くなってくることがあるということです。この手術は、局所の粘膜を弁状に起こし、それを以て尿道を作成する手術です。弁状に起こすとは、粘膜の大部分を、下にある肉から外してやることになり、起こされた粘膜弁は、通常の状態よりも血流が悪い状態になります。そうすると、術後には、粘膜弁の委縮が発生し、そのことによって尿道の内腔が狭くなるのです。その狭くなり方が大きいと、排尿困難や尿閉(尿が出せなくなること)が発生します。この現象の予防法はいくつかあるのですが、どれも100%狭窄(内腔が狭くなること)を防ぐことは不可能です。その場合には、尿道に穴をあけ、排尿がスムースに行くようにしてやらなければなりません。
このように、局所の粘膜のみを用いて尿道を形成する方法は、欠点も存在するのですが、それでも需要が多い手術です。それは、手術自体は大規模な麻酔(全身麻酔など)を必要とせず、しかも外来で術後の管理が可能であるということからです。また、不幸にして尿道の狭窄が発生して、排尿困難が生じたとしても、他の方法への移行が容易だということも、一つの理由です。男性ホルモン注射については、男性化を目的とする場合には必要なものですから、これはどちらにしても継続する必要があるため、そんなに負担にはならないようです。
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副作用・合併症:肥厚性瘢痕
費用・料金:80万円