乳房切除+乳頭縮小術

乳房切除と乳頭の縮小を同時に行った、F to M(女性から男性へ)のモニターさんです。写真は順に、術前・術後1か月目・術後3か月目です。術後3か月目で傷についてはほとんど落ち着いた状態ですが、この後、もっともっと目立たなくなっていきます。 

通常、乳房切除と乳頭縮小は同時には行わないというクリニックがほとんどですが、当院では、患者さんの負担を減少させるために、できる限り同時に行う方針を採用しています。乳房切除と乳頭縮小を同時に行わない理由はいくつかあります。一つは、乳頭は乳腺から乳管を媒介として連続性があり、乳腺を切除した場合、ある程度は自然に小さくなる傾向があるためです。そして2つ目の理由としては、乳房切除術に伴って、皮下脂肪層や乳腺を切除することで、乳輪や乳頭の血行が悪くなり、乳頭が壊死に陥る可能性が高くなるからです。これらの理由については、手術手技のある程度の熟練と、その手術法の改良によって、かなりの部分がクリアできるものです。つまり、乳腺や皮下脂肪を除去しても、乳輪と乳頭の部分の血行を悪くしない工夫と、その手術手技の開発・トレーニングによるものです。この辺のことは、どうしても医師の腕にかかっているところですが、それでもいくつかのコツのようなものが存在することは事実です。

乳腺

手術で切除された乳腺。

こちらの患者さんは、若い頃から、しっかりとホルモン治療を行っていたため、バストのサイズの割には、乳腺は小さめ。

乳房切除術と乳頭縮小術を同時に行うクリニックが少ないことの理由は、前記の2つに集約されるわけです。しかしどちらの理由も、乳頭・乳輪の血行の問題であるということには変わりありません。 

では、乳頭と乳輪の血行を保つための手術手技上の工夫とは、どのようなものなのかということになります。FtoMの場合の乳房切除術は、乳がんの場合の乳房切除術とは違って、傷をできるだけ小さくすることが肝要です。逆に乳がんの場合の乳房切除術は、乳がんをできるだけ取り除くことを主眼としますので、確実に乳がんを切除するために、傷の大きさよりも、取り残しを抑える目的で、大きく切開を行います。しかし、FtoMの場合でも、できるだけ多くの乳房組織を取り除きたいことには変わりありません。そこで、乳房組織のうち、乳腺以外の部分、つまり脂肪組織については脂肪吸引を使用して、組織を取り除くことになります。この脂肪吸引という技術ですが、簡単に言うと、管を脂肪組織に刺し込んで、脂肪組織を吸い出す作業です。この脂肪吸引という技術は、1980年代に美容外科の領域では一般的な技術となり、世界中で行われるようになりました。それは、皮下脂肪を取り除く際に、大きな切開創を必要としないことが大きな理由です。したがって、FtoM乳房切除術にこれを取り入れることは、非常に合理的なことであるわけです。また、皮下脂肪組織内の太い血管や神経に関しては、それらを傷つけることなく、脂肪組織の減量が可能なことから、男性の女性化乳房などのような状態にも、多く用いられています。

前述のように、乳頭と乳輪の血行を保つためには、脂肪吸引を組み合わせて手術を行い、皮下脂肪に関しては脂肪吸引で減量を図るというのが合理的な方法であるということができます。
しかし、脂肪吸引を組み合わせて手術を行っただけでは、乳頭と乳輪の血行は十分に保たれるわけではありません。単に脂肪吸引を組み合わせたとしても、前記のような、乳頭の委縮や、乳頭縮小手術を同時に行った際の、乳頭の壊死などと言った合併症は多発します。それは、いかに脂肪吸引といえども、十分な血流を保つことが困難であるということを表しています。脂肪吸引は、脂肪組織内の太い血管や神経は切断せずに皮下脂肪を減量できます。しかし、通常の脂肪吸引では、細い血管や神経、特に静脈に関しては、切断を免れることができないからです。
そこで当院では、できるだけ細い血管まで切断せずに脂肪吸引を行えるように、独自の工夫を脂肪吸引に加えています。それらの工夫の一つが、脂肪吸引で使用する、脂肪組織内に挿入する管、これをカニューレと言いますが、このカニューレを通常よりも細いものを使用するようにしました。カニューレを通常の太さよりも細くすることによって、太い血管や神経ばかりでなく、より細い血管や神経まで切断することなく保存することができます。そうすると、乳腺を切除した後の乳輪や乳頭への血行も、より正常に保つことができるということです。

では、実際のところ、脂肪吸引を行う時のカニューレの太さは、どのくらいの太さなのでしょうか?
一般的にボディーの脂肪吸引で使用されるカニューレは、直径が3㎜から4㎜のものが多いようです。しかし、当院では1.6㎜から2㎜と、一般的に使用されるカニューレの約半分の直径のものを使用します。直径こそ約半分ですが、断面積にすると約4分の一になります。このような細いカニューレの場合には、他院では顔面の脂肪吸引専用としている場合が多いようです。このような細いカニューレを使用して脂肪吸引を行えば、細い血管や神経まで切断することなく脂肪を取り除くことができます。顔面には、ボディーよりも細くて繊細な神経や血管がたくさんありますので、他院でも細いカニューレを使用するのですが、当院ではこの細いカニューレをボディーの脂肪吸引に使用します。ちなみに当院の顔面脂肪吸引用のカニューレは、直径が0.8㎜から1.0㎜と、これまた他院の半分の直径です。
このように細いカニューレ(吸引管)を使用することで、FtoM乳房切除術の場合でも、乳輪と乳頭の部分の血行が、乳腺を切除した後でも十分に保たれることとなります。したがって、乳頭縮小術を乳房切除術と同時に行うことに対する安全性が、十分に保たれるということになります。

乳輪と乳頭の部分の血行を保つための、手術手技上の一つの工夫は、脂肪吸引の際に使用するカニューレを細くすることです。しかし、細いカニューレを使用することは、良いことばかりではありません。細いカニューレを使用することの欠点としては、何といっても、手術に時間がかかることです。前述のように、直径が半分のカニューレを使用すれば、同じ圧力で吸引した場合には、単純計算すれば、単位時間当たりその断面積に比例した量の吸引量となります。したがって、直径が4分の一の細いカニューレを使用すれば、単純計算では手術時間は4倍となります。しかし、実際にはそこまでの時間はかかりません。それは、カニューレのホールパターン(先端付近の穴の形や数、およびその並び方)に違いがあるからです。当院のカニューレは一般的なホールパターンではなく、その数が多いのと、形が微妙に違うことで、脂肪組織を非常に小さく砕きながら脂肪吸引を行えるようになっています。そのことで、吸引された脂肪は非常に粒が小さく、ポンプやシリンジで作られた陰圧に従って、細いカニューレの中をスムースに移動して吸引されます。したがって単位時間当たりの吸引量は、単純にカニューレの断面積に比例するのではなく、たとえ太さが半分であっても、もっとたくさんの脂肪が吸引できるということです。実際には、やはり他院で使用されている一般的な太いカニューレよりも時間がかかるのですが、それでも手術時間は1.5倍から2倍程度です。このように、当院の直径が細いカニューレの使用によって、手術時間が延びるといっても、それが非常に長時間に及ぶということではなく、時間にすれば約30分程度と考えていいでしょう。
たとえ乳房切除の手術時に、30分だけ手術時間が延びたとしても、乳頭縮小術を一緒に行わずに術後数か月後に行うことを考えれば、患者さんの負担は少ないと思われます。このようなことから、当院では、できるだけ乳頭縮小術を乳房切除術と同時に行うという方針を採っています。

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副作用・合併症:肥厚性瘢痕
費用・料金:80万円