F to M性転換の一環で、乳房切除を行ったモニターさんの症例写真です。こちらのモニターさんの場合、乳房そのものはあまり大きくないのですが、皮膚の余りが多く、これを切除しないと、どうしても術後の胸部の形態を、巧く男性化できない症例でした。つまり、皮下脂肪と乳腺の切除では、どうしても術後に、余った皮膚が垂れ下がり、そのことで胸部の十分な男性化の効果が出せないということです。もし、このモニターさんの症例に、皮下脂肪と乳腺の切除のみを行ったとすれば、垂れ下がった、老婆のような乳房を作ってしまう形となり、決して男性の胸部を再現した形にならず、着衣の状態でも、満足のいく結果が出なかったと予測されます。そこで、縦に約5cm幅での皮膚の切除を必要としました。写真はそれぞれ、術前・術後約1か月目・摘出した乳腺の写真です。
こちらの症例写真のモニターさんに対する手術は、皮膚の切除と乳腺・脂肪の摘出、さらに乳輪・乳頭の縮小が加えられています。まず手術前に、切除するべき皮膚の量を決定します。そして、その決定した量に従って、皮膚にデザインします。皮膚の切除が必要だからと言って、どこに傷をつけてもいいかと言うと、そういうわけではありません。やはり、傷はできるだけ少ないほうがいいに決まっていますので、乳輪の縮小を行う傷とできるだけ重なるようにデザインします。しかし、こちらのモニターさんは、幅5㎝もの皮膚の切除が必要な症例ですので、傷自体もそれなりに長くなり、どうしても乳輪の周囲やその中にすべての傷を隠すわけにはいきません。そこで、皮膚を切除するための傷は、中央が乳輪に重なるようにして、横一文字としました。また、乳輪と乳頭は縮小が必要ですので、それらは皮膚と一緒に完全に切り取ってしまってから、手術の器械台の上で小さく整形し、再び胸部に戻すように計画しました。いわゆる、乳頭乳輪再移植法といわれる方法です。そのために、最終的に乳輪と乳頭をどのくらいの大きさとするかも、最初のデザインで計画し、その印を打っておきます。そうしないと、切除した後の皮膚は緊張を失って縮んでしまうため、器械台の上では十分に大きさの検討ができないためです。
症例写真のモニターさんの、今回の手術の手順としては、まず、乳輪・乳頭の切除から開始しました。術前のデザインを参考に、まず、乳輪の周囲を一周するように皮膚を切開し、その切開創から乳輪の皮膚を薄く剥がしながら、乳輪乳頭を採取します。この切除した乳頭のくっついたままの乳輪は、抗生物質入りの生理食塩水の中で、加工がおこなわれるまで保存されます。
その後、その乳輪と乳頭を取り囲むようにデザインした紡錘形の、皮膚の切開線に沿って、切開を加え、そこからその周辺の皮下脂肪に対して脂肪吸引を加えます。皮膚の切除の前に脂肪吸引を加えるのは、乳腺の周囲の存在する脂肪を脂肪吸引によって取り除くことで、乳腺に入っていく血管や、乳腺を包んで胸壁に固定しているクーパー靭帯などの走行が、はっきりと直視下に観察できるためです。つまり脂肪吸引によって、乳腺の、周辺の組織との繋がりを、できる限りクーパー靭帯や血管などのみにしておくためです。そのことで、切断するべき、乳腺に入っていく血管やクーパー靭帯の繊維がよく解るようになり、手術中の止血が容易になります。
乳腺周囲の脂肪吸引が終了したら、いよいよ、乳腺の摘出になります。乳腺の摘出に際しては、出血のコントロールが最も重要なことになります。元々が発生学的には、皮膚の付属器である汗腺と同根の乳腺には、太い血管はありません。しかし、その位置が心臓に近い分、細い血管であっても中を流れている血液の圧力が高く、体の他の部分よりも、止血を慎重に行わなくてはならない箇所です。そこで、肉眼で見える血管や出血箇所は、電気メスで焼灼して止血するのではなく、必ず、糸で結紮(結ぶこと)によって、止血を行うことが大切です。したがって、最初に乳腺の周囲の脂肪吸引を行っておくことには、それらの血管を見えやすくするという観点から、大きな意味があると言えます。実際の乳腺の摘出は、これらの血管を結紮して切断するのと、クーパー靭帯を切断するのとを、ほぼ交互に何度も繰り返しつつ、乳腺を少しづつ引っ張りだしながら、行われていきます。
この、F to M性転換乳房切除術における、最も重大で頻度が多いとされている合併症が、術後の血腫です。F to M性転換乳房切除術は、このように、小さな切開創から、比較的大きなボリュームの乳腺を取り出す手術です。術後には、それまで乳腺の入っていた箇所には、その体積分の空洞ができます。空洞は圧力が加わっていないため、出血した血液が溜りやすいということができます。そして血液の溜まりである血腫が発生すると、空洞を押し広げるように作用し、そのことでさらに血液が溜るという悪循環が発生して、血腫はどんどん大きくなっていきます。さらに前述のように、胸部は心臓に近い分、細い血管であっても中の血圧が高く、血腫が発生しやすい解剖学的素地があります。そこでF to M性転換乳房切除術では、このような慎重かつ確実な止血操作が大切なプロセスの一つとなっています。内部の止血が完了したら、止血剤を浸透させたガーゼを、乳腺のあったところに詰め込み、圧迫を行います。内部にガーゼを詰めて圧迫するのは、ガーゼに付着した血液を基に、直視下で確認できなかった出血巣の存在を、もう一度チェックするためです。ガーゼを詰め込んでの圧迫が終了し、ドレーンを挿入します。このドレーンは、小さな血腫ができることを防止するために挿入します。中に血腫が形成されて、組織同士がくっつこうとするのを妨害しないようにするためです。このようにして、当院では、術後の血腫形成を、2重3重に防止する手術手技を採用しています。
ドレーンを挿入し、それを固定したら、あとは皮膚の縫合に移り、乳輪・乳頭を再移植して、手術が終了します。乳輪と乳頭は、再移植する前に、器械台の上で小さく整形しておきます。それは、いくら元々の乳輪・乳頭が小さい場合でも、女性のそれらは必ず男性よりも大きいためです。ただし、再移植された乳頭は、最終的には縮んで小さくなる傾向にありますので、予定よりも30%ほど大きめに作っておくことがコツでもあります。再移植が終了したら、タイオーバーという、厚めのガーゼを取り付け、手術終了となります。
ドレーンの抜去は翌日。乳輪・乳頭の移植の時に取り付けた厚いガーゼは1週間後に取り外します。抜糸は通常の手術と同じく約7日後になります。
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副作用・合併症:血腫・壊死
費用・料金:80万円