太もも+膝

クラシックな手術ですが、当院の極細カニューレを使用した脂肪吸引の経過写真です。モニターさんは、20歳代後半の女性です。術前・術後1週間・術後3カ月の順番です。1週間後には少しですが、効果がでてきているのが分かると思います。そして、内出血の少なさも、特筆すべき点です。

術後1週間だと、まだ、カニューレを挿入した穴がわかります。穴自体は非常に小さいのですが、周囲に少し色が付いているため、穴が大きく見えます。しかし、3カ月目には、その色もほとんどなくなっているのがお分かりかと思います。

極細カニューレのいいところは、このように、内出血が少ないことなのですが、そのほかに、術後の痛みが少ないことも、メリットの一つです。それは、内出血が出たところは、血液が吸収されるときに、白血球が集まりやすく、白血球から放出される「痛み物質」が、神経を刺激して痛みを発生しやすいからです。したがって、内出血が少ないということは、白血球の集合も少なく、術後の痛みも少ないということができます。
また、極細カニューレの場合、血管へのダメージが少ないために、内出血が少ないのですが、同時に神経へのダメージも少ないということが言えます。すなわち、血管と神経といった、脂肪組織以外へのダメージが少ないということです。この、神経へのダメージも、術後の痛みの大きな原因の一つなのですが、これが少ないということは、やはり、術後の痛みの少なさの、大きな要素となっているのです。

極細カニューレの優秀性をお伝えしてきましたが、物事にはやはり、良い面と悪い面があります。当然、極細カニューレにも良くない点があります。それは、手術に時間がかかることです。手術時間については、通常のカニューレでの手術時間の、およそ1.5倍が目安となります。直径3から4mmの、通常のカニューレを使用すると、2時間かかる脂肪吸引が、直径1.6から2mmの当院の極細カニューレだと3時間かかると言うことです。カニューレの直径が半分になると、断面積が4分の1になります。単純に計算すると、時間が4倍かかり、8時間もの手術時間になります。しかし、当院の極細カニューレは、直径が細いことだけではなく、先端のホールパターン(脂肪を吸引する穴)が、従来のカニューレとは大きく異なります。そのことで、脂肪の吸引効率が非常によく、細い直径にもかかわらず、時間当たりの脂肪吸引効果が大きいわけです。さらに、カニューレの先端の形状が全く異なります。このことは、カニューレの動きをスムースにし、運動効率も上昇させることにつながります。したがって手術時間は、断面積の比率で単純に比較することはできず、極細カニューレでの手術時間は、通常のカニューレの1.5倍が目安となるのです。

ではどうして、わざわざ時間がかかる極細カニューレを使用するメリットがあるのか?ということを疑問に思うかもしれません。時間がかかると言うことは、麻酔が途中で切れてしまうのではないかなど、心配になるかもしれません。
ご存じのように、手術と言うものは、手術中には麻酔を効かせて、傷みを取ります。したがって、患者さんは、手術中には痛みを感じません。手術の痛みと言うのは、手術中ではなく、手術の後、つまり、術後の痛みが一番問題になるのです。特に、太いカニューレを使用して行った脂肪吸引の場合には、血管や神経へのダメージもそれだけ大きく、術後の痛みは強い傾向にあります。そこで、術後の痛みを抑えるためにも、当院では極細カニューレを使用するわけです。
また、時間が長い手術になると、途中で麻酔が切れるのではないかと心配する方もいます。通常、静脈麻酔の場合には、その効果の長さや度合いに個人差が大きく、途中で麻酔が切れてしまったり、なかなか麻酔が覚めなかったりします。そこで、当院では、静脈麻酔をしておいて、それが効いている間に、硬膜外麻酔という、背中に針を刺して、細いチューブを通す麻酔を行います。そして、この細いチューブから麻酔薬を流し、痛みを取る方法を行います。この麻酔の方法だと、定期的にチューブから麻酔薬を追加できますので、手術時間に応じて、麻酔が効いている時間を調整できます。

では、脂肪吸引を、「硬膜外麻酔や全身麻酔を使用せずに、局所麻酔のみで行うことはできないのか?」という疑問があると思います。現在、多くのクリニックが、「局所麻酔のみで、すぐ帰宅できる」というのを宣伝しています。答えとしては、「ある範囲までは可能」ということができます。
それは、局所麻酔薬といえども、無制限に大量に注射してもよいというわけではないからです。局所麻酔薬も、ほかの薬剤同様、ある量を超えて注射すると、中毒症状を起こします。この中毒症状ですが、血液に中の麻酔薬の濃度によって、発症するかどうかが決まってきますので、体の大小によって、注射できる量が決まってきます。また脂肪組織のような皮下組織に注射するのか、血管の中に直接注射するのかによっても、血液の中の濃度に差がありますので、違いがあります。脂肪吸引の際には、局所麻酔薬は皮下の脂肪組織に注射しますので、それを前提に考えるべきです。したがって、中毒症状を起こさずに、局所麻酔だけで手術できる範囲というのは、限定されている、つまり、狭い範囲なら可能ということです。

局所麻酔だけで手術できる範囲というのは、前回述べたように、使用できる局所麻酔薬の量によって決まってきます。基本的に、脂肪層は、皮膚や筋膜と違って、比較的痛みに鈍感な組織です。したがって、脂肪吸引の際には、皮膚に注射する局所麻酔の濃度よりも、比較的低い濃度の薬剤で十分です。実際上、リドカイン(商品名:キシロカイン)という局所麻酔薬を使用するのですが、皮膚には0.5%から1.0%を使用します。それに対して、脂肪層には0.1%から0.2%を使用するのが一般的です。それに、エピネフリン(商品名:ボスミン)を混合します。このように調整した脂肪層用の麻酔薬を、Tumescent solution (ツメッセント液)と言います。Tumescentとは、膨らませるといった意味です。ただし、硬膜外麻酔や全身麻酔の際に使用するTumescent液は、もっと薄い0.0125%のリドカインや、リドカインを使用しない場合もあります。このTumescent液には、リドカインが含まれていて、その作用で麻酔効果を得るわけですが、その際に注意しなければならないのが、極量というものです。極量というのは、「これ以上使用すると、高率に中毒症状を起こします。」という量です。リドカインを皮下注射する場合、つまり、脂肪層に注射する場合には、リドカインの極量は、その濃度によって違います。
0.1%エピネフリン入りリドカインで、体重1kgあたりリドカイン70mg
0.15%エピネフリン入りリドカインで、体重1kgあたりリドカイン50mg
です。(Tumescent liposuction:Jeffrey Klein)
患者さんの体重が50kgとして、それぞれ、3500ml、1667ml となります。実際上、0.1%のリドカインでは、痛みに敏感な場合には、痛みを感じますので、0.15%以上を使用する形となります。そうすると、Tumescent液の使用量は、約1700mlということになります。1700mlだと、およそ、腹部全体、または太もも全体(後面除く)くらいの範囲でしょう。
したがって、このような無理をせず、確実に痛みをとるようにするには、やはり、硬膜外麻酔や全身麻酔を使用したほうが、患者さんにとっても、有利であるということが言えます。