太もも

太ももの脂肪吸引を受けた、20歳代後半のモニターさんです。太ももにたっぷりと付いた脂肪によって、術前は、パンツ類の選択に困難を来していたそうです。パンツ類の選択の困難とは、ウエストサイズで選ぶと、太ももが入らず、太もものサイズで合わせるとウエストがかなり余ってしまうといった現象のことです。このような場合には、どうしても太ももを細くする必要があり、そのためには、たっぷりと付いてしまった脂肪を除去する必要があります。


皮下脂肪を除去する方法には、脂肪吸引の他に、脂肪溶解注射や、最近では超音波によるキャビテーションや高周波(RF)、冷凍によるものなどがあります。しかしながら、しっかりと一度に大量に皮下脂肪を除去するためには、やはり脂肪吸引が最も有効な方法であることには変わりありません。効果の順番で皮下脂肪の除去法を並べていくと、一番は脂肪吸引、2番目に当院の強力脂肪溶解注射、そして、その他の方法については、これらの方法よりもずっと効果が劣り、しかも脂肪細胞自体の数量は減少しないため、術後1年もすれば元に戻ってしまいます。

では、このように大きな効果がある脂肪吸引ですが、最近、その世間的なイメージが悪くなってしまっています。このイメージの低下については、やはり未熟な医師による執刀に伴う事故の発生が大きく影響しています。実際に、これまでの脂肪吸引の事故は、静脈血栓症や腹腔内穿刺など、かなり荒っぽい手術手技が原因と思われるものです。これらの、脂肪吸引に伴う事故については、脂肪吸引の件数が、日本とは比べ物にならないほど多いアメリカで、1990年代から警鐘が鳴らされ、そして事故を防止するための様々な対策が、試行錯誤され、試されてきました。

脂肪吸引に関する安全性の確保として、アメリカで採られてきた対策は、大きく2つの時代に分けることができます。 

最初の時代は、脂肪吸引の術中及び術後の出血に対するものです。ご存じのとおり、脂肪組織内にも多くの毛細血管が存在します。そして、それらは脂肪吸引の術中にはある程度の切断は免れません。そこで、皮下脂肪の分厚いアメリカ人の脂肪吸引を行う際には、その脂肪吸引の量も増加する傾向にあり、どうしても大量の出血が発生してしまっていたのです。また、当時(1980年代)の脂肪吸引は、完全な全身麻酔下で行うことが前提でした。全身麻酔は、その使用する薬剤の性質上、血管を拡張させ、脂肪吸引に伴う出血を増加させてしまいます。そして、大量の出血が発生すれば、当然のことながら全身状態は悪化し、実際に死亡事故も発生していました。
そこで1990年代には、脂肪吸引の手術の際には、血管収縮剤を脂肪組織の中に注入するようになり、麻酔もできるだけ局所麻酔で行うようになってきました。その集大成ともいえるのが、Tumescent liposuction(トゥメッセント・ライポサクション)です。この原法は、0.1%から0.15%といった低濃度の局所麻酔薬と血管収縮薬を大量に脂肪組織に注射し、麻酔効果を得ながら出血を減少させるというものです。このTumescent liposuction(トゥメッセント・ライポサクション)の完成によって、脂肪吸引は出血に関するトラブルからは解放されたといっても過言ではありません。Tumescent liposuction(トゥーメッセント・ライポサクション)は瞬く間にアメリカ中に普及していきました。しかし、今度は別の問題が持ち上がってきました。 

それが、静脈血栓症です。静脈血栓症とは、静脈の中に血栓が発生し、それが心臓に帰ってきた後、肺に送り出され、肺の血管に詰まってしまい、呼吸不全を誘発し、急速に死亡してしまう病態です。これは、一時話題になったエコノミークラス症候群のことでもあります。長時間同じ姿勢でじっとしていることで、脚の静脈に血栓が発生して、それが肺に到達してしまい、呼吸不全で死亡してしまうということです。静脈血栓症は、このように同じ姿勢でじっとしていることが、大きな発生要因になります。これを脂肪吸引手術に置き換えて考えてみると、長時間、手術台の上で横たわっていることに原因を見出すことができます。つまり、全身麻酔で筋肉がピクリとも動かない状態で、長時間の手術を行うことに原因があります。
Tumescent liposuction(トゥーメッセント・ライポサクション)の原法に則って脂肪吸引を行えば、全身麻酔を使用することはないのですが、いかにTumescent liposuction(トゥーメッセント・ライポサクション)が普及したとはいえ、これだけでは広い範囲で大量の脂肪を吸引するには限界があります。そこで、多くのアメリカの美容外科医、その中でも主に形成外科医たちは、Tumescent liposuction(トゥーメッセント・ライポサクション)を全身麻酔併用で行っていたのです。そして、大量の皮下脂肪を長時間の手術によって吸引した結果、静脈血栓症を発症していたということです。
静脈血栓症の発症については、このような長時間の全身麻酔といったことの他に、もう一つ、その原因を挙げることができます。それは、血管に対するダメージの大きさです。血栓と言うものは、そもそも出血に対する止血作用の一環として発生するものです。理論的には、血管の壁の内側の構造である内皮が傷つくと、そこに血中の血小板が付着し、血栓の「種」ができ、それが大きくなっていって、血栓が発生します。血栓が血管の穴を塞ぐと、一次止血が完成するのです。そこで脂肪の吸引量が増加すれば、それだけ血管の穴も増加し、たくさんの血栓が発生する素地になるというわけです。さらに、比較的太い血管には、止血のためには大きな血栓が必要なため、それらを傷つけないことも大切なことになります。
そこで2000年代に入ると、アメリカの2つの美容外科学会は、それぞれ脂肪吸引に対するガイドラインを発表することになりました。その内容は、やはり静脈血栓症の予防に関するもので、脂肪吸引の量と、使用するカニューレの太さに関するもの、さらに術後のフォローアップに関するものでした。アメリカの2つの美容外科学会が発表した脂肪吸引に関するガイドラインは、両方ともに非常によく似た内容のものとなっています。 

まず、1回の手術で吸引してもよい脂肪量の制限です。AACSと言う学会は、注入したTumescent液(トゥーメッセント液)を除いた量で5000㏄まで。ASAPSという学会は少し厳しく、4000㏄までとしています。それ以上の脂肪吸引のことは、Mega-liposuction(大量脂肪吸引)と位置付け、万全の全身管理を要求しています。日本人に対する脂肪吸引で、4000㏄の吸引を行うことは非常に稀なことですが、アメリカ人とは体格が違います。そこで、日本人の場合には、約3000㏄を安全域と考えていいでしょう。ただし、これはTumescent液(トゥーメッセント液)を除いた量と言うことですので、吸引器の瓶に入っている量ではありません。
そして2つ目が、使用するカニューレの太さに関するもので、2つの学会はどちらも、できるだけ細いカニューレの使用を推奨しています。太いカニューレはより太い血管に対するダメージを加える可能性が高く、血栓も大きくなりやすいためです。アメリカでは直径4㎜のカニューレは、ボディー用として十分に細いとされています。顔面の場合は直径3㎜です。しかし、皮下脂肪層が分厚いアメリカ人にとっては十分に細くても、日本人にとってはこの太さは十分とは言い難いと思います。
さらに3つ目の術後のフォローアップについては、圧迫固定の重要性と、術後早期の歩行を推奨するものです。脂肪吸引の手術当日の圧迫固定については、止血の意味からも欠かすことのできないものですが、その後の圧迫についても、術後約1か月間の、血栓予防用ストッキングの着用を勧めています。また、術後早期の歩行については、脚の筋肉を動かすことによる、脚のポンプ機能の働きを以て血液のよどみを防止し、血栓の発生を予防するということです。これは脂肪吸引に限らず、整形外科や腹部外科の手術でも同じことが言われており、多くの医療機関で実践されています。

このようなアメリカでの脂肪吸引に関する安全性確保の取り組みに共通しているコンセプトは、皮下脂肪組織の血管をできるだけ傷つけないということです。 

脂肪吸引の際には、皮下脂肪にカニューレを刺しこんで脂肪を吸引するという技術的な特性上、必ず脂肪組織内の血管にダメージが加わります。ダメージを受けた血管は、ある程度の太さのものまでなら、すぐに止血が完了し、そのための血栓も小さく、また、再生も行われます。したがって、できるだけ細い血管までダメージを加えずに脂肪吸引を行うということは、安全性の面だけでなく、仕上がりの上でも重要なことであるということができます。そこで、当院ではできるだけ細い血管までダメージを少なくするため、カニューレの太さを極限と言えるほどにまで細くしました。先述のように、アメリカにおいては直径4㎜のカニューレは十分に細いということになっています。しかし、さらに安全性と仕上がりの良さを追求した結果、当院ではボディー用で直径2㎜、顔面に至っては直径1.2㎜のカニューレを主に使用しています。その結果、脂肪組織内の血管へのダメージは最小限で、しかも仕上がりについては抜群の効果を獲得できています。
細いカニューレを使用することで、血管のダメージ低下から血栓症の予防となり、表面の凸凹の発生も防止でき、安全性と仕上がりを両立させることができたのですが、もう一つ、細いカニューレで脂肪吸引することのメリットがあります。それは、術後の痛みについてです。皮下脂肪組織には、前述のように血管が走っているのですが、もう一つ大切なものとして、神経が分布しています。手術中は麻酔が効いていますので、痛みを感じることはないのですが、術後は、これらの神経から痛みが発生します。この術後の痛みについては、神経の切断と大きな関係があるとされています。
感覚神経は、その末端に付いている神経小体と呼ばれる器官によって、各種の感覚を感じることができます。パチニ小体は圧変化と振動を感知し、マイスナー小体は触覚を感知、クラウゼ小体は圧覚や触覚・冷覚を感知するといった具合です。では、痛みの感覚である痛覚はどうかというと、これらの神経小体を持っていない神経の末端が感知するとされています。神経が切断されると、これらの神経小体を持っていない神経の終末ができてしまいます。つまり、痛みを感じやすくなるのです。脂肪吸引によって神経にダメージが加わり、切断されてしまうと、神経小体を持っていない、このような神経終末が増加し、術後の痛みが強く出るというわけです。そこで、当院の採用している極細のカニューレの場合には、その直径の細さから、血管同様に神経へのダメージも少ないため、神経の切断も最小限に抑えられ、その分、術後の痛みも少ないということができます。実際、このモニターさんも、術後は一人できちんと歩行し、2日後の健診も独歩で来院され、痛みについては思ったよりもずっと軽かったということでした。

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費用・料金:70万円