腹部・ウエスト

腹部の脂肪吸引を、ウエストを含めて行ったモニターさんの症例写真です。年齢は40歳代前半です。吸引脂肪量は約2000mlで、皮下脂肪が十分にとれ、ウエストサイズは7㎝減となりました。

少しまだ、おなかがポコンとしていますが、これは内臓脂肪が原因と思われるため、それをなくすためには他の方法を行う必要があります。その辺の見極めを行うことが、腹部の脂肪吸引では大切なことになります。それは、脂肪吸引後の仕上がりの中で、いわゆる凸凹を作ってしまうことの防止と、大きく関係してくるためです。脂肪吸引の手術そのもののテクニック自体は、皮下脂肪を吸引するという一点においては、そんなに難しいものではありません。皮下脂肪に吸引管を挿入し、それを前後運動させれば、皮下脂肪は簡単に吸引されてきます。このこと自体は、執刀医が20年の経験を持った医師であっても、昨日医学部を卒業した医師でも変わりありません。しかし、仕上がりや安全性においては、雲泥の差が出るのです。

脂肪吸引は、皮下脂肪層に吸引管を挿入し、それを前後運動させれば皮下脂肪が取れます。その際、どのくらいの脂肪が取れるのか、あるいは、どれくらいの効果が望めるのかと言うことに関しては、一人一人の症例の術後経過をある一定期間しっかりと観察し、それを次の手術に生かしていくといった、フィードバックを伴った経験を積むことが大切になってきます。つまり、闇雲にたくさんの症例をこなすだけでは、医師個人としての技術的な進歩は得られないと同時に、美容的に大切な合併症を見逃すことにもなるのです。これは、このような、脂肪吸引の技術的単純さがもたらす、医師に対する一つのトラップとでも言うべきものです。そうして、美容外科医になりたてで脂肪吸引を任されると、その手技の単純さから、どうしても脂肪吸引そのものを誤解してしまう医師が多いように思えます。

美容外科医の脂肪吸引に対する誤解 その1は、情熱のある医師が陥りやすい誤解です。 

脂肪吸引を初めて任された医師に、美容外科に対する情熱が漲っていると、患者さんの満足を得たいという健全な欲望に駆られます。脂肪吸引を希望する患者さんは、ほとんどが、プロポーションをできるだけ細くしたいという希望を持っています。すると彼は、脂肪吸引で、できるだけたくさんの皮下脂肪を取ろうと努力することになります。そして、皮下脂肪を取りすぎて、皮下脂肪がほとんどなくなり、ところどころ、腹部の筋肉と皮膚が張り付いてしまって、患者さんの姿勢によっては大きな凸凹を作成してしまいます。皮下脂肪の取りすぎは、本来皮下脂肪しか取ることのできない脂肪吸引で、内臓脂肪によるお腹の出っ張りまで取ろうと頑張りすぎてしまうからです。その場合、腹部の皮下脂肪は非常にたくさん取れていて、ほとんど残っていないのですが、筋肉と皮膚の張り付きによる凸凹は永久に残ってしまいます。そして彼が陥ったその誤解は、何年もの間、解けずに同じことを繰り返してしまいます。その理由は、彼の情熱だけではなく、クリニックとしての診療体制も、大きく影響します。情熱的な若い医師の献身的な努力にもかかわらず、皮下脂肪を吸引しすぎて、凹凸を残してしまうというのは、医師・患者双方にとって、ほんとうに残念なこととなります。
さらに、そのような手術を繰り返してしまうというのも、その医師の情熱故であるということに関しては、悲しみを禁じえません。そこで、このような凹凸を残してしまう手術をやり続けてしまうということからは、早く脱出してほしいわけですが、その原因が、彼の勤務しているクリニックの診療体制故であるということなら、これを正していくこと、または、患者として、そのようなクリニックを避けるといった自衛を行うことが大切になってきます。
では、具体的には、どのようなクリニックの診療体制が、情熱的な若い医師をして、このような過ちを繰り返させるのかと言うことです。それは、術後の検診を執刀医がきちんと診ない体制であるということができます。もし、執刀医が術後の検診をしっかりとやる診療体制なら、自分の行った手術の結果を目にすることとなります。すると、診療に対して情熱があるが故に、一度でもそのような凹凸を残すようなことがあれば、そのことを自分の手術手技にフィードバックし、早期のうちに改善を図るはずなのです。特に、術後長期にわたる経過を、検診を通じて執刀医自身が観察することは、このフィードバックに役立つとともに、大切なことになります。脂肪吸引の場合には、少なくとも術後3か月目までの検診をきちんと行いたいものです。術後3か月目というのは、脂肪吸引手術の刺激による皮下脂肪の変化も一応終了し、平均しておよそ95%以上の完成を見ることのできる時期だからです。このような悲劇的状況の被害に遭わないようにするために、患者側として注意することは、きちんと術後検診をするクリニックがどうかを見極めることです。
一般的に、美容外科の術後検診と言うのは、抜糸までの急性期を除けば、術後1か月目と3か月目の検診を行うのがセオリーです。中には6か月目と言う場合もあります。したがって、脂肪吸引で通院不要を謳うクリニックは、その時点で不合格と言えます。そして、初診の担当医が執刀するクリニックでないといけません。初診と執刀が別の医師のクリニックと言うのは、大抵、検診も執刀医とは別の医師が行う場合が多いと言えます。ただし、初診担当医と執刀医が違う場合でも、執刀医がきちんと術前にもう一度診察するということなら大丈夫でしょう。当院でも、患者さんの手術希望日と初診医の出勤・手術日程が合わず、執刀医が別の医師になることがありますが、その際には必ず患者さんにそのことを事前に了承していただいて、執刀医が術前に診察をするようにしています。そしてそれはまた、術後の検診に関しても同様で、執刀医の診察予約枠と患者さんの来院可能日が合致しない場合には、患者さんの了承を事前に取る形としています。しかしながら、患者さんには、できるだけ初診・手術・検診と、同じ医師に受けていただくように推奨しています。このような診療体制の積み重ねが、結果的に更によりよい診療・手術手技の進歩に繋がり、それが廻り回って、美容外科の進歩へと貢献できるからです。

美容外科医の陥りやすい、脂肪吸引に対する誤解のその2は、逆に脂肪吸引に対して情熱を感じない美容外科医によるものです。 

美容外科の診療領域は、髪の毛などの頭の先から足の先まで、いわゆる外見に通ずるところは全て、さらに男女の性器にまで及びます。それらの中で、美容外科医にはそれぞれ、好きな手術、あるいは得意な手術というものが出てきます。その際、他の手術と比較すると、脂肪吸引が美容外科手術の中でも、他とは少し違ったものであるということから、興味を持てずに漫然と手術を行い、それで良しとしている場合のことです。
通常、美容外科手術は、切開・内部処理・縫合といった順に行われます。これらの中で、それぞれすべてが手術結果に大きな影響を及ぼすと言っていいでしょう。さらに、これらの手術の過程のうち、特に内部処理の部分において、複雑な過程を辿ることが多く、その部分が腕の見せ所であったりします。例えば、二重瞼の切開法の手術などは、皮膚を切開した後、眼輪筋を切除し、眼窩隔膜を開き脂肪を除去し、皮膚を内部とともに縫合します。そしてそれらのすべての過程が、手術結果に対して影響を持ちます。つまり、手術自体の流れが変化に富んでいると言えます。しかし、脂肪吸引は前述の通り、この内部処理の過程が、カニューレの前後運動だけになってしまいますので、どうしても腕の良さを見せたい美容外科医にとっては、手術に時間ばかりかかって物足りないという印象になってしまいます。実際には、カニューレの前後運動と言っても、その方向や層の深さなど、いろいろなノウハウがあるのですが、この、カニューレの前後運動という動作については変わりがなく、他の手術に比べて手術の流れを単純に感じてしまうのです。
つまりこの第二の誤解は、脂肪吸引の他に、多くの種類の手術を執刀できる技量のある医師によるものと言うことができます。特に形成外科系の美容外科医の場合、そのキャリアが素晴らしければ素晴らしいほど、手術の流れに関して複雑なものを好む傾向があり、脂肪吸引に情熱を感じないことが多いようです。また通常、日本の形成外科には元々美容外科が含まれなかったという歴史的な事情もあり、脂肪吸引を軽視する傾向があるというのもまた、事実です。そして、実際に形成外科の本流とされてきた再建外科の分野においては、脂肪吸引を行う機会もありません。行うとしても、せいぜいフラップを薄く修正したりする程度です。最近は乳がんの術後の乳房再建に脂肪注入が使用されるようになってきましたので、多少は形成外科で脂肪吸引を行う機会はあるのでしょうが、それはあくまでも注入するための脂肪を採取することが目的で、脂肪吸引自体がメインの手術プロセスではありません。したがって、脂肪吸引にはなじみがない形成外科医が、美容外科医として診療する場合、脂肪吸引には興味を覚えるということが少ないと言えます。そこで、そのような形成外科出身の美容外科医が、ただ漫然とカニューレを前後運動させ、前述の若い情熱的な美容外科医と同じ、脂肪の取りすぎによる凹凸を残すことや、脂肪の吸引量が不足するといった事態が発生するのです。
以上のように、脂肪吸引と言う手術は、美容外科の中では最も形成外科の応用であるとは言い難い手術であると言えます。脂肪吸引の歴史的なことを考えても、元々戦傷外科として発展してきた、再建外科としての形成外科の諸技術とは違い、脂肪吸引は産婦人科のキュレットを使ったのが最初です。そして形成外科とはほとんど関係のない過程を辿って発展してきました。事実、現在の脂肪吸引の手技のうち、最も重要なこととされ、どのような器械を使用するにしても必ず行うことになっている、トゥーメッセント法(Tumescent 法)というものがあります。このトゥーメッセント法(Tumescent 法)とは、血管収縮剤を含む薬液を皮下脂肪層に大量に注入する手技なのですが、これは形成外科医ではなく、アメリカの皮膚科医による発明です。このように、美容外科の手技の中では、脂肪吸引と言うのは美容外科特有の手技であり、他科にはないものです。他の美容外科手術に関しては、形成外科の医師はそれなりに、形成外科の手技を応用して、早く習得することもでき、名医になれるチャンスは他科出身者よりも多いと考えられます。しかし、こと脂肪吸引に関してはそうはいかないというのが、ほんとうのところなのです。