太もも全体

太もも全体を脂肪吸引したモニターさんです。元々、あまり太い脚ではないのですが、さらに細くということで、手術を決行しました。
年齢は30代前半です。手術範囲は、膝周りを含めて、くるりと太ももを一周しています。

脂肪吸引は、その言葉通り、脂肪組織を吸い出す手術です。ただし、皮膚に穴を開けてホースをつなぐだけで脂肪が取れてくるわけではありません。脂肪を吸引するためには、ホースにつないだ管を、皮下脂肪層に挿入する必要があります。この管のことを、カニューレと言います。脂肪吸引は、このカニューレを、皮膚に開けた穴から皮下脂肪層に挿入し、前後に動かしながら陰圧をかけることで、脂肪を少しずつ削り取ってくるというのが、手術の原理です。そして、脂肪吸引の手術が上手くいくかどうかというのは、この削り取り方が、どのような方式で行われるかによるところが大きいと言えます。そして、それを決定するのは、手術に使用するカニューレ側の要素と、脂肪組織側の要素の2つに、大きく分けて考えることができます。

脂肪吸引の手術に使用するカニューレ側の要素としては、その太さが大切です。 

アメリカの2つの美容外科学会の双方ともに、できる限り直径の細いカニューレを使用することを推奨しています。それは、勿論、仕上がりや、術後の痛み等のダウンタイムに関することを考慮しないわけではないのですが、アメリカでできるだけ直径の細いカニューレを使用するように推奨された一番の理由は、血管に対するダメージのことが、クローズアップされたためです。脂肪吸引に関しては、日本以上に症例も多く、それなりに先進国の地位にあるアメリカでは、その症例が多いことと同様に、合併症も多く発生しました。その合併症のうち、急速な転機を辿る致死的なものの一つとして静脈血栓症(脂肪塞栓症)があり、それに対する対策が、アメリカでは盛んに議論された経緯があります。その中で、カニューレの直径も、できるだけ細いものを使用するほうがいいということになりました。
筋肉や皮膚などと比較して、血流が乏しい皮下脂肪組織ですが、そこには大小数多くの血管が存在します。それらの血管を、なるべく傷つけないことが、静脈血栓症(脂肪塞栓症)の予防に関しては大切なことなのです。血管が傷つくと、なるべく血液がそこから漏れださないように、人間に元々備わっている止血機構が働きはじめます。止血機構の中で、最初に観察されるのは、血液の凝固なのですが、これは、出血を止めるという意味ではなくてはならない現象です。しかし、この血液の凝固によって、血栓ができるというのもまた、事実です。止血機構が開始された初期には、血栓は、その表面に血小板を集める性質があり、さらに血液を凝固させていきます。つまり、血栓が血管の中で大きくなっていくのです。このことは、止血と言う意味では合理的なのですが、それが過度になると、大きな血栓が太い血管の中にでき、それが中枢に流れて行きます。そして、その血栓が心臓を通って、最初に詰まるのが、肺です。血栓が肺に詰まると、肺梗塞という状態になり、肺葉の一部に血液が供給されなくなるばかりか、血液がそこの肺葉から酸素を受け取れなくなります。そうすると、血液中の酸素濃度が低くなり、急速に生命の危険に向かうのです。このように静脈血栓症(脂肪塞栓症)は、その発症転機がいきなりやってきて、急速な臨床症状の展開を示すため、脂肪吸引手術においては、予防に勝る治療のない合併症であると言えます。つまり、脂肪吸引における、最大にして最悪の合併症である静脈血栓症(脂肪塞栓症)の予防には、アメリカの学会は、できるだけ細いカニューレの使用を推奨しているということです。このように、できるだけ細いカニューレを使用することは、術後の凸凹の防止だけでなく、重大なる合併症・副作用の防止にもなります。
細いカニューレによって脂肪吸引を施行した場合、カニューレの穴は必然的に小さなものになります。すると、穴に入ってくる脂肪組織も、大きなものは入ってくることができず、小さなもののみが入ってくる状態です。従って、その穴に入ってくる脂肪組織は、それが含む血管も細いものであるということができます。つまり、本当に抹消の、非常に細くて、切断されても大きな出血はなく、したがって大きな血栓ができず、術後の圧迫によって十分に止血できるような血管のみが、細いカニューレにて脂肪吸引した際にはダメージを受けるということができます。これが、カニューレの直径が太い場合には、その反対に、術後の圧迫のみでは止血できない為、血栓の形成が大きく、それが静脈血栓症(脂肪塞栓症)から呼吸不全へと向かう原因となるのです。もちろん、太いカニューレを使用して切断してしまった血管については、その再生も十分になされないため、術後半年以上の長期間の観察の後には、皮下脂肪層の上にある皮膚の血行が悪くなっている症例も観察されています。

一方、脂肪組織側の要素としては、現在は、チューメッセント法(ツーメッセント法,トゥーメッセント法,Tumescent Method)というのが、その根底にあります。 

このチューメッセント法(Tumescent Method)というのは、1990年代から主流になってきた方法です。具体的には、脂肪吸引を施す個所の皮下脂肪組織に、注射口から溢れるほど大量の生理食塩水と血管収縮剤を注射し、脂肪組織を膨化させると同時に、脂肪組織内の血管を収縮させて細くしておく技術です。そのことで、カニューレの直径に対して、脂肪組織の厚みを確保し、相対的にカニューレの直径を、元の脂肪組織に対して小さな割合にし、より細いカニューレとして作用させます。また、血管収縮剤の効果によって、手術による出血量を低下させるという効果もあります。このように、吸引を施される脂肪組織側の準備としては、このチューメッセント法(Tumescent Method)は、20年以上用いられていて、今や脂肪吸引におけるスタンダードなものとなっています。この方法を使用しない場合と言うのは、幹細胞採取を研究目的で効率よく行いたい場合に限られると言っていいでしょう。
脂肪吸引に際して、脂肪組織側の要素の改良は、この、チューメッセント法(ツーメッセント法,トゥーメッセント法,Tumescent Method)をベースにした上でのことになります。このチューメッセント法(ツーメッセント法,トゥーメッセント法,Tumescent Method)というのをベースにして、さらにいろいろな形で、吸引される側の脂肪組織の加工を行うことが、開発されてきました。それらを大きく分けると、利用するエネルギー別では、超音波、レーザー、力学的エネルギー、の3つとなります。超音波を利用するものでは、体外式超音波のシルバーグシステム、体内式のベイザーなどがあります。レーザーも、それぞれ体外式と体内式があり、プラズマリポなどは体内式レーザーと位置付けてよいものと思われます。力学的エネルギーを使用するものは、ボディー・ジェットが有名です。そしてそれぞれ、良い点と悪い点があり、また、機器の種類だけでなく、術者の力量を含む、それらの使い方によっても、結果や術後の経過に差が出ます。そして、基本的に、体外式の超音波やレーザー機器は、チューメッセント法(ツーメッセント法,トゥーメッセント法,Tumescent Method)で注射する薬液の、脂肪組織内での拡散を良くするためのもので、脂肪組織そのものの構造に変化を与えるものではありません。これらの機器を使用すると、脂肪が軟らかくなり、脂肪吸引を行いやすくなるということが、頻繁に謳われていますが、それは、薬液の脂肪組織内での拡散が上手くいった事による、脂肪組織の粘着性や硬度の変化に過ぎません。

体内式超音波の機器として、最近流行しているのが、ベイザーです。 

このベイザーと言うのは、細長い棒の先から超音波を発振し、その先端に触れた脂肪組織を破壊する(砕く)機器です。この機器は、脂肪組織の破壊能力は非常に優れていて、脂肪組織は、絞るだけでも傷から出てきそうになります。しかし、このベイザーについては、いくつかの欠点があります。一つ目は、脂肪組織を砕くために挿入する棒の直径が太いことです。ベイザーの棒の中で、一番細いものは、直径が3mmあります。この直径3mmの棒は、一般的に顔面用とされ、ボディーには4mm以上のものを使用することが多いようです。直径が太いものを挿入するためには、必然的に皮膚の穴は大きくなり、さらに、それを挿入するための物理的な行為によって、神経や血管のダメージが増加します。実際、アメリカ美容外科学会の公式ジャーナルには、「In Vivo Endoscopy of Septal Fibers Following Different Liposuction Techniques Reveals Varying Degrees of Traumatization」と題して、脂肪吸引前の脂肪組織の処理法を、それぞれ比較しています。方法としては、手術終了後に内視鏡で皮下脂肪組織の中を覗いてみているのですが、それらの中で、ベイザーなどの超音波を使用した機器が、最も多くの神経や血管を切断しているという結果が出ています。この論文は、各種の脂肪吸引法、特に吸引される側の皮下脂肪の処理法について、4種類の方法を比較したものとして、大変興味深いものです。
1) チューメッセント法(ツーメッセント法,トゥーメッセント法,Tumescent Method)法で、皮下脂肪組織を処理する。
2) ベイザー、ボディージェット、パワーカニューレ、レーザー(体内式)、通常の脂肪吸引、の5つの異なる手術法にて脂肪吸引を行う。
3) 手術直後に、内視鏡で脂肪吸引した個所を覗き、一視野あたりの皮下脂肪層内残存繊維をカウントする。
4) 結果として、最も繊維の残存が多かったものは、パワーカニューレとレーザーを使用した脂肪吸引。次に通常のカニューレによる脂肪吸引。そしてベイザー。最も繊維を残せなかったのは、ボディージェットであった。
ということ。つまり、脂肪組織内の脂肪細胞選択性が高く、繊維を最も多く残せると謳われ、理論上はその通りであろうと思われていたベイザーやボディージェットが、通常のカニューレによる脂肪吸引に劣る結果であったということです。これは、ベイザーを使用した脂肪吸引の術後に、患者さんが通常の脂肪吸引以上に大きな痛みを訴えることと整合性があります。つまり、ベイザーは脂肪細胞以外の皮下脂肪組織の構造に、大きなダメージを与えているということ、すなわち、神経組織も多くダメージを受けており、強い痛みが発生するということです。
また、ボディージェットは、その水圧で脂肪組織を破壊すると同時に、止血剤を含む薬液を脂肪組織内に散布するのですが、どうやら、水圧で脂肪組織内の血管や神経を含む繊維成分を切断してしまっている可能性が考えられます。確かに、ボディージェットを使用すると、脂肪組織がフニャフニャになり、ハリを失っていることが自験例からも観察されています。
また、論文中、ベイザーとボディージェットという、これら2つの方法において、吸引されてきた脂肪組織が、多くの血液を含むという観察結果も示されていて、これらの方法は、手術による出血も多いと言えます。
これらのことから、脂肪吸引という手術そのものの優秀性を判断すると、比較的新しい方法であるベイザーとボディージェットは、新しいという商業的価値が存在するのみで、患者側にはメリットがないものであるということができます。