ふくらはぎ

ボトックスによって、ふくらはぎを細くした、20歳代前半のモニターさんです。まだ術後1か月の状態ですが、既に効果が十分に出ています。あと1カ月後に、細かいところまで、完成の領域に到達します。ふくらはぎのボトックスの効果については、完成は2か月後です。その間、筋肉が弛緩した後、ゆっくりとサイズが減少していきます。

ボトックス100単位 15万円

ボトックスと言うのは、正式にはボツリヌス・トキシン・タイプAという製剤です。これは、読んで字のごとく、ボツリヌス菌の出す毒素を製剤にしたものです。よく間違える方がいるのですが、ボツリヌス菌の菌体を注射するわけではなく、あくまでも、菌が放出する毒素を製剤にしたのが、ボトックスです。ボツリヌス菌の出す毒素には、上記のタイプAだけではなく、その他にもいくつかの種類があります。ちなみに、タイプBというのも製剤化されていて、こちらはアメリカで、「ミオブロック」という商品名で流通しています。また、ボトックスと言うのは、アラガンというアメリカの会社のボツリヌス・トキシン製品の商標で、その他にも、イギリス・イプセン社のディスポート、ドイツ・メルツ社のゼオミンなど、多くの製剤が商品化されています。

ボトックスは元々、筋肉の緊張を緩めるために開発された注射薬です。眼瞼痙攣や筋性斜頸などの治療に使用されていました。 

ボトックスの作用は、筋肉に繋がっていて、筋肉を縮める指令を出す神経と、筋肉そのものの間をブロックします。神経が筋肉に対して、筋肉を縮める指令を送る時には、神経の末端からアセチルコリンという物質を出します。そのアセチルコリンを、筋肉が受け取って、筋肉が縮むのです。筋肉がアセチルコリンを受け取るところを、アセチルコリン・レセプターと言います。ボトックスは、このアセチルコリン・レセプターに結びつくことで、筋肉が、神経の末端から放出されたアセチルコリンを受け取れなくします。そうすると、神経が筋肉を縮めようとしても、筋肉が縮むことがなくなり、いわゆる麻痺した状態になるのです。しかし、大きな筋肉を完全にマヒさせるには、大量のボトックス製剤が必要になりますので、通常の使用量では、筋肉を緩めるといった作用と考えたほうがいいでしょう。

美容外科・美容整形領域では、ボトックスが使用され始めたのは、顔面のシワを伸ばすという用途でした。 

顔面のしわには、表情によってできるシワと、表情に関わりなくできているシワがあります。ボトックスが使用される前までは、どちらもフィラー(コラーゲンやヒアルロン酸)で治療していました。しかし、表情でできるシワは、シワの溝の深さが注射の針よりも細かったり、フィラーで盛り上げても、次の瞬間に表情によって折り曲げられ、なかなか満足のいく結果が得られませんでした。それがボトックスの登場によって、シワの発生する箇所が折り曲げられることがなくなり、浅いものなら、そのまま皮膚の回復力によって消失し、深いものでも、フィラーとの併用によってしっかりと治療できるようになりました。

ボトックスは、美容外科・美容整形領域ではもっぱらシワ伸ばしに用いられていたのですが、その筋肉を緩める作用が、21世紀に入って、筋肉を細くする用途にも用いられるようになりました。 

最初にボトックスを、筋肉を細くする用途に用いたのは、ドイツの口腔外科医でした。彼は、いわゆる「噛み締め」のクセによって、歯の咬合面が摩耗し、顎関節症になっている患者さんの、エラの筋肉(咬筋)と、こめかみの筋肉(側頭筋)に、噛み締めを防ぐためにボトックスを注射しました。この時に使用されたのは、正確にはイギリス・イプセン社のディスポートという製剤です。そうすると、噛み締めの癖によって肥大化した、エラの筋肉(咬筋)やこめかみの筋肉(側頭筋)が、小さくなったのです。噛み締めと言う動作によって、常に筋トレされていたわけですから、それらの筋肉が肥大していたのでした。元々の治療目的は、顎関節症の治療だったのですが、ひょんなことから、筋肉を小さくする働きを発見してしまったというわけです。この治療は現在、美容外科・美容整形領域では、エラを小さくして、顔をスリムにする方法として定着しています。

ボトックスによって、ふくらはぎの筋肉が細くなることで、細く美しい脚を作ることができます。 

このような、ボトックスの筋肉を細くする作用を、エラではなく、ふくらはぎの筋肉に応用したのが、この、ボトックスによる美脚注射です。ふくらはぎの筋肉は、エラの筋肉とは違い、その体積が非常に大きいものです。したがって、注射するボトックスの量も多くなります。また、ふくらはぎの筋肉は、エラの筋肉が咀嚼に関係しているのと同様に、起立と歩行動作に重要な役割を果たしています。そこで、その大量のボトックスをふくらはぎの、どの部分にどれだけ注射するかということが、起立や歩行動作に不具合を発生させないために大切なことになります。そのテクニックを怠った場合には、最悪の場合、歩くことができなくなります。しかし、ボトックスの筋肉を麻痺させる作用は、約1か月間が最強で、4か月かけて次第に失われていきますので、一生、歩行困難な状態になることはありません。

ふくらはぎのボトックス注射によって、美脚効果が非常に長持ちする方がほとんどです。中には、10年以上の長期経過が良好な方もいます。 

美脚効果が長持ちする理由については、ふくらはぎが太くなってしまった原因と、それが現在も継続しているかどうかがキーポイントです。ボトックスの筋肉を麻痺させる作用の持続期間は、約4か月とされています。その後は、筋肉が動くようになるのですが、その際、その筋肉をよく使う状態になっていると、元の太さに戻ってしまいます。筋肉トレーニングをすると、筋肉が太くなるのと同じ原理で、筋肉を使っていれば、やがて元の太さに戻ってしまうのです。しかし、その筋肉をあまり使っていない状態だと、元の太さに戻ることはなく、細いままで、太くなるのが停止し、筋肉を細くするボトックスの効果が持続するということになります。これは、実際には、中高生の時にスポーツをしていてふくらはぎの筋肉が太くなってしまった人が、現在、そのスポーツをしていない時には、ボトックスの効果が、ほぼ永久に持続するということです。また、歩行時の姿勢の変化なども影響します。

ボトックスで筋肉が細くなる作用と言うのは、医学的用語で「廃用性萎縮」という現象を応用したものであるといえます。 

廃用性萎縮とは、使わない筋肉がその力を失っていき、細くなっていく現象のことです。この現象について、よく目にすることがあるのが、腕を骨折した時に、1か月ほどしてギプスを外すと、腕が細くなっていることです。ギプスをしていると、腕を使わないため、筋肉が細くなってしまったのです。この場合には、ギプスを外すと、以前と同様に腕を再び使うようになるため、やがて筋肉の太さは元通りに戻ってきます。
しかし、前出の、噛み締めのクセによる咬筋の肥大(エラの筋肉の突出)や、この症例のような、太くなったふくらはぎに関しては、少し事情が違ってきます。ボトックスの効果が存在している間に、噛み締める癖がなくなったら、咬筋の肥大は解消されたままになります。そしてそのことは、ボトックスが効いている間に、咀嚼の時に主体として使用する筋肉の構成が変化するため、頻繁に観察されることでもあります。また、ふくらはぎの場合にも、スポーツを止めていることや、靴の種類の変化(スニーカーからハイヒールへなど)によって、ふくらはぎの筋肉が太くなってしまった原因がなくなっているなら、筋肉の細くなった状態が、長期間または永久に保たれるということです。