えらボトックス

2000年代の半ばに、「ボトックスによる咬筋(エラの筋肉)と側頭筋(こめかみの筋肉)の縮小術」として、Plastic and Reconstructive surgeryという医学雑誌に論文が発表されてから、ボトックスによるエラの処置は、いわゆる小顔注射として、今や全世界的に行われるようになりました。

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発表された当初は、美容整形の章ではなくて、顎顔面外科の章に掲載されていたため、美容外科医で、この方法を始めるのは、ごく少数でした。しかし、それから約2年後、日本国内で開催された国際学会では、海外の美容外科医(特に韓国)からの発表が相次ぎ、やっと、日本国内でも多くの美容外科医が、えらに対するボトックス注射を始めるに至りました。

エラのボトックス注射で、一番多い副作用?としては、「頬がこけてしまった」というものです。これは、比較的、顔に肉付きの少ない方に多く見られます。そのような方は、顔の皮下脂肪が少ないため、顔の形を決定する要素として、皮下脂肪の占める要素が少なく、骨格と筋肉の占める要素が大きい方です。したがって、えらの筋肉を縮小させると、一気に骨格が目立つ形になり、頬がこけた顔つきになるのです。膨らませた風船から、空気を抜いてやるといった状況を、想像していただければ、よく解るでしょう。そのような場合には、えらの筋肉へのボトックス注射は、筋肉の後ろのほうに集中させる方法を採ります。たるみというのは、顔の前面に、ほうれい線やマリオネットラインとして発生すると、目立ちますが、首の近くだと目立ちません。そのために、このような、筋肉の前方の大きさはさほど減少させず、えらの部分を細くする方法を採ります。
顔の脂肪組織は、年齢とともに減少しますので、30歳以上の方は、要注意です。20代だと、まず、こけることはないでしょう。バッカルファットを取り除く手術を受けたことがある方は、慎重になったほうが良いかもしれません。また、頬がこけるかどうかを、初診の段階で診断するのは、非常に困難です。したがって、1回目で頬がこけたようになったのであれば、2回目のときに、必ず担当医にそのことを告げてください。

もうひとつの、比較的多い副作用は、「たるんだ」というものです。実際には、本人が自覚しているほどは、周囲からは分からないものなのですが、可能性としてはありえます。小顔にするということは、風船の中身を一部抜くのと同じことですから、多少の皮膚の余りは出現するでしょう。ここで、皮膚がゴムのようにしっかりと弾力性があれば、この、皮膚の余りは少なくて済みます。しかし、紙風船のように、皮膚に弾力が失われていると、皮膚の余りもたくさん出て、目立ちます。したがって、これも年齢によって、たるみが出るかどうかが決まってきます。おおよその目安に過ぎないのですが、20代はOK、30歳以降は要注意です。そして、皮膚が厚い人ほど、たるみは自覚しない傾向にあります。つまり、20代の男性は、ほぼセーフ(男性は一般的に、ホルモンの働きで、女性よりも皮膚が厚い)、50代の女性は、慎重にです。
先日記事に書いた、Gleeに登場するために、エラにボトックスを注射したフィリピン出身の18歳の天才少女歌手の場合、一緒にサーマクールを受けたそうです。サーマクールは、コラーゲンを増加させて皮膚を引き締める働きがありますので、理にかなった組み合わせだということです。しかし、18歳のアジア人に、エラのボトックス注射によってたるみが発生するかどうかは、非常に疑問です。この場合、皮膚の引き締めによって、より小顔効果を強調するためではなかったのかと思います。

エラのボトックスについて、悪いことばかり書いてきましたが、良いこともあります。歯ぎしりが治ることです。歯ぎしりは、夜間に不快な音が、周囲に迷惑をかけるのですが、本人は眠っているため、まったく自覚がないことがほとんどです。エラにボトックスを注射すると、この、歯ぎしりの音が小さくなるか、または消失します。
歯ぎしりについては、その音だけでなく、歯牙や歯周組織にも悪影響を及ぼします。長年の歯ぎしりによって、歯の咬合面が削れていき、エナメル質がなくなり、象牙質がむき出しになって、冷たいものが凍みたり、虫歯になりやすくなります。また、歯ぎしりによって、慢性的な強い力が、歯を通して歯槽骨や歯肉に伝わり、これらを圧迫して、細かな壊死を発生させます。その壊死に陥った組織は歯周病の原因菌に感染しやすく、歯槽膿漏などの歯周病に罹患します。
歯周病の予防は、正しい歯磨きでしっかりと歯の汚れを落とすことが、何より第一です。しかし、歯ぎしりをする方は、この、ボトックスの注射を加えることで、より高度な歯周病予防が可能になるわけです。

歯ぎしりをしなくなることのほかに、もうひとつ、おまけがあります。意外に思われるかもしてませんが、頭痛です。
しかし、すべての頭痛に対して有効ではありません。有効なのは、筋緊張性頭痛です。そのなかでも、咬筋の緊張による、筋緊張性頭痛です。
筋緊張性頭痛とは、首から上の、ある筋肉に、常に力が入っている状態(つまり、筋肉が緊張している)が原因で発生する頭痛のことです。この、筋緊張性頭痛ですが、こめかみが痛む場合には、多くは片頭痛と自己判断されていたり、あるいは誤診されている場合が多いのが現状です。
エラの筋肉が発達している人は、普段から噛みしめる癖があり、その癖が、咬筋(エラの筋肉)の緊張を招き、筋緊張頭痛を発症している場合があります。そのような場合には、エラのボトックス治療を受けると、頭痛が解消します。